BMW 記事一覧

TEXT:西川 淳
電気自動車が「クルマとしての魅力」でガソリン車を上回る時代に突入してきた!

前回は電動化という混沌とした時代において、自動車メーカーのクルマ作りが、プラットフォームを電気自動車(BEV)とガソリン車(ICE)で共有するべきか、それぞれに専用のものを用いるべきかという話をした。今回は西川 淳氏に「プラットフォーム共有派」のBMWに乗って感じたことを語ってもらった。 もはやBEV寄りの設計がメインか 前置きが長くなってしまった。今回はBEVとICEでプラットフォームを共有するパターンの雄、BMWの最新モデルである「X1」シリーズ(iX1を含む)を試乗して、いよいよBEVがICEの魅力を、「エンジンのBMW」車でさえ、上回ってきたのではないか、と思った話をしてみたい。 初期の共有モデル、「4シリーズ」や「X3」では実際にBEVとICEを乗り比べてみたところ、個人的に商品としての魅力ではICEグレードの方がまだ優っていると感じた。「7シリーズ」では「i7」の仕上がりに衝撃を受けたものの、それでも悩んだすえに選ぶならICEグレードだと結論づけた。BMWってやっぱりエンジンあってナンボのもんやね、そう思った反面、BEVの仕上がりが劇的に良くなりつつあることもまた感じていた。 そして新型X1だ。このモデル、BMWにとっては不慣れなFFをベースに改良を重ねて今日に至ったわけだが、新型のICEグレードはブランドのエントリーモデルとして十二分に通用する乗り味にまで仕上げてきた。 その上でBEVグレードに乗れば、これがもう完全にICEを上回るクルマになっている。共有設計に臨む姿勢がまるでBEVよりになったかのようだ。最近のICEは効率化重視でBMWといえども容易には官能性を表現できない。燃費のために走るようなエンジンであればいっそ電気モーターでも、と思うのがクルマ運転好きの思考というものだろう。 出だしのしなやかな動き、街中でのアクセルペダルの扱いやすさ、応答に優れたハンドリングの確かさ、高速走行時の安定感、そして全体を通じての爽快感など、どれをとってもBEVグレードはICEグレードを超えている。 繰り返しになるけれど、BMWグループは電動化に最も熱心なブランドだ。意外にも聞こえるが、エンジンに熱心である以上に他の動力源にも熱心だ。例えばFCEVへの取り組みでいうと、日本のトヨタと並ぶ本気度を見せている。“駆け抜ける歓び”は彼らのクルマ造りの信条で、その実現と発展に寄与するのであればICEに拘らない。シルキー6によって歓びが生まれたのではない。歓びのクルマにシルキー6が積まれていただけなのだ。

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TEXT:西川 淳
電動化時代にクルマはどうやって作ればいい?まずはプラットフォームを軸に考えてみる

100年に一度の大変革期が自動車業界に訪れている。そして各メーカーは将来BEV(バッテリー電気自動車)専売ブランドになる年を明言し、BEVのラインナップを大幅に増やしている。しかしその作り方にはメーカーによって差がある。今回はプラットフォームに注目してその「差」を西川 淳が考察する。 プラットフォーム共有派のBMW 欧州ブランドの電動化、なかでもBEVへの取り組みに関しては、車体側のコンセプトとして大別すると2つのパターンがある。ICE(内燃機関)モデルとBEVモデルのプラットフォームを共有させるパターンと、全くわけてしまうパターンだ。 なかにはモデルの大小=コストに応じて混在させるブランドもあるが、それでも明確な方向性で考えたならいずれかのグループに区分けすることは可能だ。 前者の代表格としてBMWを挙げたい。ドイツプレミアムブランドの中では最も早くに電動ブランド“ i ”を立ち上げたこともあって、その名を冠するモデルの人気は上々で、独プレミアムブランドのなかでBEVを最もよく売っているメーカーだ。 「i」そのものはもはや独立したブランドとして機能していない。けれども、早い時期にそのイメージを定着させたことが現在に生きているようにも思う。加えて「iX」というインパクトあるデザインの専用設計モデルでハイトなBEVも得意だというアピールもできた。 だからこそ、ICEと同じカタチ(≒プラットフォームを共有する)をしたBEVでアピールできる。コンサバな顧客に安心感を与えることができたこともさることながら。

