日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は、EVに関する最新の調査レポートの日本語版、「持続可能なモビリティー社会の実現を目指して:EVシフトが加速する」を発表した。本調査は、IBMのシンクタンクであるIBM Institute for Business Value (IBV)が、世界9カ国1,501人の自動車業界のエグゼクティブへの調査と7カ国12,663人を対象とした消費者調査とを並行して実施された。 エグゼクティブの厳しい予想 本調査によると、調査対象の消費者の50%が今後3年以内にEVの購入を検討していることが明らかになった。一方で、消費者のEVの需要は高まっているものの、2030年までに自国のEV充電インフラが整うと予想したエグゼクティブはわずか13%で、EVへの移行にはまだ障壁があることも明らかになった。充電設備の利用可能性、信頼性、EVとエネルギーのコストといった主要な要因が、EV導入に影響を与えている。消費者の需要の高まりとインフラの必要性に応えるため、企業や政府は早急な対応が求められているようだ。 エグゼクティブ視点でのEV業界の展望 調査の主な要点は以下の通りだ。 【EVとICE車の逆転】 エグゼクティブは、2030年までにEVへの支出は61%増加し、販売シェアは40%になると予測している。また、2030年までに内燃機関(ICE: Internal Combustion Engine)車への支出は半減し、2041年までにその販売が終了するだろうと予測している。 【開発者と利用者の意識のギャップ】 EV購入の意思決定に関わる要因について、エグゼクティブと消費者の間では見解に相違がある。エグゼクティブは、顧客のEV購入の動機として、充電設備への容易なアクセス(67%)、環境に対する配慮(66%)、自宅で充電が可能(63%)などを想定している一方、消費者は自宅で充電が可能(63%)、維持費が少なくて済む(62%)、燃料費が少なくて済む(60%)を挙げた。 【充電設備不足が最大の懸念】 関心と需要が高まる一方で、消費者の57%が、公共の充電設備の不足を最大の懸念事項として挙げている。家庭での充電が主な充電手段になると予測する消費者は約半数(53%)に過ぎないため、EVの普及に伴い、職場や買い物先、旅行先などの目的地の充電スポット、自宅近くの共有型充電設備、走行途中に急速充電できる設備などバランスよく整備される必要がある。消費者の意欲と、政府や企業がより持続可能な交通手段を整備する力との間には、大きなギャップがある。 【止まる開発者のEVに対する意識】 EVプラットフォームなどの車両ITシステムが、EV事業で新たなコア領域だと考える従来の自動車メーカーのエグゼクティブの割合は30%に満たない。バッテリーをコア事業と捉える回答者も約40%にとどまったが、自動車バリュー・チェーン全体にわたる事業モデルの刷新は進行中。 結果から導く、これからの道筋 調査結果から、EVシフトに向けた自動車メーカーの短期プランニングに向けた具体的なステップを以下のように提示している。 EVに対する顧客のニーズを把握し、現在と今後のニーズとをどうすれば満たせるかを検討する。例えば、ターゲットとする市場のインサイトを検証し、ヒアリングなどを行い、顧客を理解する。 EV化へスムーズに移行できるよう、ターゲット経営モデルを精緻化し、ロードマップを詳細に描く。ロードマップに応じてリソースの配分を計画し、コストを管理しながらパートナーのリソースも活用する。 エコシステムのプレーヤーと協力して電動化に取り組む。例えば、消費者や業界の利害関係者に対し革新的な価値提案を行い、各関係者が充電ネットワークで果たすべき役割を明確にする。 やや抽象度の高いネクストアクションがまとめられているが、エグゼクティブの視点は、自動車業界を支える人のみならず、公共の充電スポットを設営する自治体や各種団体などの数多くのステイクホルダーにも重要な道標を示していると言えるだろう。
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