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減速機構はEVにも必要
この、最終減速比はEVでも必要だ。変速機は不要でも、デファレンシャルは各車輪にモーターをもつインホイールモーターなどでなければ必要になり、そこに最終減速比に相当する減速機構が装備されている。
直径の異なる歯車をいくつも使って変速することは不要でも、歯車の直径比を使った減速という技術は、EVでも使われているのだ。
ところで、変速機が不要なのはEVだけかというと、ハイブリッド車(HV)でもすでに変速機は使われていない事例がある。
世界初の量産市販HVであるトヨタ・プリウスにも、歯車を使う変速機は装備されていない。代わりに、動力分割機構として遊星歯車を使う機構にモーター/発電機をふたつ設置し、そのひとつを変速機代わりとしている。このため、変速機の扱いについては電気式無段変速機といういい方をする。
日産が採用するシリーズ式ハイブリッドのe-POWERも、いわゆる機械式の変速機はもたない。一方で、ホンダの初代インサイトなど、ひとつのモーターでハイブリッド化した車種では変速機を備えている。
そして、EVでも最高速が時速200kmを超えるような高性能車では、2段変速の歯車が用いられている。たとえば、ポルシェ・タイカンがそれだ。
以上のように、EVやハイブリッド車になると、変速機がまったく不要になるわけではないが、一般的なEVにとっては必要のない部品になる。
とはいえ、変速機を製造する企業がもつ歯車の技術は、減速機としてEVでも必要であり、なくなることはないだろう。
さらに、モーター駆動を主力としたEVやHVは、モーターを加速だけでなく回生を利用した減速にも利用し、加減速はエンジンを主動力としたHVやエンジン車に比べ、はるかに頻繁に行われる。つねに加速と減速という逆の回転力が、歯車を組み合わせた減速機に伝えられることになる。
一般に、歯車の組み合わせは組み付けの都合や耐久性確保などにより若干の隙間があり、それがゆえに、加速から減速、また減速から加速へ切り替わる際、バックラッシュと呼ばれる衝撃が出やすい。
しかし、より頻繁に、ほぼ常時といえるほど加減速を繰り返すEVやモーター駆動を主力とするHVでは、そのバックラッシュが振動や騒音のもとになって快適性を損なうことになる。そのことから、変速をより滑らかに行えるよう進化してきた変速機製造会社の精緻な歯車の組み付けという技量が、EVの時代においても重要な匠の技となるのではないか。
静粛性と滑らかさがより重要性を帯びるEVで、見逃すことのできない部品メーカーの力といえるだろう。