全車一律のピット義務に意味はあるのか?
しかし、競技として見た場合の魅力はどうだろうか。レースに参戦する全車にピットブーストの使用を義務付けている点、そしてピット静止時間は一律34秒と規定されている点は少々疑問が残る。仮に全車が問題なく想定されている通り10%の追加エネルギーを充電できたとした場合、レース中に使用できるエネルギー量はピットブーストが導入される以前と同じく、全車が一律のエネルギー使用可能量となるからだ。
また、静止時間34秒と規定されているから、充電量を減らしてピットストップ時間を短縮し、コース上のライバルに先行するという、モータースポーツでは一般的な戦略が成り立たなくなる。細かく見れば、ピットイン前後の先行車との位置関係や、ピットロードの前後をいかに素早く走行するか、ピット作業中のヒューマンエラーによる遅れなどで、コンマ数秒単位の違いが発生しポジションチェンジが発生すると思われるが、果たしてフォーミュラEの思惑通りにピットブーストが戦略的要素を伴って、レースをよりエキサイティングなものにするのかは注目したいところだ。
また、市販EVと同じく、バッテリーの発熱状態により想定通りに充電できないパターンが発生するのではないかと一抹の不安を感じる。だから、各チームはエネルギー残量とバッテリーの温度管理にはいままで以上に神経をすり減らすことになると思われる。
初物にはトラブルが付き物だとは思うが、そういった懸念点がすべて杞憂に終わるのか、はたまた今後の市販EVと充電環境の開発に活かせる重要なトラブルとして抽出できるのかも見どころといえそうだ。いずれにしてもレース競技として見た場合と、技術開発として見た場合では、このピットブーストの評価は分かれそうだ。
なおピットブースト初導入の舞台となる、2月14・15日サウジアラビアのジェッダで行われるレースでは、14日の第3戦がピットブーストありのレース、翌15日の第4戦はピットブースト無しのレースというように、2日間でふたつの異なるレースフォーマットが採用されるとFIAから発表された。使用できるエネルギー量はどちらも38.5kWhで周回数も同一なので、ピットブーストで得られるプラス3.85kWhのエネルギーがレース展開にどう作用するのか要注目だ。