#新技術
TEXT:大内明彦
レアメタルの資源不足を解決する手段! いま注目を集める「ナトリウムイオン電池」とは?

リチウム依存からの脱却が現実味を帯びてきた EV用の充放電可能な2次電池は、現在は世界的にリチウムイオン電池が主流を占めているが、ほかに充放電可能なバッテリーはないのだろうか? というのも、リチウムイオン電池の難点は、なんといってもその原材料にレアメタル(希少金属)を必要とすることにある。もちろん、リチウムもレアメタルだが、それよりも希少な存在となっているのがコバルトだ。 このコバルトの埋蔵量で、世界の約半分を占めているのがコンゴ共和国だ。さらに生産量から見るとその比率は70%近くとなり、需要に対してほぼ一極集中と呼べる状態が形作られている。当然ながら、こうした偏った供給体制は、将来的な資源の安定供給という視点から眺めると、きわめて不安定な状態である。じつは、中国がEV化の促進にあたって積極的な体制をとれるのは、その裏付けとして、膨大な資本の投下によるコンゴでのコバルト精錬権の半分以上を手にしているからだ。 こうした現状に留意すると、リチウムイオン電池以外の2次電池にはほかの選択肢はないのかと考えてしまう。そもそも、リチウムイオン電池が着目された理由は、リチウムイオンがもつエネルギー密度の高さにあったためで、この点でリチウムイオンには劣るものの、リチウムイオンとほぼ同時期に考えられた2次電池があった。 それがナトリウムイオン電池である。正極にナトリウム酸化物、負極に炭素系素材、電解液に有機溶媒を使い、ナトリウムイオンが正極と負極の間を行き交うことで充放電が行われる2次電池だ。この点は、リチウムイオンが正極と負極の間を行き交うことで充放電が行われるリチウムイオン電池とまったく同じである。 ナトリウムイオン電池は、リチウムイオン電池とほぼ同じタイミングで研究開発は行われたが、性能的にリチウムイオンにおよばないという判断から、一時開発が見送られた電池である。しかし近年、リチウムイオン電池の資源不足が懸念されはじめるとふたたび着目され、研究開発が本格的に再開されることになった。

TAG: #テクノロジー #バッテリー #新技術
TEXT:御堀直嗣
リチウムが入手困難ならナトリウム! いま注目を集める「ナトリウムイオン電池」ってどんなもの?

未来を担うかもしれない新時代のバッテリー ナトリウムイオンバッテリーとは、リチウムより周期表で原子番号が大きいナトリウムを正極に使うバッテリーをいう。ナトリウムイオンが、正極と負極の間を行き来することで充電と放電を行う仕組みは、リチウムイオンバッテリーと同じだ。 リチウムとナトリウムでは資源の入手のしやすさが異なり、ナトリウムのほうがより豊富に存在するため、EVを含め電動化が進むにつれてバッテリー需要が増大する際に、価格面を含めた手に入れやすさで注目されだした。 ただ、これまでナトリウムイオンバッテリーがあまり話題にならなかったのは、リチウムイオンバッテリーに比べ1セルあたりの電圧が低いためだった。リチウムイオンが4Vであるのに対し、ナトリウムイオンは2.5V程度だ。4割ほど電圧が低いということは、同じ容量を車載した際の一充電走行距離が4割近く短くなることを意味する。 EVに乗る際にもっとも気になるのは一充電走行距離の長さだろう。そこに弱さがあれば、いくら資源が豊富であり原価が安く済んでも、消費者の目は向きにくい。 それでも開発は続けられ、2009年ごろには1セル3Vまで改善できるのではないかという見通しが出てきた。三菱自動車工業からi‐MiEVが発売された年だ。 さらに後年になって、中国でリン酸鉄を正極に使うリチウムイオンバッテリーが登場し、その1セルあたりの電圧は3.2Vである。ナトリウムイオンバッテリーとそれほど違いがないにもかかわらず実用化され、普及段階に入っているのだ。 これまでの開発で、ナトリウムに、資源的に安定性のある鉄、マンガン、マグネシウムを混ぜ、さらに、ニッケルやチタンを加えると、ナトリウムイオンバッテリーも3~3.5Vの性能を出せる見とおしが立ってきた。 そして負極には、リチウムイオンバッテリーで使われる黒鉛ではなくハードカーボンを使うことで、容量を増やし耐久性も上がることがわかってきた。 しかもバッテリー製造は、既存のリチウムイオンバッテリーと同じ生産方法で可能であるという。 高性能を競うのではなく手ごろな価格で適切な性能が得られる小型EVを求めるように市場が変化しはじめ、リン酸鉄の正極をもつリチウムイオンバッテリーがそれを実現しつつある。 同じ理由で、ナトリウムイオンバッテリーでも適切な性能が得られるEV開発と商品性を見極めることができるなら、採用の事例が登場するかもしれない。 EV販売が踊り場であるなどといわれるが、これまで普及型の廉価な量販EVが足りていなかったのであり、より多くの人が購入可能であったり利用しやすかったりするEVが登場すれば、ふたたびEVへの関心は高まるだろう。そのとき、ナトリウムイオンバッテリーがどこまで奮闘できるか。 ナトリウムイオンバッテリーは、リン酸鉄を含め既存のリチウムイオンバッテリーの代替というより、EVの商品性にあわせた選択肢としてまず注目すべきだろう。 もうひとつは、人工知能(AI)の普及が進みはじめた際、その運用に必要な電力を供給するうえで、電力需要の変動に対し蓄電機能が必要になる可能性があり、そうした定置型での需要にナトリウムイオンバッテリーが有効との見方もある。そちらをナトリウムイオンバッテリーで満たせるなら、リチウムイオンバッテリーはEVにより比重を高めることもできる。 まだ本格的な量産体制が整っていない段階で、誰が、いつ、いかに投資に踏み切るか次第で、ナトリウムイオンバッテリーの行く末が決まるだろう。

