コラム 記事一覧

コラム コラム
TEXT:烏山 大輔
ランボルギーニ・ランザドールから電動化時代のスーパーカーデザインを読み解く

ランボルギーニは、8月18日にモントレー・カーウィークにおいて、2028年に登場する第4のモデルを予見させるコンセプトカー「Lanzador(ランザドール)」を発表した。 1,000馬力超は当たり前!? ランザドールは、「グランツーリスモ 2+2」というコンセプトのBEV(バッテリー電気自動車)だ。前後に各1基のモーターを搭載したAWDで、最大出力は1360馬力に達する。 2023年に1,000馬力の壁を超えた「レヴエルト」(V12NAエンジン+3モーターで1,015馬力)を一気に300馬力以上も上回るランザドールのハイスペックは、電動化へと大きく舵をきったこの時代だからこそ成し得たのだろうが、これまでICE(内燃機関)の時代に徐々に最高出力の水準を高めていった時代の伝統が軽くあしらわれているような感があり、少し寂しさも覚える。 しかしながら世界を見渡せば、「ピニンファリーナ・バッティスタ」の1,900馬力や「リマック・ネヴェーラ」の1,941馬力、「ロータス・エヴァイヤ」の2,039馬力など、BEVの高性能化はとどまる事を知らない。 ランボルギーニ流のデザイン解釈 ランザドールは、これまでの市販車にない特異なスタイルのクルマだ。言うなればSUVとスーパーカーを足して2で割ったような形だ。グランドクリアランスを十分に確保しながらも、ドアガラスの天地方向はレヴエルトや「ウラカン」のように薄い。 床下にバッテリーを敷き詰めるBEVでは、「レヴエルトのような地を這うような低さは無理だけれど、SUVは既にウルスがある」ことから、その中間のスタイリングをランボルギーニのデザイナーが導き出したのかもしれない。 同じイタリアブランドで、ついにSUVを出したフェラーリの「プロサングエ」が大ヒットしているように、このランザドールも世界の富裕層に「新しい4人乗りの面白いクルマの形」として受け入れられるかもしれない。ちなみにフェラーリはプロサングエをSUVではなく、「新しいスポーツカー」だと言っている。 なおフェラーリは、ランザドールの市販版がデビューするより3年も早い2025年に、同ブランド初のBEVを発売する予定だ。

TAG: #BEV #ランザドール #ランボルギーニ
TEXT:烏山 大輔
アキュラ、ブランド初のBEV「ZDX」を発表。兄弟車プロローグとの違いは!?NSXのようなデザインコンセプトも公開

アキュラは8月17日(米国現地時間)にモントレー・カー・ウィークにおいて、来年初頭に発売を予定しているBEV(バッテリー電気自動車)の「ZDX」を発表した。 GMとの共同開発モデル、「プロローグ」は兄弟車か ZDXは、ゼネラルモーターズ(GM)との共同開発モデルと発表されているが、現時点ではバッテリーにGMのUltium(アルティウム)バッテリーを採用すると公表されているだけで、それ以外に「プラットフォームやパワートレインを共用」などの情報はなく不明だ。 ZDXは、来年早々と同時期の発売となるホンダ・ブランドの「プロローグ」と兄弟車だと思われる。両車の写真を見比べると前後ライトの形が異なるのはもちろん、ボンネット、4枚のドアとガラス、バックドアの形状さえも異なるため、この2車のデザインの作り分けには相当力が入っている。 ZDXは、ボディカラーとは別に、前後バンパーとドアの下部がシルバーになる模様。タイプSはさらにピラーとルーフ、ミラーがブラックの3トーンとなるようだ。プロローグはボディ下部がブラックなので、カラーリングもブランドによって異なっている。 ZDXのグレードは、A-Spec(RWDまたはAWD)とType S(AWD)の2種類が用意され、価格はA-Specが6万ドル(約870万円)台から、Type Sは7万ドル(約1,016万円)台からとのこと。 ライバルとなりそうなレクサスRZ 450e(59,650ドルから、バッテリー容量71.4kWh)と比較すると、102kWhのZDXのバッテリー容量は30kWhも大きい。航続距離はA-SpecのRWDが325マイル(約523km)、AWDは315マイル(約507km)、Type Sは288マイル(約463km)以上と発表された。 最大190kWの急速充電に対応しており、10分で81マイル(約130km)分をチャージできる。 ZDXのサスペンションは前後ともにマルチリンクを採用する。A-Specはコイルスプリング、Type Sは車高調整が可能なエアサスペンション、アダプティブダンパー、イエローブレーキキャリパー(フロントはブレンボ製)、アキュラ史上最大の22インチホイールが奢られる。

TAG: #ZDX #アキュラ #ホンダ
北米でのホンダBEV戦略についての説明。筆者撮影
TEXT:桃田 健史
未だホンダBEV戦略ロードマップの詳細見えず。24年発売アキュラ「ZDX」でGM協業スタートするも、ホンダ独自専用BEVプラットフォームとの”すみわけ”は?

未だにホンダBEV戦略の実態が見えてこない。GM協業「アルティウム」とホンダ独自のBEV専用プラットフォームとの“すみわけ”はどうなるのか。また、日本でのBEVシフトに対してコンサバ過ぎる印象もある。ホンダのBEVはこれからどこに向かうのか? アメリカ市場最優先は当然の流れ ホンダのアメリカ現地法人のアメリカン・ホンダモーターが2023年8月18日、米カリフォルニア州モントレーで開催された「モントレー・カー・ウィーク」で、アキュラブランド初のBEVとなる「ZDX(ゼィーディーエックス」量産モデルを発表した。北米での発売は2024年初頭の予定。最高出力500馬力の「ZDX タイプS」も合わせて公開した。 そのほか、アメリカでは「ZDX」の兄弟車である、ホンダ「プロローグ」も2024年に発売される。 日本には現状で、アキュラブランドを展開する計画についてホンダは明らかにしておらず、「ZDX」が日本で販売される可能性は低いものと考えられる。また「プロローグ」についても北米市場向けとなる見込みだ。 周知の通り、ホンダのグローバル事業はアメリカ市場への依存度が高い。 そのアメリカでは、バイデン大統領が2021年8月に2035年に向けた自動車の電動化に関する大統領令を発令。次いで、2022年8月にはIRA(インフレ抑制法)が上下院で可決された。IRAによって、BEVの国内生産やBEV関連部品の調達についてアメリカ国内外からの投資を促す形となっている。 ホンダのみならず、日系メーカー各社の幹部は「グローバルで見た時、直近で最も重要なのはIRAへの対応」と本音を漏らす。 そもそもアメリカ市場を重視する必要があるホンダとしては、アメリカでの急激なBEVシフトに必死で食らいついていく必要があると言える。 そのため、オハイオ州メアリズビル工場とアンナ・エンジン工場、そしてジョージア州内のトランスミッション工場でのBEVシフトに向けた工場再編に着手しているところだ。

