「電脳交通」とは何者か? 徳島県に本社を構える電脳交通が、広島県の「よしじまタクシーグループ」に属する吉島タクシーと大竹交通のEVタクシー導入にあたって、その導入支援として情報提供および要望に基づいた提案を行い、パートナー企業である三菱オートリースとの連携からトヨタbz4Xをグループ全体で3台導入し、2024年8月23日からの運行を実現させた。 電脳交通とは、倒産リスクを抱えていた実家のタクシー会社を、ネットを活用した集客や低価格で導入できるソフトウェアを駆使したローコストオペレーションの構築などで経営再建に結び付けた近藤洋祐氏(現・電脳交通代表取締役)が、その経験をもとにITエンジニアの坂東勇気氏(現・電脳交通 最高技術責任者)とタクシー業界のDX化を加速させて企業体力の強化をサポートするために業務支援ツールを開発したのを機に立ち上げたタクシー会社発のベンチャー企業だ。 現在はクラウド型タクシー配車システムや配車業務委託サービスなど、タクシー業界全体のコスト削減や人手不足を補うITソリューションの開発と人的サービスの提供支援を生業としている。そのひとつに「EVタクシー取次サービス」というタクシー事業者向けサービスが存在する。 EVの導入に関心はあるものの、運用への懸念を持っているタクシー事業者は多く、電脳交通がタクシー事業者144社に実施したアンケート調査では、6割以上がEVタクシーに関心を持っていると回答した一方、具体的な商談に関心があるのは3割以上に留まったと語るのは、電脳交通の事業開発部部長の滝川浩司氏だ 。 そこで、電脳交通がもつオートリース事業者や自動車メーカーとの提携実績から、EVタクシーの導入に向けた情報提供や導入先の課題抽出、要望の聞き取りなどを行い、導入を支援するために生まれたのがこの「EVタクシー取次サービス」だ。このサービスを介してEVタクシーの導入事例が増え、具体的な運用が共有されることで、EVタクシーがより普及していくと電脳交通は考えている。 今回、このサービスにより、電脳交通が三菱オートリースに取次を行いEVタクシーの導入を実現したのが、広島県内でタクシーを運行する「よしじまタクシーグループ」だ。 よしじまタクシーグループが考えるEV導入のメリットとは? 導入のきっかけは、電脳交通からのEVタクシーに関するアンケートFAXだったと語るのは、よしじまタクシーグループ取締役の木本慎吾氏。当初は「EV車をタクシーにするのは無理だ」「充電の運用が不安」「導入コストが高い」といった否定的なイメージを持っていたそうだ。しかし、電脳交通や三菱オートリースとの出会い、試乗会の参加、すでにEVタクシーを導入しているタクシー事業者との交流を通じて、導入のハードルが下がったという。 導入の最大の目的は、地球環境への配慮だ。また、ガソリン価格の高騰に加え、LPガスも物価高騰の影響で値上がりしている。全国的にガススタンドの廃業が進んでおり、ガススタンドがないエリアも出てきた状況を踏まえると、これらの問題解決にはEVタクシーの導入が必要だと感じたという。同時に今回の導入が経費削減にも繋がることを、同社は期待している。 また、よしじまタクシーグループ代表取締役の木本弘三氏は、環境面に加え広島県の観光立県を目指すなかでEVの導入を約3年前から進めていたと語る。今回は3台のEVタクシー導入ではあるが、これが世界遺産の宮島・厳島神社や風光明媚な瀬戸内を抱える広島県の自然環境保護につながるきっかけになれば本望だろう。 導入されたEV3台はすべてトヨタのbz4Xだ。よしじまタクシーグループは長年トヨタ車を愛用しており、「トヨタだから」という信頼感が選定理由のひとつになっているという。さらに、SUVタイプで広い車内空間と快適性を備えており、広島を訪れるインバウンド観光客のニーズにも対応できるのも理由だ。 タクシー業界は慢性的な人手不足に直面しており、この問題は経営の危機に直結する。今回のEVタクシーの導入を通じて、業界が前向きな方向に進むとともに、「このクルマに乗ってみたい」「このクルマを運転してみたい」と思う人が増えることを期待しているそうだ。とくに若い世代がタクシー業界に興味を持つきっかけになればと同社は願っている。 コロナ禍の厳しい経営状況を経て、今度はオーバーツーリズムが叫ばれるほどのインバウンド需要で事業の急速な縮小拡大に迫られたタクシー業界。さらには折からの物価高騰によるランニングコストの増大。EVはこうした変化に対しての救世主となり得るのか。今後の動向に注目したい。
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