日本車天国であったタイ市場を中国EVが席巻中
じつは現在、タイと中国の間にはASEAN中国自由貿易協定が締結されているため、中国からの輸入EVについては、一部条件があるものの、関税ゼロで輸入することができます。ところが、それ以外の輸入EVに対しては、一般関税率80%の半分である40%が適用(車両価格が200万バーツ以上と高額な場合は60%)されることになります。
確かに一般関税率と比較すると割安なものの、それでも、FTAを締結している場合とそうでないEVとでは、関税率で大きな差があることが見て取れます。
ただし、中国メーカー勢たちはこの関税の低さに甘えることなく、現在タイ政府の補助を背景に、タイ国内にEVの車両生産設備を建設中です。BYD、Great Wall、Geely、Changan、Netaなどがすでに建設中であり、どれも2024年中の創業スタートをアナウンスしています。よって、関税だけではなく、中国からの輸送費を削減することができるようになり、さらに中国メーカーのEVのコスト競争力が高まる見込みです。
また、EVだけではなく、タイ国内で人気の内燃機関車の人気車種も含めた登録台数ランキング(ピックアップトラックセグメントについては、まだEVが導入されていないため除外しています)も確認してみると、現在タイのベストセラー車というのが、コンパクトセダンであるトヨタのヤリスATIVです。
他方で、そのヤリスATIVに続く人気車種というのが、なんとBYDドルフィンと、じつはEVというカテゴリーではなく、自動車全体というカテゴリーにおいても、ドルフィンの存在感が高まっている様子を確認できるわけです。
人気車種ランキングを俯瞰してみても、黄色で示されているEVが徐々にランクインし始めている様子も確認できると思います。
今後の展望
今回はすべてを取り上げることはできませんが、さらに多くの中国メーカーが新型EVをタイ国内に投入する方針を示しています。
なかでも、現在タイEV市場のシェアトップであるBYDについては、すでに中国国内で発売されているコンパクトセグメントの「シーガル」を投入する見込みであり、「ドルフィン」を上まわる販売台数が期待されています。
もちろんその新型EV投入という観点だけではなく、国内にEV生産工場を立ち上げて、輸送に関するリードタイムを短縮しながら、輸送費のコストカットによって、さらに中国製EVを、より早く、より安く購入することができるようになります。
いずれにしても、新興国としてEV普及はまだまだ先であると思われていた、日本の庭とも呼ばれるタイ市場については、現在急速にEVシフトが進んでいるわけです。
まさに、日本メーカーが想定していた、ハイブリッド車を挟んでのEVシフトという予測が外れ、ひと足飛びでEVにシフトするというリープフロッグ現象を目の当たりにしているわけです。