TAG: #ホンダ #電気自動車
TEXT:桃田 健史
中国CATLが、充電10分間で400km走行可能な新型電池を発表、2023年末に量産開始。日本市場向けEVでも採用あるか?

車載向けBEV用リチウムイオン電池の世界最大手である中国のCATLが、充電時間が短く航続距離が長い新型電池を発表した。CATLは日系メーカーを含めて世界の自動車メーカー各社に電池を供給しており、今回の発表は世界のBEV普及に大きな影響を与える可能性が高い。 世界最大シェアのCATLが次世代電池公開 中国のCATL(寧徳時代新能源科技)は2023年8月16日、新型の電池を世界初公開した。 商品名はShenxing(神行超充電池)で、構造としてはリン酸鉄リチウムイオン電池。 CATLによれば、10分間の急速充電で走行可能な距離は400kmで、ひとつの電池パックでの最大航続距離は700kmとした。 技術的な裏付けについては、同社のホームページで製造工程における様々な技術革新や安全性を強調した。 2023年末には量産を開始するため、2024年以降に発売される自動車メーカー各社のBEVで採用されることになるだろう。 CATLは2011年創業とまだ日は浅いが、中国市場でのBEV市場の拡大に伴い急速に事業が成長。いまや車載向けリチウムイオン電池メーカーとしては世界トップの座にある。 韓国メディアが報じた、韓国の調査会社であるSNEリサーチが2023年7月に公開した資料によれば、グローバルで2023年1月~5月期の車載向けリチウムイオン電池の総容量は237.6GWh。 製造会社別に見ると、トップはCATLの86.2GWh(シェア36.3%)、次いで中国のBYDが38.1GWh(16.1%)、韓国のLGエナジーソルーションが33.0GWh(13.9%)、パナソニックが19.1GWh(8.0%)、そして韓国のSK オンが12.4GWh(5.2%)と続く。

TAG: #CATL #ホンダ #リチウム電池
TEXT:小川フミオ
「ジャガーはフォーミュラEの技術を量産車へ」マネージング・ディレクターが語る電動化への姿勢

フォーミュラEへ参戦するジャガーの本気度を目の当たりにした小川フミオは、サーキットで同社マネージング・ディレクターに、その真意を問いかける。 技術的蓄積を、次世代量産車に投入 英国のジャガーはいま、ピュアEVのブランドへと舵を切りつつある。ピュアEVのレース「フォーミュラE」に本腰を入れて取り組み、そこで得た経験を「I-PACE」の改良に注ぎ込む。 それだけでない、と言うのは、ジャガー担当マネージングディレクターのロードン・グローバー氏だ。 ジャガーは2016年から参戦しているフォーミュラEで得た技術的蓄積を、次の世代の量産車開発に反映しているそうだ。 2023年7月29日にロンドンで、フォーミュラE選手権が開催されたのを機に、グローバー氏に、BEVへと向かうジャガーの姿勢をインタビューするチャンスを得た。 「レース活動は、私たちのDNA」 次は、レースが行われたイーストロンドンの「ExCeLロンドン」を舞台に、グローバー氏との一問一答。 −−ジャガーTCSレーシングは、今回ロンドンで最終戦を迎える2022−23年のフォーミュラEで好成績を記録しています。 「フォーミュラEは、私たちのブランドにとって、とても大切だと思ってやってきました。なぜなら、レース活動は、私たちのDNAの一部だからです。私たちは、ずっとモータースポーツ活動を続けてきました。最初は1949年に時速120マイルと世界最速を謳ったスポーツカーを発表し、その年シルバーストン(サーキット)でレースに投入、翌50年はXK120Sとしてルマン24時間レースに出走し、プライベートのエントラントが総合12位で完走しています。そのあとも、ルマンで2回優勝したCタイプ(51年)、4回優勝したDタイプ(54年)、ずっと後になりますが、88年のデイトナ24時間レースとルマンで優勝したXJR-9、そして2000年から2004年にかけてはF1にも参戦していました。でも、今回は、地球環境保全(サステナビリティ)を念頭に置いたレース活動として、フォーミュラEに参戦しています」 −−でも、2016−17年のシーズン3でフォーミュラEに参戦してから、平坦な道ではなかったはずです。2020−21年シーズンでようやく3位に浮上するまで、6位とか7位とかで低迷していました。シーズン9はとりわけ調子いいですね。 「そうなんです。ずいぶん多くのシーズンを過ごしてきて感じるのは、シーズンごとに、フォーミュラEはどんどん力をつけてきているなということです。それに、大きくなっています。たとえば、宣伝力がついてきているし、観客動員数もどんどん多くなっています。今回のロンドンでは、ピット前の観客席は満員に見えますよね。シリーズごとに人気が出ている証明でしょう」 −−ジャガーが強くなったのは、いいパートナーと組めているからでしょうか。 「それもあります。私たちと一緒に組みたいと言ってくれるパートナー企業が増えています。そうすると、どんどん高い技術力が手に入ります。それに、あなたがたのようなジャーナリストが取材に来てくれる。こうして、フォーミュラEでの活動は、さまざまな面で、いい成果を私たちにもたらしてくれるのです」 <Vol.2へ続く>