TAG: #テクノロジー #バッテリー #新技術
TEXT:TET 編集部
EVになってもマニュアル車は残る! トヨタの次世代EV「BEVになっても運転は楽しい」をアピール

一時はバッテリー電気自動車(BEV)の普及に及び腰とも評されていたトヨタ自動車。だがここにきて、そうした批判派もアッと驚くようなEV戦略を打ち出してきた。今回は、トヨタが公開した次世代BEVに関するこだわりの一端を紹介したい。   「ココロ揺さぶるBEV」をコンセプトに 自動車ファンならご存じの通り、トヨタがBEVに対して積極的になったといっても、それは欧州メーカーのようにBEV一辺倒を意味するのではない。トヨタは地域の実情に応じてプラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCEV)、そして通常のハイブリッド車(HEV)等、複数の技術を適材適所に採用し、カーボンニュートラルを目指して行く方針だ。 その上で、BEVに関しては今年5月に専任組織であるBEVファクトリーを立ち上げ、車両に関する技術開発はもちろん、新たな生産体制の構築から業務改革まで一体として取り組んでいく。なかでも注目は車両に関する技術開発で、2026年には現行の「bZ4X」等とはまったく別の次世代BEVを市場投入する予定だ。 トヨタはこの次世代BEVの特徴として、次世代電池の採用、航続距離1000kmの達成、電費世界トップ等々、登場まで3年とは思えない高い目標を打ち出しているが、クルマ好きとして期待大なのは「クルマ屋がつくるココロ揺さぶるBEV」というコンセプトを掲げている点だ。また、自社メディアでは「トヨタのBEVはコモディティにしない」とアピールしており、ともすれば味気ないフィーリングとなってしまう現状のBEVに強烈なアンチテーゼを放っている。 では、運転して楽しいBEVを実現するため、トヨタではどのような技術を開発しているのだろうか。まず、クルマを運転している感覚を高めてくれるのが「マニュアルBEV」。トランスミッションを持たないBEVでありながら、モーターの制御を工夫することで内燃機関(ICE)のマニュアル車と同じようにシフトレバーやクラッチペダル操作を再現しているのだ。しかも、ギアの選択次第で加速力が変化することに加え、上手に変速しないとショックが大きく出る機構まで備えている。もちろん、スイッチ一つで通常のATも選択可能とのことだから、ファミリーカーとしても躊躇なく購入できそうだ。 一方、BEVならではのシステムと唸らされるのが、その日の気分で自由に「乗り換えられる」クルマ。つまり、ソフトウェア次第で乗り味を大きく変えられるBEVの特性を活かし、TPOに応じてファミリーカーからスーパーカーまで走行特性を設定できるシステムを開発しているのだ。 トヨタでは実際に1台のBEVで小型ハッチバックの「パッソ」から、和製スーパーカーのレクサス「LFA」までを再現したプロトタイプを公開しており、複数台所有というクルマ好き庶民の夢が、EV化により実現できる可能性を示唆している。 >>>次ページ 操縦桿タイプのステアリングを拡大展開

