#走行中給電
TEXT:桃田 健史
東大が実施中の国内初公道実証が国際規格化へ弾み。東大オープンキャンパスで技術詳細を聞く

夢のEV充電(給電)方法とも言われる、走行中充電(給電)。国内初の公道走行実験が行われている千葉県柏市で東京大学関係者らに実験に関する詳しい内容と、今後の見通しなどについて聞いた。 4年ぶりのオープンキャンパスで各種機器公開 東京大学が走行中充電(給電)の公道実験に乗り出した。 そんなニュースが2023年10月上旬に明らかになった。 それから数週間後の10月下旬、東京大学柏キャンパスではコロナ禍を経て4年ぶりにオープンキャンパスと呼ばれる一般公開で、各種研究所の成果を広い世代に向けて紹介するイベントが開催された。 そうした中、東京大学大学院 新領域創成科学研究科の藤本・清水研究室を中心とした走行中充電(給電)のデモンストレーションが柏キャンパスで実施された。 これに合わせて、走行中充電(給電)に係わる各種車両の機器も公開され、同研究室関係者らが来場者に詳しく説明をした。 受電・送電のコイル出力は最大25kW まず、走行中充電(給電)の仕組みについて、紹介パネルには「スマホ『置くだけ充電』と同じ原理」であるワイアレス給電、と表現されていた。科学的な名称としては電磁誘導である。地中に埋めた送電コイルから、車体下部の受電コイルに対して給電する。 今回の公道実験は、国土交通省が公募した社会実験の中で「電気自動車への走行中給電による低炭素道路交通システムの実現のための実証実験」である。 送電コイルを埋設した場所は、柏キャンパスからクルマで10分ほどの距離にある、つくばエクスプレス・柏の葉キャンパス駅近隣の商業施設「ららぽーと」前のT字路。交差点の30mほど手前だ。 送信コイルはケースの中に入れてあり、地表から約3㎝ほどの位置に設置。周辺をコンクリートで覆っている。 一般的なアスファルト舗装ではコンクリートより柔らかいため、通過交通が増えると道路表面が変形する可能性がある。 実際の作業としては、道路に長方形の大きな穴をあけて、そこに送信コイルを埋設したコンクリートの塊を重機ではめ込む。 現在、公道走行用の車両はトヨタ「ハイエース」と「RAV4 PHEV」の2台。その他、キャンパス内で走行する実験車両の合計3台が走行中充電(給電)対応となっている。 コイルの出力は1つ25kW。これを左右後輪の内側に近いサスペンションアームに取り付けてある。この位置だと、サスペンションが可動しても地上高の変化が少なく、受電・送電が安定的に行うことができる。 今回のデモンストレーションでは、出力を1.5kWに落として行った。 タイヤの内側に受電コイル装着の試験も 今回の展示では、ブリヂストン等と共同研究を進めている、タイヤ・ホイールの内側に受電コイルを設定するシステムの実機も公開された。 このシステムでは、地表との距離が短いため受電・送電の効率が安定することが考えられる。 こうした様々な方法で走行中充電(給電)について、民間企業各社や道路管理者などが共同で実用化を目指すとした。 走行中充電(給電)で重要な点は、受電・送電の出力と通過速度とのバランスだ。 通過速度が低ければ、充電(給電)する時間が長くなる。 そのため、今回の柏市内での実証実験のように、信号で止まったり、またはT字路でゆっくり走行するとったシチュエーションでの充電(給電)の効率を検証している。 実用化の可能性としては、走行ルートが決まっている路線バスが有力な候補として考えられる。 また、高速道路での可能性は、登坂車線のような充電(給電)専用で速度を落として走行する専用レーンを設ける、といったアイディアもあるだろう。 走行中充電(給電)については現在、日本のほか、スウェーデンがドイツなど欧州各国と連携する動きがある。 そうした中、国内的な技術としての規格化(標準化)に向けた動きも出てきているようだ。柏市での実証実験が、そうした国際連携の中で果たす役割は大きい。

