旋回性能を極めたユニークな3輪EV
バイクに乗ったことのある人なら、コーナリングの快感を知っているはずだ。身体ごと傾け、路面を感じながら弧を描く感覚は、4輪のどんなスポーツカーとも異なる。しかし、その「曲がる楽しさ」を4輪の世界でも実現しようとしたメーカーがある。ヤマハ発動機だ。

ヤマハ発動機は国内屈指の2輪メーカーだが、長年にわたって4輪の世界を強く意識してきた歴史がある。かつてはトヨタ2000GTのエンジン開発で技術を磨き、1991年にはF1用V12エンジン(排気量3498cc)をミッドシップに搭載したスーパーカー「OX99-11」を発表、市販化を目指したこともある。しかしバブル経済の崩壊とともに計画は幻に終わった。それでもヤマハは4輪への関心を捨てなかった。そのDNAが、JMS2025で新たな形として動き始めていた。

<後輪が「逆向き」に動く、驚きの旋回体験>
2025年10月に開催されたジャパンモビリティショー2025(JMS2025)で、ヤマハ発動機が世界初公開したのが「TRICERA proto(トライセラプロト)」だ。フロント2輪+リヤ1輪という「リバーストライク」構成の3輪EV(電気自動車)で、屋根のないフルオープンボディを持つ実走コンセプトモデルである。2023年の同ショーでスタティックな展示として注目を集めた「TRICERA」を実際に走行できる段階まで開発を進めた実走プロトタイプとなる。3輪という構成はEVの小型化・軽量化とも相性がよく、車両重量を抑えながら旋回性能を最大化できる。ヤマハが2輪で磨いてきた「軽快さ」を4輪的なパッケージに持ち込もうとする試みでもある。

最大の特徴は3WS(3輪手動操舵)だ。通常の車両は前輪だけを操舵するが、TRICERA protoは前後輪をともに操舵できる。コーナリング中、前輪と逆方向に後輪を向けることで旋回応答性が飛躍的に高まり、ドライバーの意図に車両が瞬時に反応する。ヤマハ発動機は「前後輪操舵可能な車両の特徴である旋回応答性の高さと旋回時のドライバー感覚とのつながりに着目し、人間研究視点でもっともFUNを感じる旋回制御とすることで、異次元の人機一体感を実現した」と説明している。

さらに本車が体現しようとしているのは、「感性に訴える刺激的な旋回性能と、意のままに操るための習熟プロセスさえ楽しい3WS」というコンセプトだ。前輪だけを操舵する4輪車に慣れたドライバーにとって、後輪まで意識してコーナリングをコントロールするには習熟が必要だ。しかしTRICERA protoはその習熟の過程そのものを娯楽化し、操作に習熟するほど感性に呼応した旋回体験が深まるよう設計されている。単に扱いやすさを追求するのではなく、習熟そのものを楽しさとして設計している点がユニークだ。

ヤマハが「新感覚の操縦感」と表現する体験は、単なる乗り物の操作ではなく、ドライバーの意志と車両の動きが対話する感覚に近い。習熟の喜びと感性的な刺激が同時に訪れる——これはヤマハが長年掲げてきた「人機官能」の思想を表現した結果だ。ドライバーと車両が次第に一体化していくプロセスを「楽しみ」に変えるという発想は、2輪車のコーナリングを深く研究してきたヤマハならではのものである。




















































