BMW 記事一覧

TEXT:小川 フミオ
きっとロールス・ロイス「スペクター」を4ドアにしたら「i7 M70 xDrive」になる

小川フミオ氏によるBMW「i7 M70 xDrive」の試乗記は最終回を迎えた。今夏、ロールス・ロイス初の電気自動車である「スペクター」にも乗っている同氏は、この両車に共通点を見出したようだ。Vol.2はこちら あなたもハン・ソロになれる じっさいに私は、「i5」と並行して、「i7 M70 xDrive」(以下・M70)をリスボンでドライブするチャンスに恵まれた。とてつもない加速力だ。 まっさきに連想したのは、映画「スターウォーズ」。ミレニアムファルコン号がワープ航法に移ったとき、周囲の星が一瞬で背景に退いてしまう描写があった。まさにあれ。 どこまで速度が上がるのか、といういきおいで制限速度まで加速していく。 かつて、1980年代から90年代にかけて、BMWをはじめ、ポルシェやメルセデスが、アウトバーンにおけるハイスピードドライビングを可能にする高性能マシンで競っていた時代を連想した。 結局、排ガスによる地球温暖化が社会問題化するにあたり、社会や環境に敏感なドイツのメーカー各社は、最高速度を250km/hに抑える協定を結んだ。 もちろん、「i7」の最高速も250km/hだけれど、再生可能エネルギーによる電気を使えば、化石燃料よりも環境負荷は低くなる、というのが、あちらの高性能車乗りのエクスキューズでもある。 もうひとつの見方をすると、世のBEV(バッテリー電気自動車)の多くは、電費をおもんばかって、最高速をもっと低く抑えるリミッターをかけている。M70はすごい自信ぶりではないか。 フランクフルトの五叉路のような、ドイツ・アウトバーンの速度無制限区間だったら、さらにすごかっただろう。250km/hで巡航できそうだ。リスボンでの試乗において、高性能ぶりの片鱗は充分に感じられた。 しかもたんに直線で速いだけでない。カーブだって、大小問わず、小気味よく、すいすいとこなしていく。 電子制御のアクティブサスペンションシステムと、後輪操舵システムも、小さなカーブでは車体の安定性に大きく寄与してくれているはずだ。 さらに、前方の路面状況に応じてダンピングを調節する「エグゼクティブドライブプロ」と、「アクティブロールコンフォート」と、そして強力な「Mスポーツブレーキブレーキシステム」までそなえる。