TAG: #BMW #EV #電気自動車
TEXT:小川 フミオ
オープンスポーツ「Z4」の燃料電池車だって作ってみせる!BMWが燃料電池車に懸けるアツい想い

BMWは2020年代後半に燃料電池車(FCEV)の発売を予定している。同社はなぜここまで水素にこだわるのか。そこには不確実な未来に向けて、BMWが考える戦略があった。 多様な電動化戦略 水素を近未来の燃料として有力視するのが、ドイツのBMWだ。さきごろ、「ジャパンモビリティショー2023」で、燃料電池車「iX5ハイドロジェン」をお披露目したBMWでは、これから電気と水素を両輪として進めていくと明言している。 私が以前、インタビューしたBMW取締役会のオリバー・ツィプセ会長は、「BEV(バッテリー駆動のEV)はあるところで頭打ちになる可能性がある」としていた。 南ヨーロッパは充電設備が少ないし、そもそもEVが普及していない地域で充電ステーションを建てても赤字になってしまう。なので、EVの普及がある台数に達すると、収益性が低くなる問題を引き起こす可能性が高い……それが指摘だった。 BMWが水素を使う燃料電池の開発を続けているのは、それだけでない。EUをはじめ、世界各地で水素燃料補給ステーションのネットワークが構築されつつあることもふまえ、多様な電動化戦略に合致しているというのだ。 そこまでは理解できる。しかし……と私は思う。乗用車、それもプレミアムクラスのスポーティなモデルに特化しているBMWが、そこまで水素に入れ込む意味はあるのだろうか。それこそ収益性の問題はクリアできるのだろうか。 「それはあります」。そう答えてくれたのは、水素技術におけるジェネラルプログラムマネージャーを務めるBMWのドクター・ユルゲン・グルドナーだ。下記に、ドクター・グルドナーとの一問一答の続きを記していこう。

TAG: #BMW #iX5ハイドロジェン #燃料電池車(FCEV)
TEXT:小川 フミオ
200kmごとに水素ステーションが整備される欧州でBMWが燃料電池に取り組む理由

ジャパンモビリティショーのBMWブースにはFCEV(燃料電池車)の「iX5ハイドロジェン」が展示されている。JMS開幕前日に燃料電池車の開発を進めるBMWとトヨタ関係者によるシンポジウムが開かれていた。この催しに参加した小川フミオ氏のレポートをお届けする。 再エネでグリーン水素製造が理想的 BMWジャパン(正式にはビー・エム・ダブリュー株式会社)は、水素を燃料とするFCEVの実証実験を、2023年7月25日から開始している。 その車両「iX5ハイドロジェン」を、私も、2022年にアントワープでの国際試乗会でドライブしたことがある。 なんでアントワープだったかというと、巨大な港湾都市であり、船舶や大型貨物車の次世代燃料として、水素が有力視されていて、水素ステーションも増えているため相性がいい、と説明された。 水素を解析して、イオンを取り出し、それを電気エネルギーとしてバッテリーに充電してモーターを駆動する。つまり、水素を燃料とした電気自動車である燃料電池車のiX5ハイドロジェン。 アントワープを走り回ったところ、好印象。トルクがたっぷりあって、加速はスムーズ。燃料としての水素と、窒素化合物の排出ゼロの燃料電池車の可能性を実感させてくれるものだった。 そんななか、「ジャパンモビリティショー2023」開催とタイミングを合わせて、BMW本社で、水素技術におけるジェネラルプログラムマネージャーを務めるドクター・ユルゲン・グルドナー(Dr. Juergen Guldner)が来日した。 ショー開催前の10月24日には、ジャーナリストを招いて「燃料電池車をテーマとしたシンポジウム」が、BMWジャパン主催で開催され、2011年より基礎研究を共同で行っているトヨタ自動車の担当者らも出席。 モデレーターを務めたジャーナリストの清水和夫氏が「風力などで発電した電気の貯蔵は喫緊の課題で、電気から水素を作り(グリーン水素などと呼ばれる)エネルギーとして使うのがひとつの理想型」とするなど、可能性が示唆されたのも印象的だった。

