テスラに物理ボタンを取り戻す
ヨーク・ステアリングの裏側に、左右それぞれ小さなボタンを仕込んだと前回チラッと書いたが、その“正体”が今回の主役、「S3XYボタン」だ。ブルガリア発のENHANCEというメーカーが手がける、テスラ専用の魔法のガジェットである。
<テスラを“ハック”する魔法のコマンダー>
このボタン、「S3XYボタン」という。この「S3XY」という言葉はテスラ界隈では「セクシー」と呼んでいる。それは次の事情に由来している。
テスラはイーロン・マスクが名付けたモデルS、モデル3、モデルX、モデルYと4つの主力車種がある。本当はモデル3ではなくモデルEにして“SEXY”にしたかったらしいがすでにフォードが商標を取得済みだったので、Eのカタチから「3」にしたという。ちなみにSとXは2026年内にも生産が打ち切られると発表済みだ。
ここから名付けられた「S3XYボタン」は、導入用として、三角形の小さなボタン4つとボタンをひとまわり大きくしたような司令塔デバイス「S3XYコマンダー」がひとつ、という構成が€233,71(約4万2800円:2026年3月現在)で販売されている。このコマンダーをクルマのOBDポートにつなぎ、「S3XYアプリ」と連携することで、ウインカーどころか、オートパイロットやワイパー、ライト、エアコン、トランクオープン、ミラー格納など、100種類を軽く超えるテスラの機能を物理ボタンに一気に呼び出せるようになる仕掛けだ。
テスラのよさは、15.7インチ(最新型は16インチ)の巨大なセンターディスプレイひとつでほとんどの機能を完結させていることにある。しかし「ちょっとだけ、この機能は物理ボタンにしたいんだよな」というポイントは、オーナーならだれにでもあるはずだ。そこをピンポイントで“物理”に戻してくれるのが、このS3XYボタンというわけだ。
<テスラは電子機器だが、“命綱”はわけてある>
「でも、こんなにクルマの機能をいじって大丈夫なの?」という不安は、当然出てくる。他メーカーのOBD接続ガジェットは、せいぜいメーター表示や簡単なカスタマイズ程度、という印象が強い。ところがS3XYボタンは、オートパイロットのON/OFFからワイパー制御、ライト、ハザード、トランク、充電ポート、さらには車速や回生ブレーキモードの切り替えまで、機能一覧を見ると「ここまでやっていいのか?」と、正直ちょっと怖くなるレベルまで機能を追加できる。
ただ、実際に使ってみると「テスラの思想の延長線上にあるな」と感じる部分も大きい。S3XYボタンは車両のOBDポートに接続することで機能を追加するが、走る・曲がる・止まるといった基本制御には直接介入しない仕組みになっている。テスラの車両設計は、駆動系とUI系を分離する思想が強く、仮にセンターディスプレーがブラックアウトしてもステアリングやブレーキは機械的に機能する。
もちろん、画面が真っ暗なまま走り続けるのは推奨されないので、いったん路肩に停めて再起動する必要がある。マニュアルにも「タッチスクリーンが反応しない、または異常な動作を示す場合は、再起動してください」と、PCやスマホと同じノリでさらっと書いてあるくらいだ。つまり、テスラそのものが巨大なデジタルガジェットであり、それに小さな「S3XYボタン」という拡張デバイスを重ねている、そんな関係なんだと思う。
<コマンダーがあればアプリで機能追加できる>
S3XYコマンダーは、運転席右側Aピラー下あたりの内装をパカっと外し、その奥のOBDポートに差し込んで固定する。動画を見ながら作業すればDIYでもなんとかなるレベルだ。
コマンダーひとつで、最大8個のS3XYボタンをペアリング可能。各ボタンは、
-1タップ
-2タップ(ダブルクリック)
-長押し
という3種類の動作を個別に割り当てられる。つまり、ボタン1個あたり最大3アクション、4個なら12アクション、8個なら24アクションというショートカットが機能する。
スマホ側のS3XYアプリは、単なる設定用ツールにとどまらない。速度やバッテリー残量、消費電力、外気温、充電状況といったテレメトリー情報を、純正アプリとは少し違った“ダッシュボード風”に表示してくれる。さらに、コマンダーのファームウェアアップデート、クラウド連携機能、マクロ(複数アクションの連続実行)の編集まで、このアプリひとつで完結する。
コマンダーで設定できる機能では便利なものが多い。たとえば「車線変更→数秒後にオートパイロット再起動」という機能がある。通常、車線を維持してくれる半自動運転モードのオートパイロットは車線変更すると切れてしまい、車線変更後に改めて手動で起動させる必要があるが、一連の挙動を「連続オートパイロット」として機能させることができる。ウインカーで車線変更をしたあと、一定時間が経過したら自動的にオートパイロットが再度ONになる。これもまた、テスラ純正UIの“もう半歩先”を埋める、かゆいところに手が届く機能といえる。

























































