EVのメカニズムは空気抵抗を減らすのに有利
60kWhを超える総電力量の大きなバッテリーを積むEVが珍しくない昨今、一充電航続距離が500kmを超えるモデルも増えている。まさに力技といえるカタチで航続距離を伸ばしているともいえるが、同時に重要なのが走行抵抗を減らすことだ。
タイヤと路面の間で発生する転がり抵抗やボディと大気の間で発生する空気抵抗が、おもな走行抵抗となり、それぞれにおいて低減する工夫がなされる必要がある。もっとも、EVにおける走行抵抗への対策は重要テーマであり、つねに最新テクノロジーやデザインのアイディアが採用される傾向にあるのはいうまでもない。
とはいえ、EV専用設計ではなく、エンジン車と共通のボディをもっている場合はどうであろうか。具体的には、ミニ・カントリーマンや三菱eKクロスなど、パッと見にはエンジン車とEVの区別がつかない車種も存在している。
残念ながら、エンジン車とEVの空気抵抗の違いを明記した公式情報はほどんどなく、ミニ・カントリーマンEVの空気抵抗係数(Cd値)が0.26という優れた数値であることがわかるくらいだが、一般論として、EVの空気抵抗が小さいであろうことは容易に想像できる。
エンジン車において空気抵抗を減らすために、フラットフロアといって、床下の部分にカバーをかぶせるといった工夫がなされていることはよく知られている。また、エンジン車においては、ラジエターへ外気を導くフロント開口部は必須だが、ここは空気抵抗の大きな原因となる。そのため、必要に応じてグリルを開閉するような機構を採用していることもある。
フラットフロアやフロント開口部の最小化は、EVにおいては自然とデザインに組み込まれている要素だ。床下に大きなバッテリーを搭載するEVは、そもそもフロアの凸凹が少なくフラット気味である。フロント開口部についても、エンジンほどの冷却性能が必要ないことからグリルサイズが小さかったりグリルレスになっていたりする。エンジン車とボディが同じに見えるEVであっても開口部が閉じられていることが多い。
つまり、素性からしてEVは空気抵抗を減らすのに有利なメカニズムとなっているのだ。
さて、空気抵抗の話題になると空気抵抗係数(Cd値)に着目しがちだが、Cd値というのはあくまで係数であって、空気抵抗を計算する“いち要素”でしかない。車種ごとの空気抵抗を比較するには、「Cd値×前面投影面積」という計算をする必要がある。
Cd値が良好でなくとも前面投影面積が少なければ空気抵抗は小さくなるし、どんなに優れたCd値でも、前から見たときの車体が大きければ、それなりの空気抵抗になってしまうのだ。
その意味では、小さいクルマほど空気抵抗を減らすのには有利といえる。もっといえば、前面投影面積は小さく、屋根が長いボディのほうが空気抵抗を減らしやすい。Cd値にとらわれず、小さなクルマを選ぶことが空気抵抗減には有効ということは覚えておきたい。