TAG: #ジャガー #フォーミュラE #モータースポーツ
TEXT:小川フミオ
フォーミュラEは進化している。ピュアEVのレーシング・シーンに高まる期待。ロンドン観戦記その3

フォーミュラEの今季最終戦を観戦した小川フミオは、ピュアEVのレーシング・シーンへ期待を高めている。それは東京での開催があることだけではなく、地球環境維持へ、マシンとチームが進化しているからだ。 サステナビリティをテーマにしたフォーミュラE フォーミュラEにおいては、サステナビリティ、つまり地球環境維持が重要なテーマとされている。ゆえに、このレース開催が発表さたとき、私はおもしろい!と思ったし、世界中に同じことを思ったひとが多かった。 あいにく、レースがおもしろくないとか、内容をくさすような発言が、現役レーシングドライバーから出ているとの報道もあり、初期の熱に水がさされたかたちになってしまったのも事実。 でも、継続は力なりの言葉どおり、2023年のシーズン9は、ジャガーTCSレーシングと、エンビジョン・レーシングの首位争いもあって、大きな盛り上がりを見せてくれた。 とくに私が出かけたロンドンEプリ(グランプリでなくイープリ)では、上記ふたつの英国のチームの競り合いで、多くの観客が詰めかけたようだ。 来季は新体制でのぞむジャガー はたして、2023年7月30日の最終戦では、ジャガーTCSレーシングのミッチ・エバンスを抑えて、エンビジョン・レーシングのニック・キャシディが1位を手中に収めた。 それによって、2022−23年のフォーミュラEにおける選手権は、エンビジョン・レーシングのものとなったのだった。ジャガーには残念な結果でシーズンを終えた。 でも(といえばいいのか)、来季のジャガーTCSレーシングは、これまでナンバーツーを務めていたサム・バードを放出。上記のニック・キャシディ(下の写真)と契約を交わしたのだった。 これによって、シーズン10(2023−24年)のフォーミュラE選手権において、ジャガーTCSレーシングは、エバンスとキャシディという2人のニュージーランド人ドライバーを抱えることになる。 「ニック・キャシディのチームへの加入を発表できたことを嬉しく思います。彼が日本でレースをしていた頃からずっと注目していました。 フォーミュラEに参戦して以来ますます力をつけており、2023年シーズンの活躍は非常に目覚ましいものでした」 チームプリンシパルのジェイムズ・バークリーはこのような談話を発表し、「最も強力なドライバーラインアップを擁して新シーズンに臨む」としている。 いっぽう、英国では、BEVの売れ行きがけっこうよく、2023年前半の乗用車販売の5台に1台が電気で走るモデルだったとか。そんなことも、フォーミュラE人気を後押ししている、とする英国のメディアもある。

TAG: #ジャガー #フォーミュラE #モータースポーツ
TEXT:小川フミオ
フォーミュラEは熱い。ピュアEVのレーシング・シーンにある熾烈な争い。ロンドン観戦記その2

フォーミュラEをロンドンで観戦した小川フミオは、ピュアEVが駆け抜けるサーキットで、熾烈な争いを目の当たりにした。タイトル争い第15戦は白熱したものだった。 シーズンタイトルをかけた一騎打ち BEVのレース「フォーミュラE」のおもしろさは、じっさいにレースに足を運んでみて、なるほどと思うものだった。 私が出かけたのは、2023年7月29日の第15戦。このとき「ジャガーTCSレーシング」と「エンビジョン・レーシング」が選手権をかけて争っていた。 ジャガーTCSレーシングと、エンビジョン・レーシングの一騎打ちの様相で、かなり盛り上がっていた。ドライバー選手権も、やはり、両チームとも、自分たちが獲得できるかも、というところまで上がっていた。 このときの結果と、翌30日の第16戦(最終戦)の結果とで、2023年シーズンの選手権が決まるから、ピットまわりの興奮もひときわ。 応援しているジャガー・カーズのスタッフも「ドキドキするよ」とレース前は真剣な面持ちだった。 「マナーがアグレッシブすぎる!」 コースは、幅が狭いうえに、エスケープゾーンがほぼ存在しない。なので私が観ているあいだにも、スポンジバリアに突っ込む車両が何台もいた。 けっこうラフなレースで、タイトコーナーで相手のマシンを押しだしてスポンジバリアに激突させる走りも目撃した。途中で、「マナーがアグレッシブすぎる!」と、クレームを出すチームまで現れるしまつ。 スピンしたり事故を起こした車両がいることを後続車に知らせるイエローフラッグが振られるのはしょっちゅうで、私が観た第15戦はセッション中断のレッドフラッグも数回振られた。 リアのドライブトレインで差をつける アクセルペダルを踏み込んだとたん最大トルクを発生するモーターの特性のため、予想いじょうに速いペースでマシンは疾走。これも観ていて飽きない理由だ。2.1キロのコースを1分12秒ほどで回ってしまう。 フォーミュラE用のマシンは、フロントにはバッテリー充電用のモーター、リアには駆動用にモーター搭載の後輪駆動が基本レイアウト。シャシーやフロントサスペンション、タイヤ、それにフロントのモーターなどは同一規格。 チームごとに違うのは、後輪用のドライブトレインほぼすべて。モーター、インバーター、ギアボックス、ディファレンシャルギア、ドライブシャフトといったものだ。 ジャガーのばあい、自社開発の後輪用ドライブトレインを、ジャガーTCSレーシングと、もうひとつ、エンビジョン・レーシングというチームに提供している。 2023年から投入された「第3世代」マシンでは、ホイールベースを含めてディメンションがやや縮小。さらに、ドライバーを含めた重量が軽量化。 第2世代の2倍にあたる回生能力をもち、レース中に使うエネルギーの約40パーセントは回生エネルギーで、かつ、この回生の際のブレーキ効果により、リアブレーキを廃止。 エバンスの勝利。チーム・タイトルは最終戦にもつれる はたして、第15戦は、ジャガーTCSレーシングのミッチ・エバンスがみごと1位を獲得。チームプリンシパルのジェイムズ・バークリーが小躍りして喜んでいたのも印象的だった。 あいにく、そんなエバンスの頑張りでも、「アバランチ・アンドレッティ・フォーミュラE」のジェイク・デニス(英国出身)が2位獲得により、ポイント数で23年のドライバー選手権を手中に収めたのだった。 ドライバー選手権は残念だったが、ジャガーTCSレーシングのエバンスのチームメイト、サム・バードが4位入賞で、チームの選手権のポイント数でエンビジョンと同率1位に。勝利も夢でなくなった。 <その3に続く>