TAG: #BMW #i7 #M70
TEXT:小川フミオ
「BMWの核はセダン」。「i5」での表現は、BEV世代のセダンの在り方を示している。

SUV(BMWいわくSAV)を多くの人が選ばれる中で、セダンへの思いを込めるBMW。i5にあるデザイン手法の奥深さに、小川フミオはセダンの可能性を知るのだった。 セダンほど、エレガントな車型はない −−昨今は多くのひとが、セダンやステーションワゴンでなく、SUV……BMWの言うところではSAVを選ぶ傾向があります。そんな時代にセダンをあえてデザインするのは、けっこう苦労がありましたか。 「いやいや、そんなことはまったくなかったです。たいへん楽しい仕事でした。セダンほどエレガントな車型はないし。そもそも、BMWの核といえばセダンです。3シリーズも7シリーズも、BMWにとってたいへん重要なモデルであり続けています」 −−そのうえで、時代に合わせてコンセプトをいじっていくわけですね。 「ですね。たとえば、今回のi5だと、ルーフの表面を見てください。Cピラーへと続くところの面の作り込みは、かなりよく出来たと自負しています。ここが強く目立ちます。それで、キャビンの安定感をぐっと出すことに成功しています。ここはかなり自信ある造型です。それと細く見えるCピラー。これでエレガンスも表現しています」 −−他のメーカーだと、反対のことを言ったりもしています。Cピラーこそ力強さや安定感を表現するための重要な部分で、太くしたり、造型的な処理で、ある種のテンション、つまり緊張感というか力強さを盛り込むことが大事だとしていますね。 「意見としては分かりますが、私たちはその道(デザイン手法)を選びませんでした。ルーフラインは流麗に、キャビンは軽くふわっとボディに載っているように見せ、いっぽうで、車体側面にキャラクターラインと面取りを同時に入れて、ここでテンションを生み出しています。たった2本のキャラクターラインですが、力強さはかなり強く感じていただけるのではないでしょうか」 新世代を強調したキドニーグリル −−変わったといえば、フロントマスクのコンセプトも、従来とは一線を画していますね。i5と、エンジン搭載の他の5シリーズとは差別化をはかりましたか。 「いや、5シリーズは、i5を含めて基本的に共通のフロントマスクです。違うのはスポーツパックを採用したモデルです。5シリーズは、たしかに上下幅の狭いヘッドランプですが、初代から伝統的な4灯式のモチーフは継承していますし、キドニーグリルもむしろ大きく見せています。ただし、i5 M60 xDriveのようなパフォーマンスモデルだと、キドニーグリル内には縦バーは入れず、いっぽうでグリル周辺のブラックの部分を大きくして、私たちが考える新世代のスポーツ性を強調したフロントマスクとしています」 −−i5はセダンだけれどBEVです。ここがBMWデザインにとって、ある種のターニングポイントでしょうか。 「そうですねえ。言えることは、未来は明るいと私は思っています。BMWには、過去の名車というヘリティッジがあります。それを活かすことも出来るし、逆にへたをすると、それが足かせになることだってありえます。でも、スタジオには、新しいものを創造するための自由がたっぷりあります。それはもう圧倒的だと思います。なので、BEVの時代を間近に迎えながら、私はデザイナーという仕事を楽しんでいるんです」 <了>

TAG: #BMW #i5 #セダン
TEXT:小川フミオ
「i5」の造形を、BMWエクステリア・デザイン責任者がディテールから語る

ラインナップの中核である5シリーズ。そのエクステリアデザインには、スポーティかつエレガントさを併せ待つ、新しいプロポーションが見られる。小川フミオは、そのディテールを、インタビューをとおして訊き出す。 スポーティエレガンスの新しいプロポーション BMW肝煎りの8代目5シリーズ。セダンはいまもプロダクトの中核とする同社にあって、いかなる思いをこめて、デザインを完成させていったのか。 リスボンでBEV「i5」のジャーナリスト向け試乗会が開催されたのと同じタイミングで、クリストファー・ワイル氏にインタビューする機会を得た。 ワイル氏は、ヘッド・オブ・エクステリアデザインの肩書きを持ち、外観デザインを統括。ミニのデザインスタジオから移ってきて最初に手がけたモデルは、「5シリーズGT」(2009年発売)だったという。 以下は、i5を中心に、BMWの新世代のデザインをめぐっての、ワイル氏との一問一答である。 −−i5の実物は、東京で見たのが最初で、次にリスボンでじっくり観察することが出来ました。先代とはかなり変わりましたね。 「デザインコンセプトは、エレガントと軽快さ、これを強調しようということでした。なにしろ、スポーティエレガンスというのが、5シリーズのデザインにおけるキーワードでしたから。そこで私たちは、まずピラーを出来るだけ細く見せようとしました」 −−たしかに、自動車デザインの一般的なルールでは、Cピラーの付け根はリアタイヤの上あたり、とされていると思いますが、i5では、それより後ろに移されています。 「セダンのデザインにおいて、あたらしいプロポーションを作り出したい、と私たちは考えたんです。重要なことは、フロントからリアにかけて、流れるようなシルエットを形成し、クーペのような雰囲気を作るのに成功したと思います」 Aピラーを後退させて、ボンネットを長くみせる −−Aピラーの位置も、従来より後方に移されているように感じられます。 「多少そういうところはあるかもしれません。しかし基本的には、そのまま線を延ばしていくと、フロントのホイールアーチにぶつかるという、クラシカルなプロポーションのままだと思います。フロントのホイールアーチと前席ドアのシャットライン(切り欠き線)とのあいだには、けっこう大きなスペースがあって、長めのボンネットを目立たせるというBMWデザインの約束事に忠実です」 −−なるほどよくわかります。 「運転席に座ると、ボンネットの稜線が見えると思います。この意図は、ボンネットが見えていると、ドライバーは感覚的に嬉しくなるという調査結果によるものです」 −−BEVだと、ボンネットを、衝突安全基準をクリアするぎりぎりの長さまで短くして、同時に、Aピラーの付け根位置をかなり前に出すというデザインを採用するケースもありますが。 「そうはしなかったわけです。背景には、今回の8世代目の5シリーズは、エンジンもあればプラグインハイブリッドも、そしてBEVのi5と、ボンネットの下に収めるドライブトレインが多様というのもあります。なにより、BMW車の特徴である長めのボンネットを持つプロポーションを大事にしようというコンセプトを採用したんです」 べつの見方をすると、よくぞまあ、ここまで多様なドライブトレインに対応するシャシーを設計できたものだと思う。 デザインの過程では、ひょっとしたら、かつてワイル氏が手がけたという5シリーズGTのように、大胆なコンセプトのアイディアも上がったんではないだろうか。 でもはたして最終的には、多くのひとが無条件に、美しいと感じられる伝統的なプロポーションが採用された。それゆえに、BEVだろうと安心した気持ちでi5を選ぶBMWファンも少なくないかもしれない。 クリストファー・ワイル(Christopher Weil)氏について BMWエクステリア・デザイン責任者 「BMWのクルマにはいつも魅了されてきました。スポーティでありながら、同時にエレガントなフロントからリアへの移行など、ユニークなソリューションがあり、子供ながらにインスピレーションを受けました」と、子供の頃からBMWのデザインDNAに強い関心を持っていた。 コモ湖で開催された2011年のモーターショー、コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステのために製作されたBMW 328オマージュは、その代表作のひとつである。 <Vol.2へ続く>

