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「EVシフトの踊り場」議論を一蹴! EVシフトに向けて本気のホンダが投入する「10兆円」で何が起こる?


TEXT:高橋 優 PHOTO:EV NATIVE/THE EV TIMES
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日本勢で唯一EVシフト宣言しているホンダの動向に注目

また、日本市場に関しては、小型EVのラインアップを拡充する方針を表明。2024年秋にも商用軽EVセグメントであるN-VAN e:を皮切りとしながら、さらに2025年中には、N-ONEをベースとした軽自動車セグメントのEVを発売予定です。その上で2026年中にも、さらに小型EVを2車種もラインアップする予定です。それこそ日産サクラと比較して、どれほどの販売台数を実現できるのかには注目です。

ちなみに日本市場についてもゼロシリーズをラインアップしていくと発表されています。果たして、日本に導入されるゼロシリーズ第一弾はどのセグメントとなるのか。おそらく小型SUVなどになるものと推測可能ですが、2020年代後半については、軽EVだけではなく、さまざまなEVを日本で購入できるようになる見込みです。

ホンダのビジネスアップデート

そして、今後発売するEVの生産コストを大胆に引き下げるために、バッテリーと生産方式というふたつの観点で改善を行うと説明しました。

まず、バッテリーコストの引き下げについては、現在ホンダの開発範囲であるモジュールやパック、バッテリーシステムというスコープから、北米で建設中である韓国LGとのバッテリー生産工場の2025年中の稼働によって、バッテリーセルの生産までをスコープします。そのうえで2020年代後半については、POSCO Future Mと協業して正極材の供給体制で合弁体制を構築。さらに旭化成と協業して、セパレーターの供給体制で合弁体制を構築するなど、バッテリーセルの製造とともに、セルを構成する材料、さらには資源の供給体制も含めてスコープ範囲を拡大することによって、バッテリーに関する垂直統合型のバリューチェーンを確立します。それによって、従来比で20%ものバッテリーコストの削減を実現する見込みです。

ホンダのビジネスアップデート

また、ホンダについては生産方式の革新として、一体成型技術であるメガキャストを導入する方針も表明しました。他方で競合とは異なり、まずはバッテリーパックのケーシングに対して6000トン級のメガキャストを導入する方針です。大型アルミ部品であるバッテリーケースにメガキャストを採用することで、これまで60部品を溶接して構成していたケースを5部品にまで簡素化することに成功。バッテリーパック全体の薄型化に大きく貢献すると説明しています。

その上で2028年に稼働する予定のカナダのEV専用工場においては、バッテリーケースに対するメガキャストだけではなく、さらにボディ鋳造に対してもメガキャストを拡大適用する方針も表明。ホンダは修理性についても懸念視しており、それに対応するともしており、競合と比較してどのような修理性を実現してくるのかには注目です。

いずれにしても、これらの生産工程の革新によって生産コストを35%も削減するという目標も設定しました。EVのコストを大きく引き下げるために、バッテリーのサプライチェーンの垂直統合、およびメガキャストによる生産工程の革新を行う方針です。

ホンダのビジネスアップデート

また、ホンダは自動運転に対しても新たな方針を打ち出しました。サモン機能によってクルマを呼び出したり、乗り捨てすることを可能としながら、一般道におけるハンズフリーADAS機能を搭載。高速道路上におけるレベル3自動運転、つまりアイズフリーについてを拡大適用し、たとえば対応車速の上限を引き上げたり、運転中に会議ができるようにするなど、すでにレジェンドで採用していたレベル3自動運転機能をさらに強化する方針です。この自動運転テクノロジーについては、2026年に発売されるゼロシリーズのサルーンから投入される見通しです。

ホンダのビジネスアップデート

そのうえ、車載OSについても内製化を実現する方針を堅持しました。EVプラットフォームとともに、E&EアーキテクチャーについてもコアECUに集約した中央集権型の設計を採用することで、より複雑なシステムのOTAアップデートをはじめとして、よりユーザーのニーズにきめ細やかに対応可能となります。

また、その自動化、知能化におけるコアテクとなるSoC半導体についても、やはり設計開発を外部サプライヤーに丸投げすると、その後のカスタマイズが不可能となることから、独自で設計開発を手がける方針を表明しました。

ホンダのビジネスアップデート

すでに発表されているIBMとの提携関係については、このSoC半導体の開発に関する提携であり、2020年代後半に実装されていく見込みです。SoC半導体を含めたE&Eアーキテクチャーや車載OSというソフトウェアの独自内製というアプローチが、ホンダ単独で本当に実現することができるのか。すでにフォルクスワーゲンについては、この開発が完全に混乱中であり、2026年以降に発売する中国市場専売EVに対しては、XpengのE&Eアーキテクチャーを採用しているような状況です。いずれにしても、ホンダのEVシフトにおける正念場がこの部分となってくることは間違いないでしょう。

XpengのE&Eアーキテクチャー

※フォルクスワーゲンはXpengに出資することで、XpengのE&Eアーキテクチャーを採用。2026年中に中大型SUVを発売する予定。

そして、これらの電動化戦略に対応するために、ホンダは2021年から2030年度までの10年間で、電動化・ソフトウェアに対する投資額を10兆円にする方針を表明しました。これまでホンダについては投資規模を5兆円としていたことから、投資計画が倍増されることになった格好です。まさに、2040年までの完全EVシフトを行っていくための、不退転の決意の表れであるように感じます。

それと同時に、バッテリー関連のサプライチェーンの垂直統合、およびソフトウェア領域の独自内製というアプローチに、ホンダが想像以上にコストがかかるという認識が、この数年間で強まったという見方も可能です。

確かに足もとのハイブリッド車の売れ行きが好調なことから、その売り上げによって10兆円もの投資規模を確保するとしながらも、本当に予定どおりに、その電動化のアプローチが進んでいくのか。10兆円以上に膨れ上がってしまった場合、ホンダ独自では投資規模を捻出できずに、混乱が発生する可能性がないのか。

フォルクスワーゲンやトヨタのように、車載OSをはじめとするソフトウェアの独自開発で遅れが発生する場合、その後に発売するすべてのEVの発売計画に影響が出ることで、ホンダのEVシフト全体のタイムラインに深刻な悪影響が出る可能性もあります。

日産とホンダの協業検討の発表会

※ホンダは日産と提携関係を模索中。おそらくEV専用プラットフォームやE&Eアーキテクチャー開発で投資規模を抑えるために提携したいのではないかと筆者個人的には推測しています。国内の軽EV開発などでも提携関係があるのかもしれません。

いずれにしてもホンダについては、完全EVシフト目標を堅持するメーカーとして非常に期待できる存在であるものの、足もとのEV販売状況については極めて深刻です。とくに中国市場における販売減少具合はいわずもがなです。

果たして、次世代EV開発のタイムラインは順調に推移するのか。仮に予定どおりに開発が完了して、販売シェアが大きい中国市場など、本当に魅力的なEVとして販売台数に結びつくのか。この点は、実際の開発されたEVのスペックやコスト競争力をはじめとして、販売台数の動向を見るより他ありません。

日本勢で完全EVシフトを唯一宣言しているホンダのEVシフト動向については、もっとも注目できる存在なのかもしれません。

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