TAG: #ジャガー #フォーミュラE #モータースポーツ
TEXT:小川フミオ
フォーミュラEはおもしろい。ピュアEVのレーシング・シーンにある独創性。ロンドン観戦記その1

フォーミュラEが、来年の3月に東京で開催される。小川フミオは、今シーズン第15戦と最終戦の第16戦をロンドンで観戦し、ピュアEVのレーシング・シーンを体感してきた。 東京に来る前に、ロンドンで先触れする 自動車レースの最高峰と言われるのは、フォーミュラ1、通称F1。もういっぽうの極にあるともいえるレースがフォーミュラE。ピュアEVのレースだ。 正式には「ABB  FIA  Formula E  World  Championship」の「2023 Hankook London E-Prix」と呼ばれるこのレース。さきごろ、2022−23年シーズンの第15戦と、最終戦の第16戦が、立て続けにロンドンで開催された。 私はそれを観たが(最終戦はオンライン)、期待を上回るおもしろさだった。 このレースが、2024年3月に、東京にもやってくる。その先触れというか、私的に楽しめたロンドンでのレースについて、おもしろかったところを報告したい。 第15戦と第16戦と続けての見どころは、「ジャガーTCSレーシング」と、ジャガーがドライブトレインを提供している「エンビジョン・レーシング」との一騎打ち。 2023年の選手権がかかっているレースだった。エンビジョン・レーシングがややリードして迎えた最後の2戦だが、勝敗の行方は定まっていない。ジャガーTCSレーシングは力が入っていた。 市街地、オーバーテイクのむずかしさ、ラインか、パワーか…… そもそも、フォーミュラEというレースの特徴はいくつもあって、F1より広い層が楽しめるような工夫がいろいろ見られる。 ひとつは、市街地を使ってのコース設営。「F1のように遠くへ出かけるのでなく、レースのあとは商業地区でショッピングへとすぐ行けます」。ジャガー・カーズの広報担当者は、私にそう話してくれた。 インドアも使うので、そこでは派手な音楽がかかって、そもそも甲高い(しかしそんなに大きくない)音しかしないレースを盛り立てる。 この音楽がうるさいという声もあるけれど、1時間半ぐらいのレースなので、まあ、ガマンできる。 もうひとつは、オーバーテイクのむずかしい、幅員の狭い特設コース。そこを時速200キロで走るだけに、もとF1ドライバーなど、その道の達人がドライバーを務めているのもわかる。 そして、「アタックモード」。やや正しいラインから外れてしまうが、「アクティベーションゾーン」なる短い区間を走るときだけ、通常の300キロワットから350キロワットにパワーアップする。 ラインをとるのか、パワーアップをとるのか。かつ、アクティベーションゾーンを2回通行するのが義務づけられている。ゲーム感覚でおもしろい。 ジャガーのフォーミュラEへの本気度 ジャガーTCSレーシングが、フォーミュラE選手権に参戦したのは、2016年10月。その間に、マシンは第1世代(Gen.1などと表記される)、第2世代、そして23年から第3世代へと進化してきた。 本体であるジャガー・カーズ(とグループ企業のランドローバー)は、「将来のBEVのロードカーへの知見を得られる」と、ジャガーTCSレーシングフォーミュラE選手権に参戦する意義を語る。 そもそも、フォーミュラE選手権は、2012年に、F1も管轄する世界自動車連盟(FIA)がシリーズ化を発表。2014年9月に初開催された。 意義としては「明日のロードカーへの道を拓く」(FIAのHP)とされる。当初はワンメイクレースの色彩が濃く、私も、意義はりっぱに思えるけれど、F1ほど燃えないなあと思っていた。 2020年シーズンからは、しかし、FIAの正式選手権レースになり、同時にマシンの性能も大幅にアップ。かつてのように、フル加速するとゴールまでバッテリーがもたない、なんてこともなくなったようだ。 2022−23年のシーズン9に参戦したチームをみると、ジャガーをはじめ、ポルシェ、マセラティ、マクラーレン、日産、NIO、DSと、ハイパフォーマンスのBEVに力を入れているブランドの名前が並ぶ。 「ジャガーは2025年から完全なピュア電気自動車のブランドをめざしています。それゆえに、フォーミュラEはまたとない実験の場と考えています」 ロンドンのレーストラックで話を聞いた、ジャガー担当マネージングディレクターのロードン・グローバー Rawdon  Glover氏は、そう語った。 <その2へ続く>

TAG: #ジャガー #フォーミュラE #モータースポーツ
電動モビリティシステム専門職大学(photo=福田雅敏)
TEXT:福田 雅敏
リチウムイオン・バッテリーの製造研究施設も完備……世界初のEV専門職大学の本気度