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TEXT:小川 フミオ
BMWのEV「i7 M70 xDrive」だけに施されたデザインと引き継がれた伝統

前回、「i7 M70 xDrive」をドライブした小川フミオ氏は、改めてこのクルマのデザインを観察する。BMWの最高峰モデルにはどんな工夫が加えられているのだろうか。 特別なクルマに与えられる、特別な仕立て 新しい7シリーズは、大きくいって2つに分かれる。ひとつはガソリンとディーゼルのICE(内燃機関)、もうひとつはピュアEVの「i7」シリーズだ。 ここで紹介している「i7 M70 xDrive」は、2023年にi7のラインナップに加わった、現時点でもっともパワフルなMパフォーマンスモデル。 といっても、基本デザインは同じだ。全長5,390ミリ、全幅1,950ミリ、全高1,545ミリのディメンションをもち、ルーフの前後長は長く見える。 とりわけ個性的なのはフロントマスクの造型。上下幅が薄くて左右に広いヘッドランプと、その下に大きなエアダム。 キドニーグリルは大きいが、クロームを使っているのは輪郭線だけで、これまで縦バーも目立っていたが、今回はブラックアウトされている。その周囲もブラックの部分が多い。 フロントマスクの比較:M70と60ではブラックアウトした面積の違いでイメージもだいぶ異なる ポルトガルのリスボンで試乗車に対面したとき、押出しの強さに圧倒された。従来の「eDrive50」と「xDrive60」は、グリル周囲が車体同色の処理で、かつグリル内の縦バーもしっかり見えるデザインだったのと、かなり差異化されている。 「このクルマは、特別な存在感をもって、周囲の車両とは明らかにちがうと目だたせたいと考えていました」 BMWの乗用車のエクステリアデザインを統括するクリストファー・ワイル氏は、試乗会のときに、そう説明してくれた。 「なので、フロントマスクのデザインはとても重要です。BMWのトップクラスに属する車両には、それにふさわしいフロントマスクが必要と、ダブルレイヤーのヘッドランプまわりのデザインなどを与えました」

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TEXT:小川 フミオ
BMWは電気自動車「i7 M70 xDrive」でライバルに挑戦状を叩きつける

