モデル毎に最適なバッテリーを搭載するメーカーも
<大容量バッテリーが背負う代償>
大容量バッテリーにはそれなりの代償が伴う。まず車両重量だ。アリアの場合、B6(2WD)の車両重量は1960kgだが、上級仕様のB9 limited(2WD)は2100kgとなり、140kgも重くなる。車体が重くなれば、そのぶんだけ走行に必要なエネルギーが増え、電費(1kWhあたりの走行距離)は悪化しやすい。せっかく容量を増やしても、増えた容量の一部は、重量増加による電力消費に充てられてしまう。航続距離のカタログ値は確かに伸びるものの、上乗せされた容量がまるごと距離に変わるわけではない。街乗り中心で1日の走行が数十km程度のユーザーが必要以上の容量を選ぶと、重い電池を毎日もち歩くだけで、その恩恵をほとんど使わないことになりかねない。

充電時間も見過ごせない。バッテリーは容量が大きいほど充電すべき電力量が増えるため、同条件でより多く充電しようとすれば滞在時間は長くなる傾向がある。長距離ドライブでの急速充電が、逆に滞在時間を長引かせかねない。加えて車両価格も上がる。アリアではB6リミテッドとB9リミテッド(いずれも2WD)で80万円ほどの価格差が生じている。大容量化は航続距離という安心を買う一方で、重量・電費・充電時間・価格という4つの負担を新たに背負い込む行為なのである。

<自分の使い方に合わせて選ぶという発想>
ここで考えたいのは、日常使いの実情だ。通勤や買い物、子どもの送り迎えでは、片道の移動距離はせいぜい20〜30km程度に収まる人が大半である。往復しても50〜60km程度であり、カタログ値で200km前後の航続距離があれば、日常の電欠不安はほとんど生じない。逆に、頻繁に長距離を移動する人であれば、途中の急速充電を1〜2回で済ませられる容量を選ぶという発想も必要だろう。

バッテリーの化学的な種類にも目を向けておきたい。じつはアリアのB6とB9は、容量が異なるだけで搭載する電池の種類そのものは同じだ。両グレードとも中国CATL製とされるNMC(ニッケル・マンガン・コバルト系、いわゆる三元系)リチウムイオン電池を採用し、最高出力160kW、総電圧352Vという仕様も共通している。B6とB9の違いは電池の「種類」ではなく、モジュールの数という「量」の差にすぎない。
対照的に、テスラのモデル3・モデルYは、グレードによって電池の種類そのものを切り替える設計だ。標準グレードのRWDには中国CATL製とされるLFP(リン酸鉄リチウムイオン)電池を、上位のロングレンジやパフォーマンスにはパナソニックやLG製とされるNMC電池を搭載する。アリアが容量だけを変える「量の設計」なのに対し、テスラは電池の性格そのものを変える「質の設計」を採っているわけだ。

LFPはNMCに比べてエネルギー密度が低く、同じ容量なら重くなりやすい。反面、材料コストが安く、熱暴走のリスクが低いという利点がある。スズキがeビターラにBYD系のLFPバッテリーを搭載しているように、日本メーカーでも採用が広がっている。また、LFPは高い充電率での使用にも比較的強い。この違いは日々の使い勝手に効いてくる。LFPはNMCに比べて高SOC(充電率)での劣化に強く、メーカーが日常的な100%充電を推奨している車種もあるほどで、SOCを気にせず使いやすい。NMCは一般的に20〜80%程度で使うと長寿命化しやすいとされ、日常的な満充電は推薦されない。街乗り中心で毎晩満充電にして使いたいならLFP搭載の標準容量、長距離を高頻度で走るならNMC搭載の大容量、というように、電池の素性と自分の使い方を重ねて選ぶと失敗が少ない。

容量が大きいほど安心、という気持ちはよくわかる。しかし実際の使い方に照らせば、必要以上の容量はコストと重量という「余計な荷物」が増えているだけなのかもしれない。バッテリー選びの正解は「大きいほう」ではなく、「自分の走り方に合うほう」である。1週間の走行距離を一度書き出し、そこに充電環境と予算を重ねてみてほしい。多くの人にとって、大は小を兼ねない——それがBEVのバッテリーなのだ。