TAG: #充電インフラ #東京大学 #走行中給電
TEXT:桃田 健史
EVの走行中給電を東大が日本発の公道実証実験へ 。普及が進まない背景にも迫る

東京大学大学院と民間企業各社が共同で進める「走行中給電システム」の研究が大きな転換期を迎えた。東大・柏の葉スマートシティ(千葉県柏市)で日本初の「公道での実験」を開始すると、2023年10月3日に発表された。今回は量産化に向けてどのような可能性があるのか? 約5年の研究を経て社会実験へ 今回の実証は、東京大学、柏市、その他の関係機関と「柏ITS推進協議会」の枠組みによる「電気自動車の走行中給電技術開発の取り組み」として実施されるものだ。 関係機関とは具体的に、ブリヂストン、日本精工、ローム、東洋電機製造、小野測器、デンソー、三井不動産、SWCC、カーメイト、そして千葉大学の研究室を指す。 2018年から、これら関係者と東大が走行中給電システムを開発してきた。 また、2019年からは国土交通省の「スマートシティモデル事業(先行モデルプロジェクト)」の選定を受けている。 こうした共同研究開発の流れを受けて、今回の実証は国土交通省「道路に関する新たな取り組みの現地実証実験(社会実験)」として採択され、2023年10月から2025年3月まで、柏の葉キャンパス駅西口至近の市道で実施するものだ。 3つのポイント 本実験のポイントは大きく3つある。 ひとつ目は、様々な車両で使えること。EVでも、プラグインハイブリッド車でも使用可能なシステムとした。 二つ目は、標準化を目指すこと。例えば、待機電力を極力小さくして車両検知を短時間で行う新しい車両検知システムを開発している。 そして三つ目は、コイルと路面を一体化したプレキャストコイルの耐久性を検証することだ。 こうした走行中給電の実用化に向けた新しい試みには大いに期待したいところだ。 一方で、走行中給電や、EV等の電動車における非接触給電については、2010年代前半から中盤頃と比べると、近年は実用化に向けた話題が日本国内ではあまり聞かれなくなった印象がある。 その背景には何があるのか? まず、EV等の電動車における非接触給電については、2000年代末から2010年代頭に三菱「i-MiEV」と日産「リーフ」登場した後に、各種のベンチャー企業が独自に、または大手自動車メーカー各社と共同開発する形でプロトタイプを公開した。 当時、日米欧の各地でそうした非接触給電プロジェクトについて詳しく取材した。 標準化の議論についても、米自動車技術会(SAE)の関連シンポジウムに定常的に参加して、その動向を追った。 だが、EV自体の普及がグローバルでなかなか進まない中、非接触給電の量産効果が見込めないという時代がしばらく続く。 その後、2010年代後半になり、グローバルでESG投資(環境、社会性、ガバナンスを重視する企業経営や投資に対する考え方)が拡大したことで、EV需要が一気に高まったものの、EVの搭載バッテリー量の大型化に伴い、充電については急速充電器の高出力化に重きが置かれるようになった。 直近では、2023年になってから、複数の日系自動車メーカーの電動化システム関係者に対して非接触充電の普及の可能性を聞いたところ「コストメリットと利便性において、従来の充電方式と併行して、またはとってかわって広く普及するには、まだかなり時間がかる」という回答だった。 非接触型と接触型での走行中給電 一方で、走行中充電については、非接触型と接触型の大きく2通りがある。 前者については、2010年代前半から、韓国の国立大学であるKAIST(韓国科学技術院)が精力的な研究開発を進めていた。実際、同大学の担当研究室を取材し、技術的な詳しい話を聞いた。 だが、現時点で韓国では、同技術の本格的な普及には至っていないのが実状だ。 また、接触型の走行中給電では、スウェーデン政府関連機関が高速道路の一部でパンタグラフ式装置を使った大型トラックで実証実験を行ったり、ホンダは日本国内の自動車関連施設でホンダ独自の方式で研究開発を進めているところだ。 こうした各方面での走行中給電システムに、今回の柏の葉での実証実験が加わることで、走行中給電の社会受容性の検証と、規格標準化による実用化が促進されることを大いに期待したい。

TAG: #充電インフラ #東京大学 #走行中給電

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