ポルトガルで行われたi5の国際試乗会では、「i7 M70 xDrive」もジャーナリストに委ねられていた。この「i7」のトップグレードに乗った小川フミオ氏のレポートをお届けする。 i7はBEVに新しい世界を拓いた BMWは最高峰セダン「7シリーズ」にBEV(バッテリー電気自動車)の「i7」を設定し、2022年7月から日本でも販売している。ICE(内燃機関)のバージョンもすごいけれど、i7のナチュラルな操縦感覚はBEVに新しい世界を拓いた印象すらある。 さらに、2023年には、従来の「i7 eDrive50」と「i7 xDrive60」に加えて、よりスポーティな「i7 M70 xDrive」を追加。ビー・エム・ダブリュー株式会社の手によって、日本でも5月29日から発売された。 「BMW 7シリーズ初の M ハイ・パフォーマンス・モデル電気自動車」と日本法人がプレスリリースで紹介するi7 M70 xDrive(以下M70)は、現在、i7のラインナップで最高性能を誇る。 性能をみても、「50」が650キロの走行距離と335kWの最高出力(それでもすごい)、「60」が走行距離は同じだが400kWであるのに対して、M70の走行距離は570kmとやや短くなるものの、マックスパワーは485kWにまで上がる。 「もっとも速く、もっともパワフルな、BMWのBEV」と、BMWではプレスリリースに記している。 Mの名を冠しているM70は、後輪用モーターの電圧を2倍に上げ、電力密度も過去最高の値にまで引き上げたという。これを、5世代目になるBMWのeDriveシステムに組み合わせたのが特長。

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TEXT:小川フミオ
BMW「i5」には、ユーザーインタラクションシステムにも、次世代へと移行する本気度がある

BMW「i5」のユーザーインタラクションシステム開発責任者に、小川フミオは、人とクルマのインターフェースについてを問う。そこには、ドイツ伝統のデザイン思想があることを語りはじめた。 インターフェースも、次世代へ BMWがいよいよ本格的に電気自動車の時代に突入したと感じさせられた、新型5シリーズの「i5」。なにしろ、BMWのラインナップにおける中核というセダンに設定されたのだ。 BEV(バッテリー電気自動車)のi5は、BMWがいかに車両の電動化に本気で取り組んでいるかの、またとない証明ともいえる。 ドライブトレインに加えて、室内のコミュニケーションシステム、いわゆるコネクティビティやインフォテイメントシステムも、いま、次世代へと移行しつつある。これも大きな注目点。 リスボンで開催された試乗会で、私は、このモデルにかかわった、多くのキーパースンと会うことが出来た。 プロダクトマネージャーのオリバー・ムンダー氏に加え、ユーザーインタラクションシステムの開発責任者のラインハルト・ザイデル氏は、デジタライゼーションに力を入れる新世代のBMW車において重要な存在だ。 「透明性」を重要視 以下は、ザイデル氏との一問一答。 −−担当している仕事の範囲を教えてください。 「車内のコントロールシステム全般で、そのなかには、カーブドディスプレイと操作類をどう結びつけるか、ソフトウェアのエンジニアを指揮してのインターフェイスの構築も含まれています」 −−i7とそれに続く今回のi5では、インターフェイスも新しくなっていますね。 「ひとつは、i7から採用した”インタラクション・バー Interaction Bar”ですね。ダッシュボード全域にわたって設置した帯状のコントローラーで、タッチコントロールでグラブボックスを開けたり、エアコンのベンチレーションの開閉が行えます。それに、カラーも変わります。ドライバーとの接点としては、ヘッドアップディスプレイが、速度だけでなく、状況を伝えるために重要な装備です」 −−ドライバーと車両とのインターフェイスで、もっとも重要視している点はどこですか? 「透明性です。走行中に周囲の状況が明確にわかるようにすること。運転支援装置がどのように働いていているかにはじまり、自車の前後左右の交通状況も把握できれば、ドライバーは車両を信頼できます。それを重要視しています」 −−システムが出来ることがより増えれば、操作もより複雑になっていくのは世の常ですが。 「そのとおりです。そこで、私たちはいま“クイックセレクト Quick Select”という機能をインフォテイメントシステムに搭載しています。ナビゲーション、電話、音楽再生など、ひんぱんに使う機能はトップ画面に出せて、深く”掘って”いかなくても、簡単な操作ができるのです」 −−BMWは、会話型ボイスコントロールシステムに、まっさきに着手したし(発表はちょっと遅れましたが)、さかのぼれば、2001年のBMW iDrive(アイドライブ)にはじまり、ユーザーエクスペリエンスの面で、世界に先んじてきました。その熱心な取り組みには、いかなる背景があるのでしょうか。 「たしかに私たちは、ダイヤルの回転とプッシュによって操作できるBMW   iDriveを開発しました。長いあいだ、ナビゲーションや音楽再生といったハードウェアの操作が主目的でした。ただし、ユーザーが何を求めているか、市場調査を欠かしたことはなく、その結果を、できれば先回りしてシステムに反映しているつもりです。そのため、2025年発売予定の新世代セダン“ノイエクラッセ”では、さらに進化したiDriveを搭載します。これを組み込んだダッシュボードは、目立った操作類はほぼなく、かなり斬新です。もちろん、操作性が最重要課題で開発しています」 いまもっとも先進的な(印象の)インテリアは?と考えると、BMWのiシリーズがまっさきに頭に浮かぶのは事実。 ただし、デザインのためのデザインでなく、グッドデザインは機能を表現したもの(Form Follows Function)というドイツの伝統的なデザイン思想の具現化がそのコアにある。そのことが、ザイデル氏へのインタビューからうかがい知れた。 現在「ビジョン・ノイエクラッセ」というコンセプトモデルで見るユーザーインターフェイスのコンセプトはかなり斬新。でも、リスボンで体験したi5もまた、機能性や操作性で、先んじている印象だった。 <了>

