EV専業メーカーであるテスラは、自動車業界にOTA(Over the Air)、ギガプレス、シンプルさを極めたインテリアという、これまでのエンジン車にはなかった新たな価値を生み出してきた。そして多くの自動車会社や新興メーカーがそのあとを追う展開になっている。ここではその新しい価値を振り返ってみたい。 スマホアプリのように新機能を追加できるOTA ひとつ目に挙げるのはOTAだ。テスラのOTAを知って衝撃を受けたのは、2016年頃にモデル Sのバッテリー容量をOTAで増やせることを知った時だ。ゲームアプリで新しい装備を課金して手に入れるように、9,000ドル(当時のレートで約99万円)を払ってアップデートすれば、その場ですぐに60kWhから75kWhにバッテリー容量を増やすことができた。もちろんテスラのディーラーに入庫する必要も、車を買い替える必要もない。 なぜこれが出来るのかというと、はじめから75kWhのバッテリーを積んでおいて、60kWhに制限しておき、その分車両本体価格を抑えて販売しているからだ。これにより、もし職場が自宅からより遠い場所に変わって通勤距離が伸びても、車を変えることなく、バッテリーを75kWhにアップデートすれば良いという具合に対応できる。 このOTAは、トヨタでも導入されている。ノアやヴォクシーでハンズオフ機能付きアドバンストドライブが、OTAによるソフトウェアのアップデートで利用可能だ。 これまでメーカー側はクルマを売った後に収入を得ることはできなかったが、それをも可能にした画期的なシステムだ。 70もの部品を1つにまとめたギガプレス 2点目に取り上げるのはギガプレスだ。モデル 3ではリヤアンダーボディ部を70個の部品で構成していたが、ギガプレスの採用によりモデル Yでは1つにまとめられている。従来のクルマ作りの常識を打ち破る製法だ。巨大な設備導入が必要なので初期費用はかかるだろうが、量産によるコスト低減(4割減と言われている)や、工数削減効果の方が大きいと思われる。 事実、今年6月にトヨタが実施した「トヨタテクニカルワークショップ2023」でもギガプレスと同じ考え方の「ギガキャスト」を発表した。2026年に発売予定の次世代EVに採用予定だ。ギガキャストは、86部品・33工程を1部品・1工程にできる。それによりコストダウンと工程短縮による生産効率の向上を可能にする。テスラのギガプレスのデメリットと指摘されている事故時のリペア性の課題について、トヨタは、鋼板部品との組み合わせでクラッシャブルゾーンを設けることで対応する考えだ。 中国のシャオペン(小鵬汽車、Xpeng)もギガキャストを採用したEVを発売している。シャオペンは2014年創業の新興メーカーだ。先月フォルクスワーゲンから7億ドル(約980億円)の出資を受けた。フォルクスワーゲンの狙いは、2026年に中国向けに販売する2車種のEVに、シャオペン製のプラットフォームを使用することのようだ。