TAG: #BMW #iX5ハイドロジェン #燃料電池車(FCEV)
TEXT:生方 聡
BMW本社会長も来日!「X2/iX2」がジャパンモビリティショーで世界初公開

BMWは、10月28日に一般公開が始まる「ジャパンモビリティショー」でプレミアムコンパクトSUVの「X2/iX2」を世界初公開するとともに、次世代のモビリティを示す「ビジョン・ノイエ・クラッセ」をアジア初公開する。 BMWブースに世界初があった! かつて「東京モーターショー」が世界中から注目されている頃には、輸入ブランドがこぞって“世界初公開”を用意していたが、近年は輸入ブランドの出展が減り、世界初公開もほとんど期待できない状況になってしまった。それだけに、輸入乗用車ブランドで、独自のブースを構えているのは「BMW」「BYD」「メルセデス・ベンツ」だけという今回のジャパンモビリティショーでは、せいぜい“アジアプレミア”や“ジャパンプレミア”がいいところと半ば諦めていた。 ところが、直前の情報でBMWがプレミアムコンパクトSUVの新型「X2」を世界初公開すると知り、「これは見逃すわけにはいかない!」と、プレスデイ1日目の10月25日に、東京ビッグサイトに足を運ぶことにした。 東展示棟 4・5・6ホールにあるBMWブースに辿り着くと、まだプレスコンファレンス前だというのに新型「X2」とそのEV版である「iX2」がベールなしで飾られている。実は新型X2/iX2はすでにネット上では写真が公開されているため、「いまさらアンベールでもないだろう」ということのようだ。 プレミアム・コンパクトSUVの「X1/iX1」をベースに、クーペスタイルのエクステリアを与えたという位置づけのX2/iX2だが、X1よりも全長が54mm長く、全高が45mm低いこともあって、伸びやかなサイドビューが実にスタイリッシュだ。

TAG: #BMW #iX2
TEXT:小川 フミオ
「エアコンソール」ってなに? BMWが急速なデジタル化に対応するためにとった戦略とは?

昨今、クルマにとって電動化とともに重要なのはデジタル化だ。「CASE」がその象徴だろう。BMWはこの自動車界における大変革期を、あるポルトガルの企業と乗り越えようとしていた。 ソフトウェアに特化した企業と手を組む 電気化を推進するとともに、いわゆるデジタライゼーションに力を入れているBMW。おもしろい取材を、i5の試乗会が開催されたポルトガル・リスボンで出来た。 私が訪れたのは、リスボンのちょっと郊外にある再開発地区。経済危機を経たポルトガルが、新たな振興策としてテック産業に力を入れると宣言したのが2018年。一帯は誘致地区だと思う。 ITの知識と技術を豊富に持った人材がどんどん育ってきているのを背景に、BMWでは、「クリティカルソフトウェア Critical Software」とのジョイントベンチャーで、「クリティカルテックワークス Critical TechWorks」なる企業を立ち上げている。 「私たちは、車両のデジタライゼーションが急ピッチで進むことを以前から予想しており、さまざまな形で、しかも速いペースで、それに対処する必要性をずっと感じていました」 背景について、BMWから出向して、クリティカルテックワークスを統括するヨッヘン・キルシュバウム氏はそう説明する。 「もちろん、私たちが本社を置くミュンヘンを中心に、ドイツでも人材を探しました。でも限界があるのです。そこで国境をまたいで、この業務にぴったりの企業を探したのです」 キルシュバウム氏は、BMW本社に20年以上在籍し、主業務は、ソフトウェア開発。なかにはコネクテッドカー、インフォテイメント、自動運転が含まれているそうだ。 「BMWは言うまでもなく100パーセントのソフトウェア企業ではありません。でも私たちが探したのは、最初からソフトウェアに100パーセント特化した企業でした。そして出合ったのが、ポルトガルのクリティカルソフトウェア。ジョイントベンチャーをスタートさせたのが2018年でした」