後編はキャンパス内の施設を紹介 2023年4月、「学校法人赤門学院 電動モビリティシステム専門職大学(電動モビリティ大学)」<山形県飯豊町>がオープンした。文部科学省より認可を得た「専門職大学」であり、世界初の「電気自動車」と「自動運転」に特化した教育機関である。 「前編」では、本校の教育内容などを紹介した。後編では、キャンパスには一体どのような設備があるのか、施設面を紹介したい。 キャンパスは大きく4つの施設で構成 キャンパスには、「教育棟」「研修棟」「実習棟」「テストコース」が設けられている。 「教育棟」は、地元の木材を使用して建てられた温かみのある建物となっている。まるでロッヂの中にいるようで、くつろげる雰囲気がある。 この中には、教室・学生ラウンジ・ものづくり室・図書館等が設けられている。さらに、日本EVクラブ製作のEVレーシングカー「電友一号」や、細かく分解された「テスラ・モデル3」、一人乗りのパーソナルコミューター「プラチナカー」などが展示されている。特に「テスラ・モデル3」の解体標本は、それだけでも見ごたえ十分だ。  最新のCADも用意するが職人技を鍛える昔ながらの工作機械も完備 教室の中では、学生がCAD(キャド:設計ソフト)の学習をしていた。ここには、自動車業界御用達のハイエンドソフト「CATIA V5(バージョン5)」が18端末分用意されている。また、プログラミングのプラットフォーム「MATLAB(マトラボ)」を使用している学生も見られた。 この教室の隣には「ものづくり室」がある。旋盤・ボール盤・フライス盤・溶接機の工作機械に加えて、それらに使用する工具一式が揃っている。この時代にアナログな機械のように思えるが、やはり自分の手で品物を考え・作り・仕上げるというのは、ものづくりの基本中の基本である。 工業品を製作してみるとわかるのだが、仕上げた面の荒さや、ノギスで測った際の0.0数mmの誤差などは現品を確認しなければ分からない。金属やプラスチックは“ナマモノ”なのだ。 このあたりの“職人のカン”は、アナログな手法でなければ鍛えられない。メタバースなどでのシミュレーションは無理である。ちなみに教室内にあった溶接機の隣には、アルミ板を溶接したものが置かれていたが、熱で反りまくっていた。この失敗の経験が必要なのだ。 今年入学の生徒にはまだアルミ溶接は難しいだろうが、実習を通して技術と勘をがっちりと鍛えてほしい。もちろん旋盤やボール盤も同じである。 教育機関では日本唯一と見られるバッテリーの製造設備 「教育棟」の向かい側に「研究実習棟」がある。ここでの注目設備は、リチウムイオン・バッテリーの製造設備である。正極・負極材に用いる素材の“粉”を調合し、ラミネートセルまで作れるのだ。 さらには充放電などの試験・評価設備も整っている。バッテリーに関する設備をここまで整えている教育機関は、日本でもここだけのようである。

TAG: #THE視点 #テクノロジー #国内ビジネス
電動モビリティシステム専門職大学(photo=福田雅敏)
TEXT:福田 雅敏
日本初のEV専門大学がオープン……日本の自動車業界に風穴を開けるエンジニアを養成できるか

世界初のEV専門教育機関が山形に 2023年4月、「学校法人赤門学院 電動モビリティシステム専門職大学(電動モビリティ大学)」<山形県飯豊町>がオープンした。文部科学省より認可を得た「専門職大学」であり、世界初の「電気自動車」と「自動運転」に特化した教育機関である。 EVに対する教育を自動車教育の中の「一つの単元」ではなく、専門校としたのは画期的である。7月に実際に大学を視察できたのでレポートをする。 初代学長は八輪のスーパーEV「エリーカ」生みの親の清水 浩氏 「電動モビリティ大学」の母体は、宮城県仙台市の「専門学校 赤門学院」。「赤門自動車整備大学校」を運営しているノウハウのある学校法人だ。「電動モビリティ大学」はその姉妹校的な存在と言えようか。 学長は慶應大学の名誉教授である清水 浩氏。インホイール・モーター式EV開発の第一人者であり、筆者も開発に参画した慶應大学制作の八輪スーパーEV「エリーカ」の生みの親である。 大学は、2022年8月末に認可が下りた生まれたてである。実は認可が降りるまで“2浪”し、3度目にてようやくの認可となったようだ。学生の募集を開始したのは、22年の9月と中途半端な時期となったが、その背景に認可の問題があった。 学生の定員は1学年40名で、4学年合わせて160名。教育陣は、専任教員23名に講師20名という構成にてEVの各教育を行う。 キャンパスは、「教育棟」「研究棟」「実習棟」「テストコース」を一つの敷地内に設置している。

TAG: #THE視点 #テクノロジー #国内ビジネス
連載企画 一覧
VOL.15
本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第15回

ジャパン・モビリティ・ショー開催でにわかに沸き立つ日本のEVマーケット。しかし現実の販売状況は日本において大きく立ち遅れている。技術では先導してきたはずの日本メーカーは、なぜEVで世界をリードできていないのか。この分野のベテランジャーナリストである御堀 直嗣が解説する。 日本の低いEV市場占有率 日本は、世界に先駆けて電気自動車(EV)の市販に踏み切った。2009年に三菱自動車工業が、軽自動車EVの「i-MiEV」を法人向けにリース販売しはじめ、翌10年には一般消費者向けへの販売も開始した。同年には、日産自動車も小型EVの「リーフ」を発売した。この2社によって、EVの量産市販が実現し、ことにリーフは海外への販売も行われ、「i-MiEV」はフランスの当時PSA社にOEM供給された。リーフの販売は世界で累計65万台に達し、その他EVを含めると、日産は世界で100万台のEV販売の実績を持つ。そのうち、日本国内は累計23万台である。 ちなみに、米国テスラは2022年では年間で約130万台、中国のBYDは同年に約90万台規模へ成長している。 同時にまた、世界共通の充電規格であるCHAdeMO(チャデモ)も準備され、リーフが販売される世界の各地域にCHAdeMO充電器の設置が動き出した。 それらを背景に、経済産業省は2012年度補正予算で1,005億円の補助金を計上し、全国に約10万基の充電器を整備するとした。この補助金は全額支給でないため、トヨタ/日産/ホンダ/三菱自の4社が資金を拠出し、補助金で賄いきれない残額を補填することに合意した。 しかし、現在の充電器の数は、急速充電と普通充電を合わせて約2万基である。 国内の新車販売において、EVが占める割合は1%以下という状況が長く続いた。昨2022年、「日産サクラ」と「三菱eKクロスEV」が発売となり、1年で5万台以上を販売することで2%ほどの占有率になろうかという状況にある。 一方、世界全体では、EVの市場占有率が13%になる。米国は5.8%、欧州は12%、中国は21%となっており、日本がいかに低水準であるかがみえてくる。 日本でEV普及が進まなかった理由 EVの先駆者であった日本が、なぜ欧米や中国の後塵を拝するようになったのか。 最大の要因は、せっかく1,005億円という充電基盤整備に対する経済産業省の支援があったにもかかわらず、急速充電器の整備にばかり世間の目が行き、EV利用の基本である基礎充電、すなわち自宅での普通充電(200V)の重要性が広がらなかったからである。ことに、マンションなど集合住宅の駐車場と、月極駐車場への普通充電設置がほぼできなかったことが原因であった。 EVの充電は、普通充電で8~10時間、あるいはそれ以上かかるとされ、これが単純にガソリンスタンドでの給油時間と比較されて、使い勝手が悪いとさまざまな媒体を通じて流布された。いまでもそうした論調が消えていない。しかし、自宅で普通充電できれば、寝ている間に満充電になるので、翌朝出かけるときは満充電で出発できる。 戸建て住宅に住む人はそれができた。ところが、戸建て住宅でも自宅に車庫がなく月極駐車場を利用する人は、近隣の急速充電器を利用しなければならなくなった。 集合住宅に住む人は、敷地内に駐車場が併設されていても、管理組合の同意が得られず普通充電ができない状態に陥った。無知がもたらした悲劇だ。EVを買う意思があっても、手に入れにくい状況があった。 集合住宅の管理組合で賛同が得られない最大の理由は、幹事がEV時代を予測できず、また自分には関係ないとして無視され続けたことにある。設置の経費は、ことに当初は補助金と自動車メーカー4社による補填があったので、ほぼゼロであった。現在でも、施工業者が残金を負担するなどのやりくりで、集合住宅側の負担が軽く済む仕組みが出てきている。それでもなお、管理組合で合意を得るのが難しい状況は払拭できていない。 基礎充電の普及を目指す業者の間でも、さらに難しいとされるのが月極駐車場への普通充電の設置だ。月極駐車場を管理する不動産業者の理解を得にくいという。

