未来を担うかもしれない新時代のバッテリー ナトリウムイオンバッテリーとは、リチウムより周期表で原子番号が大きいナトリウムを正極に使うバッテリーをいう。ナトリウムイオンが、正極と負極の間を行き来することで充電と放電を行う仕組みは、リチウムイオンバッテリーと同じだ。 リチウムとナトリウムでは資源の入手のしやすさが異なり、ナトリウムのほうがより豊富に存在するため、EVを含め電動化が進むにつれてバッテリー需要が増大する際に、価格面を含めた手に入れやすさで注目されだした。 ただ、これまでナトリウムイオンバッテリーがあまり話題にならなかったのは、リチウムイオンバッテリーに比べ1セルあたりの電圧が低いためだった。リチウムイオンが4Vであるのに対し、ナトリウムイオンは2.5V程度だ。4割ほど電圧が低いということは、同じ容量を車載した際の一充電走行距離が4割近く短くなることを意味する。 EVに乗る際にもっとも気になるのは一充電走行距離の長さだろう。そこに弱さがあれば、いくら資源が豊富であり原価が安く済んでも、消費者の目は向きにくい。 それでも開発は続けられ、2009年ごろには1セル3Vまで改善できるのではないかという見通しが出てきた。三菱自動車工業からi‐MiEVが発売された年だ。 さらに後年になって、中国でリン酸鉄を正極に使うリチウムイオンバッテリーが登場し、その1セルあたりの電圧は3.2Vである。ナトリウムイオンバッテリーとそれほど違いがないにもかかわらず実用化され、普及段階に入っているのだ。 これまでの開発で、ナトリウムに、資源的に安定性のある鉄、マンガン、マグネシウムを混ぜ、さらに、ニッケルやチタンを加えると、ナトリウムイオンバッテリーも3~3.5Vの性能を出せる見とおしが立ってきた。 そして負極には、リチウムイオンバッテリーで使われる黒鉛ではなくハードカーボンを使うことで、容量を増やし耐久性も上がることがわかってきた。 しかもバッテリー製造は、既存のリチウムイオンバッテリーと同じ生産方法で可能であるという。 高性能を競うのではなく手ごろな価格で適切な性能が得られる小型EVを求めるように市場が変化しはじめ、リン酸鉄の正極をもつリチウムイオンバッテリーがそれを実現しつつある。 同じ理由で、ナトリウムイオンバッテリーでも適切な性能が得られるEV開発と商品性を見極めることができるなら、採用の事例が登場するかもしれない。 EV販売が踊り場であるなどといわれるが、これまで普及型の廉価な量販EVが足りていなかったのであり、より多くの人が購入可能であったり利用しやすかったりするEVが登場すれば、ふたたびEVへの関心は高まるだろう。そのとき、ナトリウムイオンバッテリーがどこまで奮闘できるか。 ナトリウムイオンバッテリーは、リン酸鉄を含め既存のリチウムイオンバッテリーの代替というより、EVの商品性にあわせた選択肢としてまず注目すべきだろう。 もうひとつは、人工知能(AI)の普及が進みはじめた際、その運用に必要な電力を供給するうえで、電力需要の変動に対し蓄電機能が必要になる可能性があり、そうした定置型での需要にナトリウムイオンバッテリーが有効との見方もある。そちらをナトリウムイオンバッテリーで満たせるなら、リチウムイオンバッテリーはEVにより比重を高めることもできる。 まだ本格的な量産体制が整っていない段階で、誰が、いつ、いかに投資に踏み切るか次第で、ナトリウムイオンバッテリーの行く末が決まるだろう。
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