中国のEVが破格な理由
私たちにとって、中国のクルマといえば低価格を最大の武器とするイメージを持つ人も多い。しかし現在の中国市場を見ると、ICE(内燃機関)のクルマに代わって、先進運転支援システムや大型ディスプレイ、高性能な車載ソフトウェアを備えた魅力的なBEV(バッテリー電気自動車)が、多数販売されている。それらは単に安いだけでなく、航続距離や装備まで含めたコストパフォーマンスに優れている。

もちろん、カタログに表記されるCLTCでの航続距離は、中国独自の試験基準であり、日本で使われるWLTCと数値を直接比較することはできない。また、人民元価格の円換算は為替を置き換えただけで、日本仕様の販売価格を示すものではない。とはいえ……なぜこの値段で日本では売ってくれないのよ、と言いたくもなる。本稿では、中国の安さが何のうえに成り立つのか、日本ではどのようなコストが積み上がるのか、割安なEVに乗る道はあるのかを解説していきたい。
中国の”爆安”は中国国内の事情が生んだ価格だ
そもそも中国では、BEV製造でもICEのクルマと同様にサプライチェーンが確立しており、電池やモーター、パワー半導体など主要部品を国内サプライヤーから調達できる。そのため、物流コストや部品コストを抑えやすい。
このサプライチェーンを活用し、日系メーカーも魅力的なBEVを販売している。たとえば、日産のN7。2025年4月27日に東風日産乗用車公司が発売したBEVで、最新の先進運転支援システムや大容量の駆動用バッテリーを搭載し、優れたデザインと高い運動性能を備えながらも、発売のときの価格は11万9,900元から14万9,900元だった。1元=24.11円の税関公示レートで単純換算すると、およそ289万円から361万円になる。航続距離は最大635km(CLTC)である。2026年4月には新グレードが加わり、希望小売価格は15万元台に広がっている。数字だけ並べれば、日本の同クラスのBEVより明らかに安い。

初動の販売は好調だった。日産の発表によれば、発売から約1カ月で1万7,215台を受注している。もっとも、勢いは続かなかった。中国メディアの報道によれば、月間販売台数のピークは、発売から約4カ月あとの2025年8月で1万台を超え、そこから先は急な右肩下がりとなった。現在は月1000台から2000台程度とされる。しかしこの規模では、大幅な量産効果でこの価格を実現しているとは考えにくい。

中国のEV市場では多数のメーカーがひしめき、新エネルギーのクルマ(NEV)政策が普及を後押ししてきた。地場メーカー同士の値下げ競争、とりわけBYDをはじめとする中国メーカーによる値下げ合戦が、市場全体の価格水準を押し下げている。N7や長安マツダが2024年に発売した「MAZDA EZ-6」のような日系合弁ブランドも、市場価格に合わせざるを得ないのだ。この安さは、安く作る技術の話でも、日本メーカー自身の販売規模の話でもないのである。






















