カーボンニュートラルの実現方法はひとつじゃない 近年、自動車業界でよく使われる「マルチパスウェイ」という言葉。直訳すれば、「マルチ(多様な)」「パスウェイ(道筋)」ということになる。自動車メーカーでつくる業界団体・日本自動車工業会(以下、自工会)では、マルチパスウェイを「多様な技術の選択肢」と併記している。 では、何に対するマルチパスウェイなのか? それは、カーボンニュートラルだ。 カーボンニュートラルという言葉も、最近すっかり馴染みなっているが、改めて見ていこう。カーボンは炭素を指すが、カーボンニュートラルにおけるカーボンとは、温室効果ガス全般を意味する。温室効果ガスには、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、そしてフロンガスなどが含まれる。こうした温室効果ガスの排出を抑えたり、または森林などで吸収したり、地中に埋めるなど除去することで、プラスマイナスでゼロにすることが、カーボンニュートラルの基本的な考え方だ。 カーボンニュートラルが世界的に注目されるようになったのは、2010年代半ば。きっかけは、COP21(第21回気候変動枠組条約締約国会議)でのパリ協定だ。このころからSDGs (持続可能な達成目標)という言葉がグローバルで広まっていく。 こうしたカーボンニュートラルに向けて、日本では2050年を目標にした国家としての指針を立てている。そのなかで、CO2排出量が多い運輸部門については、もっとも効果的だと思われるパワートレインの改良や刷新を進めている。 それを象徴するのが、マルチパスウェイだ。 前述のCOP21・パリ協定の影響で、2010年代後半から欧州メーカーを中心に急激なEVシフトが進んだが、こうした動きに日本は出遅れているとメディアで散々たたかれた。 それに対して、自工会は世界の情勢を考慮すれば、カーボンニュートラルに向けた道筋はさまざまあるとして、マルチパスウェイを提唱してきた。国や地域によって、充電インフラ整備の状況や社会情勢などで違いがあり、またEVはまだコストが高いことなどを踏まえて、パワートレインでは全方位体制を敷くべきだとの主張である。 具体的には、日本が得意とするハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、EV、クリーンディーゼル、燃料電池車、水素燃料車などを、コストと需要のバランスを念頭に地域毎に作りわけ・売りわけする。 自動車産業界が100年に一度の大変革期にあるいまだからこそ、自動車メーカーにとって動きの自由度が大きいマルチパスウェイがベターチョイスだといえる。