日本メーカーのEVは800Vシステムを採用していない
また、2点目の転換点が、充電器側ではなく電気自動車側にあります。これまで日本国内では、450V以上での高電圧充電ができなかったことで、じつは日本メーカーは、EV側の高電圧対応で後手後手にまわっていたのではないかと見ています。
実際に2024年末になっても、トヨタ、ホンダ、日産は揃って800VシステムのEVを1車種も発売することができていません。それに対して、ドイツ・フォルクスワーゲングループ、韓国・ヒョンデ、そして中国勢は800Vシステムを採用するEVをラインアップ済みです。とくにタイカンとe-tron GTという高性能EVをラインアップするフォルクスワーゲングループでは、2019年からタイカンの生産をスタート。さらにヒョンデは普及価格帯のIONIQ5に対して800Vシステムを採用して、2021年から生産をスタート。ちなみにトヨタは800Vシステムの導入について、レクサスが2026年末までに生産をスタートする見込みの中大型セダン「LF-ZC」の市販車モデルに初採用する公算です。
そして、EVの販売台数という観点を見ると、同じミッドサイズSUVセグメントで、先に発売をスタートしているIONIQ 5が、あと出しのアリアやbZ4Xよりもグローバル全体では好調な状況です。800Vシステムによる超急速充電への対応という付加価値が、IONIQ 5の魅力のひとつになっており、その上で、ヒョンデグループ全体で800Vシステムの量産規模を拡大することによって、800Vシステムを採用するEVの生産コストを抑制。今後のEVシフトにおける価格競争力で、これから量産体制を構築する日本勢よりも優位に立てるわけです。
つまり、今回の450V以下という自主制限の影響が、日本メーカー勢のEVの競争力を削いだという見方ができるのです。
とはいうものの、今回の要件緩和によって、ついに日本国内で発売されていく新型EVで800V級の超急速充電が可能となるわけです。その候補として、じつはすでに日本国内で発売中のポルシェ・タイカン、アウディe-tron GT、ヒョンデIONIQ 5、およびBYDシールは、システム電圧が550Vを超えていることから、800V級の高電圧充電器の恩恵を受けることが可能なポテンシャルを有しています。
その一方で、日本仕様のタイカンとe-tron GTの場合、海外仕様とは異なりDCDCコンバーターを搭載していないため、400V以上の急速充電には対応することはできません。今後のモデルチェンジでも対応に期待するしかありません。
しかしながら、IONIQ 5とシールの場合、モーターの巻線を使用した昇圧方法を採用しており、充電インレットの一部ハードの取り替えやソフトウェアアップデートは必須であるものの、どちらもモデルチェンジ時の対応が比較的容易であり、この保安要件の緩和によって、800Vシステム対応を行うもっとも早いメーカーとなる可能性が高いです。
なかでもBYDは、2025年の早い時期にミッドサイズSUVのSea Lion 07の発売の可能性が噂されています。このSea Lion 07にはe-platform 3.0 evoという最新プラットフォームが採用され、シールよりもシステム電圧が上がっているため、Sea Lion 07の性能を最大限活かすためにも、800Vシステムの対応はマストです。
もしかしたら日本国内で発売される初の800Vシステム採用EVはSea Lion 07になるかもしれません。