TAG: #BMW #エアコンソール
TEXT:小川 フミオ
きっとロールス・ロイス「スペクター」を4ドアにしたら「i7 M70 xDrive」になる

小川フミオ氏によるBMW「i7 M70 xDrive」の試乗記は最終回を迎えた。今夏、ロールス・ロイス初の電気自動車である「スペクター」にも乗っている同氏は、この両車に共通点を見出したようだ。Vol.2はこちら あなたもハン・ソロになれる じっさいに私は、「i5」と並行して、「i7 M70 xDrive」(以下・M70)をリスボンでドライブするチャンスに恵まれた。とてつもない加速力だ。 まっさきに連想したのは、映画「スターウォーズ」。ミレニアムファルコン号がワープ航法に移ったとき、周囲の星が一瞬で背景に退いてしまう描写があった。まさにあれ。 どこまで速度が上がるのか、といういきおいで制限速度まで加速していく。 かつて、1980年代から90年代にかけて、BMWをはじめ、ポルシェやメルセデスが、アウトバーンにおけるハイスピードドライビングを可能にする高性能マシンで競っていた時代を連想した。 結局、排ガスによる地球温暖化が社会問題化するにあたり、社会や環境に敏感なドイツのメーカー各社は、最高速度を250km/hに抑える協定を結んだ。 もちろん、「i7」の最高速も250km/hだけれど、再生可能エネルギーによる電気を使えば、化石燃料よりも環境負荷は低くなる、というのが、あちらの高性能車乗りのエクスキューズでもある。 もうひとつの見方をすると、世のBEV(バッテリー電気自動車)の多くは、電費をおもんばかって、最高速をもっと低く抑えるリミッターをかけている。M70はすごい自信ぶりではないか。 フランクフルトの五叉路のような、ドイツ・アウトバーンの速度無制限区間だったら、さらにすごかっただろう。250km/hで巡航できそうだ。リスボンでの試乗において、高性能ぶりの片鱗は充分に感じられた。 しかもたんに直線で速いだけでない。カーブだって、大小問わず、小気味よく、すいすいとこなしていく。 電子制御のアクティブサスペンションシステムと、後輪操舵システムも、小さなカーブでは車体の安定性に大きく寄与してくれているはずだ。 さらに、前方の路面状況に応じてダンピングを調節する「エグゼクティブドライブプロ」と、「アクティブロールコンフォート」と、そして強力な「Mスポーツブレーキブレーキシステム」までそなえる。

