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中国の電気自動車「BYDシール」のリアルな航続距離と充電性能は? AWDモデルを長距離走行してテストした


TEXT:高橋 優 PHOTO:EV NATIVE/THE EV TIMES
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RWDとAWDの電費の乖離が大きい

【総評】

まず、航続距離テストについて、若干雨が降っていたという点、外気温は平均4℃程度、最低気温は1℃まで下がっていたこともあり、EVの電費という観点では厳しいコンディションだったはずです。そして、シールAWDのもっとも信用に値するEPA基準の航続距離は、米国で未発売ということもあり公表されていないものの、独自の計算式から450km程度と概算可能。よって真冬に暖房を常時使用、なおかつスタッドレスタイヤを装着するとカタログスペックを大幅に下まわる結果ということになりました。

さらに個人的に気になるのが、夏場に検証したRWDグレードとの電費の乖離です。RWDでは外気温平均が28.5℃で約7.12km/kWhという電費を達成。これは満充電あたりの航続距離に換算しておよそ588km走行できることを意味します。よって、今回のAWDグレードの真冬の検証では、夏場に検証したRWDグレードと比較しても約41.5%もの電費悪化が確認された格好です。これは冬場という点を踏まえても乖離が大きいことから、おそらくシールは前輪にモーターを追加したAWDグレードの高速走行時における電費性能がかなり悪いと推測できます。この高速走行におけるAWDの電費改善という観点はBYDの課題であるといえそうです。

次に、充電性能テストについて、150kW級の急速充電器を使用した場合、充電時間は39分程度を達成しました。これは夏場にRWDグレードで検証した際の40.5分と比較しても同等以上の充電性能であり、真冬に高速走行したあとでも充電性能にまったく影響を与えないというシールの急速充電性能の安定性が見て取れるでしょう。

その一方で、30分間の充電時間で回復可能な航続距離を、航続距離テストの結果である344kmから概算すると、およそ185km。個人的にEVの経路充電において最低限必要な充電性能を「30分充電すると300km程度の航続距離を回復可能」と定義しているため、その意味においてかなり物足りない充電性能であるといえます。とくに日本国内で普及している90kW級を使用すると、30分充電したとしても冬場は約154kmぶんしか充電できないとイメージしてみると、冬場の電費の低さをカバーできていない印象です。

私は繰り返し主張していますが、急速充電性能というのは対応出力の高さや充電時間の短さだけではなく、そのEVの電費との掛け算で決定されるものであり、その意味において今回のシールAWDは電費の低さが急速充電性能の評価の足も引っ張ってしまっているのです。

テストのようす

また、私がEV性能とは別の評価軸として独自設定している6つの項目についても確認しましょう。

・乗り心地:8/10ポイント
AWDグレードのみ可変ダンパーが搭載されていることで、段差の突き上げもよりマイルドに。ただしスポーツセダンとしてはフワフワ感強めに感じる。

・静粛性:7/10ポイント(100km/h:65-66dB・120km/h:68-70dB)
フロント窓ガラスに2重ガラスを採用しており一定の静粛性を実現するものの、とくに競合のモデル3対比では静粛性で劣る。

・自動運転支援機能:6.5/10ポイント
前車追従は悪くないもののレーンキープの精度が低い。今後採用される見込みの最新ADAS「God’s Eye」に期待。

・音響性能:7/10ポイント
Dynaudio 12スピーカーシステム(サブウーファーあり、システム出力775W)
重低音はパンチあり。他方で高音域のクリア感に欠けるのでバランスはあまりよくない。日産アリアなどのBOSEシステムに似た音響システム。

・回生ブレーキのフィーリング:5/10
シールはワンペダルドライブ不可。回生力も弱くブレーキペダルを多用せざるを得ない。さらに停止直前に摩擦ブレーキとの兼ね合いか、どうしてもカックンブレーキになってしまう。

・小まわり性能:6/10
最小回転半径は5.9mとホイールベースが2920mmであることもあり取りまわしはよくない。ただし全幅が1875mmとそれほど大きくないので、都心部でもさほど気にする必要はない。むしろ2210kgの車重による機械式駐車場への対応のほうが購入の際の最大のボトルネック?

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