VOL.1
リッター200円にもう限界……給油の“枷”をぶっちぎれ!【モデルサードインパクト vol.1】

ガソリン高い、燃費も悪い、限界だ! かつてないほどの猛暑に喘いだであろう今夏。「もういいよ」「もう下がってくれ」と、気温に対して誰もが感じていたと思うが、自動車ユーザーはガソリン価格に対しても同じことを思っていたのではないだろうか。 リッターあたり170円、180円、190円、そして200円の大台を突破……給油をするたびに、誰もが憂鬱な気分になったはずだ。小生はドイツの某オープンスポーツカーに乗っているのだが、リッターあたり平均10kmでハイオク仕様。愛車にガソリンを入れるたび、顔が青ざめていた。 「高額給油という枷から解放されたい……」 EVの購入を決意した所感である。クルマを走らせることは、本来喜びのはず。給油のたびに落ち込むのは本望ではない。 小生は、THE EV TIMES(TET)の編集スタッフを務めています。この9月、「テスラ・モデル3・パフォーマンス」を購入しました。新たな愛車と共に進むEVライフを「モデル・サードインパクト」と銘打ち、連載で紹介していこうと思います。 EVは便利だと実感した「日産リーフ」 小生が初めて体験したEVは「日産リーフ」(2代目)である。遡ること2017年、「リーフ」が2代目になった頃、日産が全国で試乗キャラバンを開催し、小生はその試乗アテンダントを担当していた。そこで「リーフ」を存分に運転することができたのだ。 それゆえ、EVの利便性の高さを実感することになった。スポーツモデル顔負けの力強くスムーズな加速にまず驚いたのだが、給油という枷から外れて自由に走り回れることが大変な魅力に感じた。アイドリング状態でエアコンを入れっぱなしでもガソリン代を気にせずに済む。車内でPCを開けば、そのままオフィスになる。車の用途が無限大に広がると感じた。 充電時間も特別長いとは感じなかった。充電残量が50%くらいになったら、急速充電を使用してあっという間に80%まで回復できる。ちなみに100%まで充電した場合、280kmを走れる表示が出ていたと記憶している(当時は寒い季節で暖房を使用した)。ちょっとした遠出も十分に対応可能。「EVなんて不便」という印象は全く抱かなかった。そこで薄々と「将来はEVもアリだな」と思ったのだ。

VOL.20
VW「ID.4」オーナーはアウトバーンを時速何キロで走る? [ID.4をチャージせよ!:その20]

9月上旬、スイスで開催された「ID.TREFFEN」(ID.ミーティング)を取材した際に、参加していた「ID.4」オーナーに、そのクルマを選んだ理由などを聞きました。 フォルクスワーゲン一筋 鮮やかな“キングズレッドメタリック”のID.4で登場したのは、ドイツのハノーファーからはるばるスイスに駆けつけたデュブラック・マルクスさん。「フォルクスワーゲンT3」のTシャツを着ているくらいですから、かなりのフォルクスワーゲン好きと見ましたが、予想は的中! 「18歳で免許を取ってからこれまで30年間、フォルクスワーゲンしか買ったことがないんですよ」という、まさにフォルクスワーゲン一筋の御仁でした。 彼の愛車はID.4のなかでももっともハイパフォーマンスな「ID.4 GTX」。日本未導入のこのグレードは、2モーターの4WD仕様で、最高出力220kW(299PS)を発揮するというスポーツモデル。こんなクルマに乗れるなんて、なんともうらやましいかぎりです。 そんなマルクスさんにID.4 GTXを購入した理由を尋ねると、「これからはEVの時代だと思ったので!」と明確な答えが返ってきました。とはいえ、ID.ファミリーのトップバッターである「ID.3」が登場した時点ではすぐに動き出すことはありませんでした。「1年半くらい前にID.4 GTXを試乗する機会があって、踏んだ瞬間から力強くダッシュするID.4 GTXのパンチ力にすっかり惚れ込んでしまい、即決でしたよ(笑)」。

VOL.14
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

VOL.3
ボルボは新型EVの「EX30」でインテリアに新たな価値を与え、空間を最大限、利用する!

