今後どこまで値下げできるかに注目
また、最小回転半径は4.95mと小まわり性能に優れていながら、トランク容量も300リットルを超えており、4人乗りのコンパクトカーとしては必要にして十分な収納スペースも確保しています。そして肝心の値段設定について、エントリーグレードが2万2990ユーロ、日本円に換算して約373万円からという競争力のある値段を実現しました。というのも欧州市場では、2.5万ユーロ以下というのがひとつのベンチマークになっており、2.5万ユーロ以内のコンパクトEVの競合車種が増えつつあるのです。ドルフィンサーフを6月末までに注文した場合、初回限定価格として1万9990ユーロ、約324万円からという安値すら実現。BYDは欧州市場でのドルフィンサーフの月間販売目標を1万台に設定しており、その販売台数に注目です。
それでは、現在の欧州市場で急速に販売台数が上昇している2.5万ユーロ級の安価なコンパクトEVと比較して、今回のドルフィンサーフがどれほどのコスト競争力を実現しているのかを簡単に比較していきましょう。今回チョイスしているのがヒョンデ・インスター、ルノー5、そしてシトロエンe-C3です。どれも全長4000mm以下(シトロエンe-C3除く)と非常にコンパクトです。
ドルフィンサーフのみ30kWhであるものの、競合EVは40kWh級の電池を搭載して航続距離も300km以上を確保。パワーは100kW以下のモーターとやや非力でリヤサスペンションもトーションビームを採用するなど、ドルフィンサーフはエントリーグレードとしてはもっとも安価な値段設定を実現しています。
とはいうものの、バッテリー容量がドルフィンサーフの中級グレードの43.2kWhで合わせると、ドルフィンサーフは2万6990ユーロと、むしろ競合EVよりも高価となります。確かにドルフィンサーフにはV2L機能やビーガンレザーの電動シート調整機能、ヒートポンプシステム、レベル2ADASなど、装備内容が競合と比較しても充実していますが、割高に感じるユーザーも少なくないでしょう。
しかしながら、このドルフィンサーフについて押さえるべき重要な点が、27%もの関税を踏まえた値段設定であるという点です。たとえばルノー5とe-C3は欧州で生産されており関税はゼロ。インスターも韓国から輸入されており基本関税の10%で済んでいます。ドルフィンサーフは27%という高い関税率によって不利な状況に追いやられてしまっているのです。
はたして年内に稼働するハンガリー工場が稼働し始めた段階で、ドルフィンサーフをどこまで値下げすることができるのかが、このモデルの成功を占う上でもっとも重要なのです。
このようにして、現在欧州市場において急速にシェアを拡大しているBYDが、満を持して投入してきたドルフィンサーフは、充実した標準装備内容を含めたコストパフォーマンスの高さによって、これまで以上のシェアを獲得しようとしいます。ひと足早く発売したヒョンデ・インスター、ルノー5、シトロエンe-C3というコンパクトEVと競合しながら、欧州市場におけるEVシフトがさらに進んでいくことにも期待できそうです。
また、この2.5万ユーロ級のコンパクトEVのカテゴリーには、ルノー5の兄弟車である日産マイクラやトヨタ・アーバンクルーザー、スズキe VITARAなども投入される予定です。
これらの存在によって、2025年シーズン以降、踊り場を迎えていた欧州EV市場がどれほどの速度でEVシフトしていくのか。欧州の動向からも目が離せません。