TAG: #クルマ屋がつくるEV #新技術 #発売前モデル
TEXT:TET 編集部
ZFが新開発電動ドライブシステムを披露。「タイカン」ベースのコンセプトカー「EVbeat」に搭載

ドイツのテクノロジー企業「ZF」は6月29日、新しい800V電動パワートレインを搭載するコンセプトカー「EVbeat」を発表した。このコンセプトカー、ポルシェ・タイカンをベースに大幅なトルクアップや航続距離の延長を実現しており、技術の一部は2026年の発売が予定されている。 リアアクスル最大トルク5200Nmを実現 EVbeatは、ポルシェのバッテリー電気自動車(BEV)「タイカン」をベースに、ZFや他のサプライヤーの最新技術を採用し開発されたもので、ドイツ本国で開催されるグローバルテクノロジーデーにおいて公開された。このうち、ZFはEVの心臓ともいえるパワートレインを担当。新システム「EVSys800」はEVbeatに強大なトルクと長い航続距離をもたらしている。 小型、軽量および実走行での最高効率が追求されたEVSys800は、パワーエレクトロニクス、電動モーターおよび減速機で構成。非常にコンパクトなデザインと軽さが特徴で、小型減速ギアボックスとZFが特許を取得したモーターの「編み込み式巻線」技術により、モーター長を50mm短縮したほか、総重量は74kgと現行の800Vシステムに比べ約40kg軽量である。 リアアクスル最大トルクは5,200Nmとなっており、公道を走行する乗用車向けとしては他に類を見ないほど高い。また、最高出力275kW(374ps)の75%という高い定格出力(206kW=280ps)もアピールポイント。 ZFでは、こうした定格出力向上のためモーターの冷却方法と巻線を工夫し、最も熱が発生する巻線の周囲に直接オイルが流れる冷却構造を採用した。そして、レアアースの使用も省き、モーターの生産工程をよりサステナブルなものとしている。巻線技術そのものについても、先述の「編み込み式巻線」により銅の使用量を約10%低減したという。 >>>次ページ 寒冷時の航続距離を大幅アップ

TAG: #ZF #ポルシェ #新技術
TEXT:田中 誠司
横幅いっぱいに表示されるヘッドアップ・ディスプレーをBMWが開発中。「BMWパノラミック・ビジョン」が次期「ノイエクラッセ」に

BMWグループは2023年の年次総会で、次期「ノイエクラッセ」モデルに新型ヘッドアップ・ディスプレイ「BMWパノラミック・ビジョン」を搭載すると表明した。ノイエクラッセはEVのためのまったく新しい技術プラットフォームを採用しており、デジタル化、持続可能性、デザインにおける新しい基準を設定するとしている。 いままでのヘッドアップ・ディスプレイが小さな画面でわずかな情報しか表示できなかったのに対し、BMWパノラミック・ビジョンはフロント・ウィンドシールド(フロントガラス)の幅全体に投影されるのが特徴だ。さらに、ドライバーだけでなくすべての乗員に情報を提供し、ユニークな対話を作り出すという。 BMW AGの開発担当取締役であるフランク・ウェーバーは、BMWパノラミック・ビジョンの主な利点について次のように説明している。 「新しいBMWパノラミック・ビジョンによって、フロント・スクリーンは一つの大きなディスプレイとなり、車のデザインにまったく新しい可能性をもたらします。 表示される情報がドライバーにのみ見えるようにするのか、すべての乗員から見えるようにするのかはドライバーが決定することが可能です。画期的な投影方法と、格段にクリアで、配置的にも見やすくなったコクピットは、新しい空間とドライビングの感覚を印象づけます。私たちは、『eyes on the road – hands on the wheel』という実績あるスローガンを、新たな次元に引き上げようとしています」

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