TAG: #BMW #i7 #M70
TEXT:小川フミオ
「BMWの核はセダン」。「i5」での表現は、BEV世代のセダンの在り方を示している。

SUV(BMWいわくSAV)を多くの人が選ばれる中で、セダンへの思いを込めるBMW。i5にあるデザイン手法の奥深さに、小川フミオはセダンの可能性を知るのだった。 セダンほど、エレガントな車型はない −−昨今は多くのひとが、セダンやステーションワゴンでなく、SUV……BMWの言うところではSAVを選ぶ傾向があります。そんな時代にセダンをあえてデザインするのは、けっこう苦労がありましたか。 「いやいや、そんなことはまったくなかったです。たいへん楽しい仕事でした。セダンほどエレガントな車型はないし。そもそも、BMWの核といえばセダンです。3シリーズも7シリーズも、BMWにとってたいへん重要なモデルであり続けています」 −−そのうえで、時代に合わせてコンセプトをいじっていくわけですね。 「ですね。たとえば、今回のi5だと、ルーフの表面を見てください。Cピラーへと続くところの面の作り込みは、かなりよく出来たと自負しています。ここが強く目立ちます。それで、キャビンの安定感をぐっと出すことに成功しています。ここはかなり自信ある造型です。それと細く見えるCピラー。これでエレガンスも表現しています」 −−他のメーカーだと、反対のことを言ったりもしています。Cピラーこそ力強さや安定感を表現するための重要な部分で、太くしたり、造型的な処理で、ある種のテンション、つまり緊張感というか力強さを盛り込むことが大事だとしていますね。 「意見としては分かりますが、私たちはその道(デザイン手法)を選びませんでした。ルーフラインは流麗に、キャビンは軽くふわっとボディに載っているように見せ、いっぽうで、車体側面にキャラクターラインと面取りを同時に入れて、ここでテンションを生み出しています。たった2本のキャラクターラインですが、力強さはかなり強く感じていただけるのではないでしょうか」 新世代を強調したキドニーグリル −−変わったといえば、フロントマスクのコンセプトも、従来とは一線を画していますね。i5と、エンジン搭載の他の5シリーズとは差別化をはかりましたか。 「いや、5シリーズは、i5を含めて基本的に共通のフロントマスクです。違うのはスポーツパックを採用したモデルです。5シリーズは、たしかに上下幅の狭いヘッドランプですが、初代から伝統的な4灯式のモチーフは継承していますし、キドニーグリルもむしろ大きく見せています。ただし、i5 M60 xDriveのようなパフォーマンスモデルだと、キドニーグリル内には縦バーは入れず、いっぽうでグリル周辺のブラックの部分を大きくして、私たちが考える新世代のスポーツ性を強調したフロントマスクとしています」 −−i5はセダンだけれどBEVです。ここがBMWデザインにとって、ある種のターニングポイントでしょうか。 「そうですねえ。言えることは、未来は明るいと私は思っています。BMWには、過去の名車というヘリティッジがあります。それを活かすことも出来るし、逆にへたをすると、それが足かせになることだってありえます。でも、スタジオには、新しいものを創造するための自由がたっぷりあります。それはもう圧倒的だと思います。なので、BEVの時代を間近に迎えながら、私はデザイナーという仕事を楽しんでいるんです」 <了>

TAG: #BMW #i5 #セダン
TEXT:小川フミオ
「i5」の造形を、BMWエクステリア・デザイン責任者がディテールから語る

ラインナップの中核である5シリーズ。そのエクステリアデザインには、スポーティかつエレガントさを併せ待つ、新しいプロポーションが見られる。小川フミオは、そのディテールを、インタビューをとおして訊き出す。 スポーティエレガンスの新しいプロポーション BMW肝煎りの8代目5シリーズ。セダンはいまもプロダクトの中核とする同社にあって、いかなる思いをこめて、デザインを完成させていったのか。 リスボンでBEV「i5」のジャーナリスト向け試乗会が開催されたのと同じタイミングで、クリストファー・ワイル氏にインタビューする機会を得た。 ワイル氏は、ヘッド・オブ・エクステリアデザインの肩書きを持ち、外観デザインを統括。ミニのデザインスタジオから移ってきて最初に手がけたモデルは、「5シリーズGT」(2009年発売)だったという。 以下は、i5を中心に、BMWの新世代のデザインをめぐっての、ワイル氏との一問一答である。 −−i5の実物は、東京で見たのが最初で、次にリスボンでじっくり観察することが出来ました。先代とはかなり変わりましたね。 「デザインコンセプトは、エレガントと軽快さ、これを強調しようということでした。なにしろ、スポーティエレガンスというのが、5シリーズのデザインにおけるキーワードでしたから。そこで私たちは、まずピラーを出来るだけ細く見せようとしました」 −−たしかに、自動車デザインの一般的なルールでは、Cピラーの付け根はリアタイヤの上あたり、とされていると思いますが、i5では、それより後ろに移されています。 「セダンのデザインにおいて、あたらしいプロポーションを作り出したい、と私たちは考えたんです。重要なことは、フロントからリアにかけて、流れるようなシルエットを形成し、クーペのような雰囲気を作るのに成功したと思います」 Aピラーを後退させて、ボンネットを長くみせる −−Aピラーの位置も、従来より後方に移されているように感じられます。 「多少そういうところはあるかもしれません。しかし基本的には、そのまま線を延ばしていくと、フロントのホイールアーチにぶつかるという、クラシカルなプロポーションのままだと思います。フロントのホイールアーチと前席ドアのシャットライン(切り欠き線)とのあいだには、けっこう大きなスペースがあって、長めのボンネットを目立たせるというBMWデザインの約束事に忠実です」 −−なるほどよくわかります。 「運転席に座ると、ボンネットの稜線が見えると思います。この意図は、ボンネットが見えていると、ドライバーは感覚的に嬉しくなるという調査結果によるものです」 −−BEVだと、ボンネットを、衝突安全基準をクリアするぎりぎりの長さまで短くして、同時に、Aピラーの付け根位置をかなり前に出すというデザインを採用するケースもありますが。 「そうはしなかったわけです。背景には、今回の8世代目の5シリーズは、エンジンもあればプラグインハイブリッドも、そしてBEVのi5と、ボンネットの下に収めるドライブトレインが多様というのもあります。なにより、BMW車の特徴である長めのボンネットを持つプロポーションを大事にしようというコンセプトを採用したんです」 べつの見方をすると、よくぞまあ、ここまで多様なドライブトレインに対応するシャシーを設計できたものだと思う。 デザインの過程では、ひょっとしたら、かつてワイル氏が手がけたという5シリーズGTのように、大胆なコンセプトのアイディアも上がったんではないだろうか。 でもはたして最終的には、多くのひとが無条件に、美しいと感じられる伝統的なプロポーションが採用された。それゆえに、BEVだろうと安心した気持ちでi5を選ぶBMWファンも少なくないかもしれない。 クリストファー・ワイル(Christopher Weil)氏について BMWエクステリア・デザイン責任者 「BMWのクルマにはいつも魅了されてきました。スポーティでありながら、同時にエレガントなフロントからリアへの移行など、ユニークなソリューションがあり、子供ながらにインスピレーションを受けました」と、子供の頃からBMWのデザインDNAに強い関心を持っていた。 コモ湖で開催された2011年のモーターショー、コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステのために製作されたBMW 328オマージュは、その代表作のひとつである。 <Vol.2へ続く>