ボルボはEX30の室内で多くの新たなチャレンジを行なっていると謳う。その詳細を小川フミオ氏が訊いていく。連載1回目はこちら、2回目はこちら。 冷たさの排除し素材を“素直”に使う EX30のインテリアが、他車と決定的に違うのは、金属的な表面処理がほとんど見当たらないこと。それは意図的にそうしたのだと、インテリアデザインを統括するリサ・リーブス氏は言う。 「心したのは、冷たさの排除です。使う素材はオネスト、つまり木に見えるものは木であり、また同時に、リサイクル素材を人間にやさしいかたちで使用しました」 インテリアは「ブリーズ」(やさしい風)をはじめ「ミスト」(もや)、「パイン」(松)それに「インディゴ」と4種類(日本はそのうち「ブリーズ」と「ミスト」を導入)。 「ブリーズを例にとると、デザインインスピレーションはサマーデイズ。シート表皮の素材はピクセルニットとノルディコ、ダッシュボードの飾り材はパーティクル、そして空気吹き出し口のカラーはブルーです」 リーブス氏は説明してくれる。 「ピクセルニットはPETボトルをリサイクルしたもの。それを3Dニッティング(立体編み)プロセスでシート用素材にしています。組み合わせるノルディコは、PETボトルなどのリサイクル素材、北欧で計画的に伐採された木から採取された素材、リサイクルされたワインコルクなどで作られたテキスタイルです」 ダッシュボード用のパーティクルは、窓枠やシャッターを中心に工業廃棄物であるプラスチックを粉砕したものだし、フロアマットは漁網をリサイクルしたという。 「リサイクル材とともに、インテリアは雰囲気を統一したので、私たちは“ルーム”という名を与えています。インディゴの場合、デザインインスピレーションは”夜のはじまり”で、デニムをリサイクルしたときに余る糸を使った素材をシート表皮に使っています」 シートじたいは「スニーカーにインスパイアされた形状」(メイヤー氏)だそうだ。

VOL.2
ボルボの新型電気自動車「EX30」にはスターウォーズのデザインが取り入れられている!?

エンジンの回転の盛り上がりには、時に人間的な表現が用いられる。しかしBEV(バッテリー電気自動車)はエンジンもなく無音なため、より無機質な、機械的な印象が強くなる。ボルボはそんなBEVに人間的な要素を入れたと主張する。連載1回目はこちら。 どことなく楽しい感じの表情 ボルボEX30は、いってみれば、二面性のあるモデルだ。ひとつは、地球環境保全(サステナビリティ)を重視したコンセプト。もうひとつは、大トルクの電気モーターの特性を活かしたスポーツ性。 デザイナーは「いずれにしても、BEVと一目でわかってもらうデザインが重要と考えました」(エクステリアデザイン統括のTジョン・メイヤー氏)と言う。 「もちろん、昨今ではICE(エンジン車)かBEVか、デザインをするときあえて差別化をしないのが世界的な流れです。ただし、私たちとしては、スカンジナビアデザインの原則を守りつつデザインしました」 メイヤー氏の言葉を借りて、この場合のスカンジナビアデザインの肝要を説明すると「形態は機能に従う」となる。 「そこで、上部に開口部とグリルはもたせないようにしようと。ただし(インバーターなどのために)空気を採り入れる必要はあるので、下にインレットは設けています」 ボルボ車のデザインアイディンティティである「トール(神の)ハンマー」なる形状のヘッドランプも採用。ただし、カバーで覆った一体型でなく、四角いLEDのマトリックスが独立しているような形状があたらしい。 「そうやって出来上がったのがこのデザインです。顔になっていて、そこには眼があって、鼻があって、口があるんです。どことなく楽しいかんじで、これまで以上に人間的な表情を実現しました」 暴力的でもなければ、ロボット的でもない。メイヤー氏はそこを強調した。

VOL.1
ボルボの新型電気自動車「EX30」は、相反する2面性を合わせ持つ文武両道なクルマ

ボルボの新たなBEV(バッテリー電気自動車)として、ついに10月2日から「サブスク」モデルの申し込みが始まるEX30。この「ボルボ史上最小のBEV」はどのように開発されたのか。ミラノで行われたワールドプレミアに参加した小川フミオ氏が関係者の声とともに振り返る。 スカンディナビアン+デジタル 2023年6月に登場したEX30は、コアコンピューティングテクノロジーを大胆に採用する、ボルボの新世代BEV。 内容にとどまらず、同時に、デザイン面でもさまざまな大胆な試みがなされているのも特徴だ。 いってみれば、伝統的ともいえるスカンディナビアンテイストに、デジタライゼーションの融合。 「私たちのデザイン的価値のすべてを小さなフォーマットで具現」したモデルと、ボルボ・カーズはプレスリリース内で謳う。 「非常に電気自動車的なデザインで(中略)閉じられたシールド(フロントグリルの開口部のこと)とデジタル表現を用いたトールハンマーヘッドライト」がフロント部の特徴とされる。 さらに新世代BEVとしてボルボが狙ったものはなんだろう。ミラノでの発表会において出合った担当デザイナー(たち)に、デザインの見どころと背景にあるコンセプトを取材した。