TAG: #BMW #EV #i5
TEXT:小川フミオ
BMW「i5」はビジネスアスリート!プロダクトマネージャーが語る5シリーズ初BEVの背景

スポーティであり、快適であり、惹きつけるデザインであり、初代から50数年経つ5シリーズにみる才色兼備なセダンへのこだわりを小川フミオが聞き出す。 ビジネスアスリートであるために 2023年9月おわりに国際試乗会が開催された「BMW i5」。5シリーズとして初のBEV(バッテリー電気自動車)を開発した狙いはどこにあるのか。 製品開発を担当するプロダクトマネージャーを務めたBMWのオリバー・ムンダー氏と、ユーザーインタラクションシステムの開発責任者(Head of Development User Interaction System)であるラインハルト・ザイデル氏にインタビュー。背景を語ってもらった。 まずは、ムンダー氏との一問一答から紹介する。 −−今回の8代目5シリーズ、そしてi5を開発するにあたって、当初のコンセプトはいかなるものでしたか。 「私たちは、製品発表前に一般顧客対象に調査(クリニック)を実施しました。その結果、あらためてわかったのは、多くのユーザーが、5シリーズを仕事で使っているということでした。たしかに先代5シリーズを私たちは”ビジネスアスリート”と定義しました」 −−ビジネスアスリートであるための要件とはなんでしょうか。 「スポーティな運動性能と同時に、長距離ドライブが出来る快適性をそなえていることです。じっさい、5シリーズのユーザーはかなり長い距離を走るというケースが多いようです。この2つの特徴を兼ねそなえているのは、1972年の初代5シリーズ以来の伝統で、当時は競合なんてありませんでした」 −−今回の8代目の5シリーズは歴代のなかでもかなり大胆なスタイリングをもっているように思えます。ビジネスアスリートとしても、ある種の進化が必要だったということですか。 「デザインは、5シリーズの購買層にとって、かなり重要な要素です。購買を左右するものです。新型5シリーズは、欧州はもちろん、北米、中国、アジアと広い地域で販売します。広い市場で受け入れられるデザインが必要で、この調整はけっこう大変でした。たとえば、北米市場の志向はちょっと保守的で、アジアは反対にもうすこし先進的で、一目を惹くようなデザインが好まれるようです」 −−SUV、BMW的にいうとSAVが市場ではトレンドですが、セダンをあきらめなかったのですね。 「やっぱり、セダンは私たちの核にあるものですから。市場調査をしても、5シリーズの潜在的購買層が誰しも、SAVを求めているわけではないとわかりましたし。i5はプリズムバッテリーを床下に搭載していますが、それでもSAV的なプロポーションはとらず、あくまでセダンとして市場に送り出すことにしたのです」 新たな業種が加わって、新世代BMWとなっていく −−i5の国際試乗会では、インフォテイメントシステムの、とりわけエンターテイメントコンテンツの充実を、さかんに喧伝しましたね。これから、OSのアップデートとともに、豊富な車内での娯楽を提供していくというのは、興味ぶかかったです。 「デジタルコンテンツも、アジアの市場ではたいへん重要視されます。そこで、新しい5シリーズでは、その面でもしっかり力を入れているつもりです。ポルトガルに作ったソフトウェア開発会社クリティカルテックワークス Critical TechWorksも、欧州向けのコンテンツを開発してくれています」 これまでなかったような業種も加わり出来上がるのが、新世代のBMWなのだという。 <Vol.2へ続く>