TAG: #BMW #EV #i5
TEXT:小川 フミオ
BMWのEV「i7 M70 xDrive」だけに施されたデザインと引き継がれた伝統

前回、「i7 M70 xDrive」をドライブした小川フミオ氏は、改めてこのクルマのデザインを観察する。BMWの最高峰モデルにはどんな工夫が加えられているのだろうか。 特別なクルマに与えられる、特別な仕立て 新しい7シリーズは、大きくいって2つに分かれる。ひとつはガソリンとディーゼルのICE(内燃機関)、もうひとつはピュアEVの「i7」シリーズだ。 ここで紹介している「i7 M70 xDrive」は、2023年にi7のラインナップに加わった、現時点でもっともパワフルなMパフォーマンスモデル。 といっても、基本デザインは同じだ。全長5,390ミリ、全幅1,950ミリ、全高1,545ミリのディメンションをもち、ルーフの前後長は長く見える。 とりわけ個性的なのはフロントマスクの造型。上下幅が薄くて左右に広いヘッドランプと、その下に大きなエアダム。 キドニーグリルは大きいが、クロームを使っているのは輪郭線だけで、これまで縦バーも目立っていたが、今回はブラックアウトされている。その周囲もブラックの部分が多い。 フロントマスクの比較:M70と60ではブラックアウトした面積の違いでイメージもだいぶ異なる ポルトガルのリスボンで試乗車に対面したとき、押出しの強さに圧倒された。従来の「eDrive50」と「xDrive60」は、グリル周囲が車体同色の処理で、かつグリル内の縦バーもしっかり見えるデザインだったのと、かなり差異化されている。 「このクルマは、特別な存在感をもって、周囲の車両とは明らかにちがうと目だたせたいと考えていました」 BMWの乗用車のエクステリアデザインを統括するクリストファー・ワイル氏は、試乗会のときに、そう説明してくれた。 「なので、フロントマスクのデザインはとても重要です。BMWのトップクラスに属する車両には、それにふさわしいフロントマスクが必要と、ダブルレイヤーのヘッドランプまわりのデザインなどを与えました」

TAG: #BMW #i7 #M70
連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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