EV普及の鍵はバッテリーが握っている
前置きが長くなったが、マンガンはまた、コバルトやニッケルに比べ資源としての価格が安い利点がある。そこで、マンガンの使用量を増やすことで原価低減をはかろうというのが、LMRバッテリーだ。
韓国のLGと共同で開発してきたが、これまではリーフのバッテリーと同じパウチ型で進めていたのを、箱型としたことで容量の増加に成功したという。それは単にパウチ型か箱型かの優劣ではなく、電極を短冊形とした日産に対し、LGは円筒形のように電極を巻いた形状をパウチに収めていたため、折れ部分での充放電性能が十分でないためではないか。
箱型として容量が増えたとはいえ、マンガン比率を増やしているので、3元系と同等の容量とまではいかないはずだ。30%以上の容量増という意味は、もともと容量で3元系に比べ劣るとされるLFP(リン酸鉄)と比べての話になる。
つまり、3元系の電極を基本としながら、マンガン量を増やすことで原価を下げ、そのうえでLFPより容量の多い設計を目指したということなのだろう。
LFP(リン酸鉄)も、本質的な容量の小ささは認めながら、たとえばBYDのブレードバッテリーのように、電極のつくり方や、車載の仕方で、消費者が納得しやすい一充電走行距離を確保している。ただし、車載量が増えるため、車両重量増になる傾向だ。
車両重量増は、日本の都市部のような立体駐車場では、パレットの重量制限が2.5トン前後となるため、上級車種では難しい面もあるかもしれない。しかし、米国のような広大な土地でパレットに載せるような駐車の仕方は限定的になるだろう。ならば、車両重量が重くなっても、安くて、納得できる走行距離を得られるリチウムイオンバッテリーの実現は、台数を稼げるピックアップトラックのEV化において急務となる。
原価低減という取り組みは、どのような商品でも売り上げを伸ばすためには不可欠であり、常に取り組むべき企業の仕事である。EVのリチウムイオンバッテリーについては、地域の事情も加味したうえで、最適な部品を選ぶことが大切だ。
ことに日本においては、クルマの使われ方や駐車の仕方に、欧米と違った地域性がある。原価や性能といった数字だけで良し悪しを判断するのは、評価を見誤る懸念がある。同時にまた、EVの原価は、適切なバッテリー容量で実現できるのであり、それは充電基盤整備と深い関係をもつ。
つまり、基礎充電といわれる自宅や勤務先で200Vの普通充電を誰でもできる社会を創ることが先決で、急速充電器の高性能化はその次の課題である。基礎充電が不十分なまま、いくら急速充電器を増やしたり高性能化したり、安いかわりに重いバッテリーを使っても、日本でのEV普及は見通せないと理解すべきだ。