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TEXT:小川 フミオ
EV版「M5」も開発中!「i5 M60 xDrive」のロケット級の速さにも驚き!

5シリーズの電気自動車「i5」の試乗記。前回までは後輪駆動の「i5 eDrive 40」をお届けした。今回はいよいよ全輪駆動で601psの出力を誇る「i5 M60 xDrive」に乗る。 ジェット機とロケットほどの違い 「i5」には、「i5 eDrive 40」と並行して、全輪駆動で、かつパワフルなモーターを搭載した「i5 M60 xDrive」が発売された。 i5 eDrive 40が最高出力250kW、最大トルク430Nmをもつのに対して、「i5 M60 xDrive」はモーターを1基ずつ前後に搭載。フロントは192 kW、リアは250kW。システムトータルの出力は442kW、最大トルクは820Nmにもなる。 静止から時速100キロまでを3.8秒で加速する駿足ぶりを示すとともに、”電費”は100km走るのに20.6kWhから18.2kWh。満充電だと、455kmから516kmのあいだという走行距離を誇る。 フロントグリルは縦バーをもたず、BMW伝統のキドニーグリルの輪郭だけが残された個性的なデザイン。周辺がグロスブラックというアグレッシブな仕様が試乗車だった。 そのアグレッシブな印象をまったく裏切らない、驚くようなトルク感の加速と、クイックなステアリングフィールが、このクルマの身上なのだろう。 高速道路では、i5 eDrive 40も速かったが、あちらがジェット機なら、こちらはロケットだ。軽くアクセルペダルを踏み込んだだけで、周囲のクルマがあっというまに後景にしりぞくほど。 ステアリングの安定感はすばらしく、路面が多少荒れていようと、直進性がしっかり保たれるので、いっさい不安感がない。よく出来たスポーツセダンと感心させられた。 しかも、BMWとスポーツモデル開発を担当するM社は、この先「M5」に相当するモデルを準備中というのだから、どんなクルマになるのだろう。トルクたっぷりの加速感が大好きなドライバーにはたまらないだろう。 i5 M60 xDriveには、アダプティブサスペンションがおごられている。かつ、Mモデルなのでステアリングホイールコラムに「スポーツブースト」という瞬間的な加速をもたらすレバーまでついている。これは路上では使えません(笑)。

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TEXT:小川 フミオ
さすがはBMW!5シリーズの電気自動車「i5」もまごうかたなきスポーティセダン!

