ハード面の最適化を妥協している可能性も
とくに800Vシステムの採用見送りで問題となるのは充電時間という観点です。アフィーラには91kWhという、比較的大容量バッテリーが搭載されることも発表。よって150kW級の充電性能の場合、SOC80%まで少なくとも30分以上の充電時間がかかるはずです。そしてホンダは、グローバルで展開していくEV専用シリーズであるゼロシリーズの発表会において、充電時間を15分程度にまで縮める方針を表明済みです。それを踏まえると、充電時間30分以上というのは、2026年に発売されるEVとしてはスペック不足感が否めません。
さらに、その800Vシステムの採用見送りの場合、動力性能という点でも懸念が残ります。というのも、アフィーラは前後にモーターを搭載するAWDシステムを採用するものの、それぞれ最高出力180kWを発揮する永久磁石同期モーターを搭載すると発表。最高出力は360kWということになります。おそらく2.2トン程度となるであろう車両重量を総合すると、おそらくゼロヒャク加速は概ね4秒程度になるのではないかと推測可能です。この動力性能はフラグシップモデルとして至って平凡となります。
つまり、これらの点から何がいえるのかといえば、このアフィーラは、おそらく開発期間の短さなどの制約から、EV性能や動力性能などのいわゆるEVとしてのハード面の最適化をある程度妥協している可能性があるということです。つまり裏を返せば、このソニーインサイドともいえる、エンタメやADASの性能が期待以下であった場合、アフィーラの競争力の大部分はなくなってしまうわけです。
ちなみに、この360kWという最高出力と91kWhというバッテリー容量に関して、じつはプロローグとZDXのスペックに酷似しているという点が気になります。というのも、まず400Vシステムの91kWhのバッテリーについて、プロローグでは85kWh、ZDXでは102kWhバッテリーを搭載。もしかしたら、バッテリーマネージメントシステムなどの骨格を共有しながら、バッテリーセルの搭載数を調整しているだけの可能性が出てきています。
その上で、360kWという最高出力は、じつはアキュラZDXのAWDグレードとまったく同じ出力です。よってアフィーラの搭載モーターは、アキュラZDXのモーターをそのまま流用している可能性が出てきているわけです。
よってこの点からも、ソニーホンダがハードウェアの開発で、アフィーラのために1から設計開発する時間がなかったのではないかと推測できるわけです。果たして、このハード面の性能を補うような、ソフト面での価値をどこまで追求することができているのか。その期待を超えるような完成度に期待できるでしょう。
エンタメ性能という観点では、静粛性・音響性能・ハイエンドADASという観点に注目しています。とくに、
・静粛性はドイツ御三家に匹敵するような静粛性を達成できているか
・音響システムはエンタメ性能を最大化する上で極めて重要。30スピーカー、最高出力2000W級、ヘッドレストスピーカーやロードノイズキャンセリング機能なども含めたハイエンドスピーカーシステムの搭載
・ハイエンドADASは、すでにQualcommとタッグを組んで、SoCの演算能力も800TOPSを実現するとも説明。スマートサモンや自動駐車機能は当然として、高速道路上における追い越しや分岐、工事などへの対応を含めたハイウェイNOA。 さらにOTAでのアップデートを通じて、信号対応や右左折、ラウンドアバウトや転回、障害物などに対する緊急回避挙動などを含めた市街地NOAの将来的な導入
これらの点にも期待することができるでしょう。
いずれにしても、2024年最新のプロトタイプとして発表されたアフィーラは、先行受注があと半年後に迫っていることから、プロダクションバージョンにかなり近しいのではないかと推測可能です。EV性能や動力性能というメインスペックは、このままプロダクション仕様に継承される可能性があります。
他方で、これらのスペックが概ね踏襲された場合、EV性能や動力性能という点で、やはりソニーホンダが開発期間の短さなどを理由として、800Vシステムの採用を見送ったり、2024年に発売されたアキュラのモーターを流用するなど、ハード面のスペックの最適化を妥協してきたのではないかと推測することもできます。
よって、NACS規格の採用による充電体験の向上によって、ハード面のスペック不足感をどこまで埋めることができるのか。何よりも、ハード面のスペック不足感を打ち消すような、エンタメ性能や自動運転システムをどこまで作り込んでいるかが、アフィーラが成功するのかどうかのもっとも大きなわかれ目でしょう。