ヤマハの水素V8エンジンを搭載か?
今回トヨタから発表されたGR H2 Racing Conceptの詳細は、パワートレインが水素エンジン+ハイブリッドシステム、全長が5,100mm、全幅が2,050mmというものだけで、搭載するエンジンの詳細の発表はなかった。
しかし、「レース用水素エンジン」と聞いて真っ先に思い出したのは、2021年にヤマハから発表されたV8の水素エンジンだ。レクサスRC Fなどに搭載される4,968ccの排気量を持つ2UR-GSEエンジン(481ps/535Nm)をベースに燃料系を水素化し、最高出力335kW(455.5ps)/6,800rpm、最大トルク540Nm/3,600rpmを発揮する。
しかもヤマハが「トヨタからの委託」により開発したこのユニットは、迫力ある排気音にも力を入れている。ヤマハのリリースにも「特徴的な8in1集合排気管が奏でるハーモニックな高周波サウンド」とある。
このエンジンは、ベースエンジンと違い吸排気系が逆になっており、バンク内に排気管が集まっていることも興味深い。「ハーモニックな高周波サウンド」のためにクランクシャフトもクロスプレーンからフラットプレーンに変更されているのだろうか。
しかもヤマハ発動機はあの「天使の咆哮」と称されるレクサスLFAのV10エンジン「1LR-GEU」を手掛けていることも忘れることはできない。トヨタとヤマハの関係は、1967年発売のトヨタ2000GTを共同開発してから脈々と続いている。
100周年を迎える今年のルマンでは、決勝前にマツダ787Bが本コースでデモランを行う。レシプロエンジンとは異なる独特のサウンドを持つ4ローターNAのR26Bエンジンは、アイドリングこそ獰猛で不揃いの音を発するが、高回転域に達するにつれて甲高い雄叫びをあげ、観衆を魅了する。
1991年に総合優勝を達成したこのロータリーレースカーを走らせるのは、皆きっとサーキットに甲高い排気音をと、心の片隅で願っているからではないだろうか?
数年後かもっと先の未来になるのかは分からないが、ルマンの歴史上最もクリーンなレースカーがトップチェッカーで総合優勝を飾る。そのマシンがヤマハの水素エンジンを積んだトヨタのGR H2 Racingだったら。100年超の歴史を持つ伝統あるレースに、787Bにつづき自動車史に語り継がれる勝利を掴んだ1台となるだろう。