前回までは、BMW5シリーズに加わった電気自動車「i5」のデザインについて小川フミオ氏に語ってもらった。いよいよリスボンの街を走り出す。走りでも5シリーズの良さを失っていないのだろうか。 エンジン車と電気自動車のいいとこどり BMWの新型5シリーズのラインナップに加わった「i5」はBEV(バッテリー電気自動車)のセダンだ。5,060mmの全長に2,995mmのロングホイールベース。余裕あるサイズだが、操縦性は、スポーティセダンで鳴らしたBMWならでは!と言いたくなる。 リスボンで乗った1台は、i5 eDrive 40 Mスポーツ。81.2kWhのリチウムイオンバッテリーを床下に搭載し、最高出力は250kW、最大トルクは430Nmだ。 ひとことで言って、BMWならではの味がある。同社のスポーティセダンの延長線上に違和感なく位置づけられる。 電気モーターだからという特別性はほとんどなく、ナチュラルな運動性能と感じられるのだ。 現代のBEVとしても違和感なく、かつ、ステアリングフィールなどに、やはりBMWっぽい味つけがちゃんと感じられる。よく出来ていると思った。 高速道路では、どこまで速度が上がっていくの?というリミットが感じられない加速感に驚かされた。でも、アクセルペダルの味つけなのか、すこし抵抗感があって、そこで右足にすこし力をこめると、ぐんっと前に出る。そんなエンジン車のような印象も受けた。 BMWっぽいのは、ハンドルを切ったときの車体の反応だ。内側のノーズがすーっと内側に入っていく(車体のロールは少ないのだけれど)。 バッテリーを床下に積んでいるので、重心高が低いのも、気持ちよく車体が動くハンドリングという、いいバランスになっている。 車重は2.1トンあるのだけれど、モーターの大きなトルクによって、重さはほとんど感じない。 足まわりの設定は、とくにリアがやや硬め。そもそも4つのドライブトレイン前提で開発されたシャシーなので、サスペンションのアーム長とか、理想的な設計はちょっとむずかしかったのだろうか。 後席の床には小さめとはいえ、BEVとしては意外なセンタートンネルがある。ガソリン、ディーゼル、プラグインハイブリッド各モデルでは、排気管やドライブシャフトが通るはず。これもしようがない部分だ。 もちろん、ドライバーは、かなり楽しい思いが出来る。太めのグリップのステアリングホイールを通して、路面からの情報が手のひらにしっかり伝わってくるし、クルマの動きは繊細。 運転している自分との一体感がしっかりあるのが、i5の魅力だ。車内はかなり静かで、エンジン音はもちろん聞こえない。そこがBMWのセダンとして、妙な気分だ。

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TEXT:小川 フミオ
BMW「5シリーズ」の電気自動車は、新時代に入った「セダンデザイン」を体現している

ポルトガルで5シリーズの初のBEV(バッテリー電気自動車)に乗った小川フミオ氏は、その内外装デザインを歴代5シリーズと重ね合わせる。共通点や時代とともに進化したポイントはあるのだろうか。Vol.1の記事はこちら。 「スポーティ・エレガンス」なプロポーション 2023年に登場した新型BMW5シリーズは、1972年の初代から数えて8世代目になる。 ドイツをはじめ、欧州で5シリーズのセールスはずっと好調に推移してきた。ひとつの理由は、カンパニーカーといって、要職にある社員に貸与される一種の社有車としてのニーズが高いこと。 もうひとつは、バランスのよさだろう。初代いらい、私はずっと5シリーズのファンだった。 これは私の個人的な感想だけれど、初代から4代目まではとくに、プロポーションがよく、絵に描いたような4ドアセダンというかんじだった。 同時に、4灯式ヘッドランプと、キドニーグリルが、個性になっていた。控えめといえば控えめだけれど、じつはドライブが好き、というドライバーのキャラクターをうまく表現していたと思う。 今回の5シリーズは、全長が5メートルを超え、5,060mmに。先代より97mm延びた。初代7シリーズですら軽く超えている。どうして、こんなにサイズアップしたんだろう。 「その理由は……」と、語ってくれたのは、8代目5シリーズのプロダクトマネージャーを務めたオリバー・ムンダー氏。 「ひとつは、クラッシュセイフティの要件で、フロント部分を伸ばす必要があったためです。そして、もうひとつ、理由があります」 ムンダー氏は付け加える。 「i5は床下にリチウムイオンのバッテリーパックを収めるため、車高が高めになりました。そこで、バランスをとるため、全長を伸ばして、美しいプロポーションを保つことを選びました」 全高は1,515mmで、先代より36mm高い。しかし、たしかにシルエットを見ても、ぼてっとしたかんじはいっさいない。 新型5シリーズのデザインをして「クリア」「削ぎ落とされた」「運動性能を感じさせるプロポーション」「スポーティ・エレガンス」「存在感」と、BMWでは言葉にしている。

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連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

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