重要なのは「SOC」ではなく「SOH」 EVについては、自動車好きの間でも賛否両論といった状況なのは、ご存じのとおり。そして、EVが批判される要因のほとんどは、バッテリーに充電した電力によって走るという基本的な部分に起因するものが多い。EVに対するネガティブな評価をまとめると「バッテリーが問題だ」といえるだろう。 たとえば、エンジン車や水素燃料電池車の燃料補給に比べて、EVは充電時間が長いといった意見は、現状のバッテリー性能に対する批判ともいえる。 また、ハイブリッドカー(HEV)が普及したてのころから、よくいわれてきた電動車に対する不満として、「バッテリーが劣化する」といったものがある。バッテリーが劣化すると本来の性能(航続距離や最高出力)が出ないばかりか、そのリペアには多大な費用がかかる。そのため、トータルでみると電動車は経済的でないといった批判は、ある意味で定番だ。 たしかに「HEVのバッテリーを交換したら50万円以上かかった」、「EVのバッテリーは200万円以上するから長く乗れない」といった都市伝説的ウワサを見かけることは多い。ただし、実際に何十万円、何百万円も出してバッテリーを修理したというオーナーの不満を目にすることは、ウワサを見かけるほどは多くないのも事実。 なぜなら、電動車のバッテリーは、自動車メーカーの長期保証対象となっているからだ。 メーカーや車種によって保証期間は異なるため、ご自身の愛車の保証内容については各自で確認してほしいところだが、概ね「8年・16万km・70%」というのがバッテリー保証の基準となっている。 保証期間は新車販売から8年以内、走行距離は16万km以下、そしてバッテリー容量が70%を切ると保証の対象になるというのが、多くのEVにおける保証内容となっている。 ここで覚えておきたいのは「70%」という数値が示すものだ。 日常的にEVを使っているときにパーセントで表現するのは充電率であることが多い。これは現在のバッテリー能力に対して、どれだけ充電しているかを示すもので、業界的には「State of Charge」の略称で「SOC」と表現されることが多い。 しかし、SOCの数値ではバッテリーの劣化を知ることはできない。SOCの数値は、バッテリーの電力残量を実効電力量で割ったものであり、劣化によって使える能力が落ちたことは基本的に考慮しないからだ。極論すると、劣化によってバッテリーの能力が半減した状態でも、普通充電をつないでじっくりと充電すればメーター表示のSOCにおいては100%まで充電できる。しかし、それは新車時の100%と同じ電力量が入っているという意味ではない。 そして、バッテリーの劣化度を示す基準となるのが「State of Health」の略称「SOH」である。英単語の意味からも想像できるように、SOHとはバッテリーの健全度を示すもの。その基準は、単純に満充電でどれだけ入れられるかにある。たとえば、新車時に100kWhほど充電できるバッテリーが使っていくうちにSOC100%の状態でも70kWhしか入らないようになれば、「このバッテリーのSOHは70%だね」ということができる。 メーカー保証でいうところの「70%」という数字は、保証期間や走行距離の間にSOHが70%を切るほど劣化したら、保証対応として修理しますということを意味している。 70%の性能を残しているのであれば、それなりの機能を維持しているように思えるかもしれない。しかしながら、「SOH=70%」というのは、結構なバッテリー劣化を実感できるレベルともいえる。新車時に満充電で400km走れるEVを想定したとき「SOHが70%になっても満充電で280km走れるじゃん」と思うかもしれないが、多くのEVにおいてSOCが20%を切ったあたりから走りを抑える制御が入り始める。それはSOCが低い状態でフル加速などの性能を引き出す走りをする(バッテリー的には高出力の状態)と、劣化しやすい傾向にあるからだ。 上記の例において、SOC20%以下では走行しない前提で単純計算すると、バッテリー新品時の実走行可能距離は320kmで、SOHが70%まで劣化した状態では同224kmとなる。新車時からの実際に“走れる”距離が100kmも短くなってしまったら、オーナーは劣化を実感するだろう。さらに、カタログでの航続距離スペックが180km程度のコンパクトなEVで同様の計算をすると、SOH70%では実際の使える領域では100km程度の航続性能になってしまう。ご承知のとおりカタログスペックは空調を使わず、上手に理想的な運転をしたときの航続距離であるから、リアルワールドではもっと厳しい数字になることは自明だ。
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