VOL.5
「BMW iX xDrive50」の高速電費は我慢不要! ロングドライブにうってつけのEV

[THE EV TIMES流・電費ガチ計測] THE EV TIMES(TET)流電費計測の5回目を、8月に「BMW iX xDrive50」で実施した。車高の高いSUVにもかかわらず、高速巡航時に電費が低下しにくいのが特徴だ。その詳細をお伝えする。 ※計測方法などについてはこちら、試乗記はこちらをご覧ください。 100km/h巡航でどんどん行こう iX xDrive50のカタログに記載された「一充電走行距離」は650km(WLTC)で、電池容量は111.5kWhだ。650kmを実現するには、電費が5.83km/kWh(以後、目標電費)を上回る必要がある。 各区間の計測結果は下記表の通り。5.83km/kWhを上回った場合、赤字にしている。 これまでのTETによる電費計測で初めてA区間の往路と平均で目標電費を超えた。A区間のように標高差が少ない場所では同じ状況になり得る、つまり100km/h巡航で一充電走行距離の650km近くを走破できる可能性がある。   100km/h巡航でも600kmは走れそう 各巡航速度の平均電費は下表の通りだ。「航続可能距離」は電費にバッテリー総容量をかけたもの、「一充電走行距離との比率」は650kmに対して、どれほど良いのか、悪いかだ。 iXのエクステリアは、大きなキドニーグリルが特徴的だ。ざっくり言えば全長5m、全幅2m、全高1.7m、車重2.5トンの堂々としたボディだが、Cd値が0.25と優れている。 100km/h巡航におけるiXの電費は、5.71km/kWhであった。絶対的な数値としては決して高くないが、一充電走行距離との比率を計算すると98%と、これまでにTETが計測したデータの中で最高の結果を記録した。120km/h巡航でもこの数字は78%であった。 つまり、iXは高速巡航でも電費の低下が少ないEVだといえる。 ちなみに、過去に計測したメルセデス「EQE 350+」は、この100km/h巡航時の比率が90%だった。EQEはセダンボディで背が低く、Cd値0.22で、高速巡航には有利であることを考えても、iXの98%という数字の凄さが分かる。 この結果は、空力性能の良好さと高効率なパワートレインの賜物ではないかと思う。BMWが「テクノロジー・フラッグシップ」「次世代を見据え、長距離走行が可能な革新的な次世代電気自動車」と謳っているだけのことはある。これらの記録を塗り替えるクルマが現れるのか、今後の計測が楽しみだ。   各巡航速度ごとの比率は以下の通り。80km/hから100km/hに速度を上げると21%電費が悪くなる。120km/hから80km/hに下げると1.6倍の航続距離の伸長が期待できる。

VOL.19
ぐっとパワフルな2024年モデルのフォルクスワーゲン「ID.4」をミュンヘンで緊急試乗! [ID.4をチャージせよ!:その19]

コンパクトSUVタイプの電気自動車「ID.4」が2024年モデルにアップデート。この最新版をドイツ・ミュンヘンでさっそく試乗しました。 モーターのパワーは60kW増し 「ID.4」が2024年モデルにアップデートし、コックピットのデザインが様変わりしたことは、前回のコラムで述べました。さらに今回の仕様変更では、走りにかかわる部分にも手が加えられています。 一番の変更が、新開発のモーターが搭載されたこと。フォルクスワーゲンでは、ID.ファミリーのプレミアムセダンである「ID.7」に、新たに開発した「APP550」型の電気モーターを採用しました。最高出力は210kW(286PS)と実にパワフルです。これが2024年モデルの「ID.4プロ」にも搭載されることになりました。これまでの「ID.4プロ」の最高出力が150kWですので、出力は60kW、4割増しという計算。最大トルクも従来の310Nmから545Nmとなり、こちらは75%の大幅アップです。 バッテリー容量は77kWhで変更はありませんが、2024年モデルからはバッテリーの“プレコンディショニング機能”を搭載し、冬の寒い時期、充電前にバッテリー温度を高めておくことで充電量の低下を抑えることができます。これはうれしい! 他にも、可変ダンピングシステムのDCC(ダイナミックシャシーコントロール)の改良なども行われ、果たしてどんな走りを見せてくれるのか、興味津々です。 早く乗ってみたいなぁ……と思っていたら、なんとうれしいことに、発表されたばかりの2024年式ID.4 プロ・パフォーマンスを、ドイツ・ミュンヘンで試乗するチャンスに恵まれました。試乗時間は約20分と超ショートですが、わが愛車のID.4 プロ・ローンチエディションと比較するには十分な時間です。

VOL.18
ミュンヘンで「ID.4」の2024年モデルに遭遇! [ID.4をチャージせよ!:その18]

ミュンヘンモーターショー(IAA)のメイン会場近くで、フォルクスワーゲンがメディア向けイベントを開催。そこで、2024年モデルの「ID.4」に遭遇しました。 見た目は同じ イベントスペースのパーキングに待機していたのは、“コスタアズールメタリック”のボディが爽やかな「ID.4 プロ・パフォーマンス」。日本のラインアップにはないボディカラーに目を奪われますが、エクステリアデザインはこれまでと同じで、私の愛車の「ID.4 プロ・ローンチエディション」との違いは1インチアップの21インチホイールが装着されていることくらいです。 ところが運転席に座ると、コックピットの眺めに違和感が! マイナーチェンジでもないのに、コックピットのデザインが私のID.4 プロ・ローンチエディションと大きく変わっていました。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンなど多くの輸入ブランドでは“イヤーモデル制”を採用していて、毎年のように細かい仕様変更を実施。エクステリアデザインは一緒でもパワートレインや装備が変わるというのはよくあること。この2024年モデルでは、インテリアのデザインまで様変わりしていたのです。 真っ先に気づいたのが、ダッシュボード中央にあるタッチパネルがリニューアルされていること。2022年モデルのID.4 プロ・ローンチエディションでは12インチのタッチパネルが搭載されていますが、この2024年モデルでは12.9インチにサイズアップが図られたのに加えて、デザインも一新され、明らかに使い勝手が向上していました。

NEWS TOPICS

EVヘッドライン
中国から地球上最強コスパの新星EV現る! IMモーターL6の驚くべきスペックとは
BYDの売り上げ鈍化に注目しても意味なし! むしろ心配すべきはテスラか? BYDは利益率も投資額も驚くべき水準だった
いすゞがピックアップトラック「D-MAX」にBEVを用意! バンコク国際モーターショーでワールドプレミア予定
more
ニュース
2025年末までに100店舗展開を目標に開店ラッシュが止まらない! 全国37番目となる佐賀県初のBYD正規ディーラー「BYD AUTO 佐賀」がオープン
2026年の市場投入が待たれる「Honda 0シリーズ」! 1月開催のCES2025でプロタイプカーと搭載OSなどを公開予定
横浜みなとみらい地区でユニークな実証実験を3月まで開催中! 多種多様なモビリティを大量投入した新たな実験とは
more
コラム
日本勢のEVの売れ行きをチェック! トヨタ・ホンダに比べて日産は先行きに不安アリ
EVって固いイメージあったけどこんなアソビ心あったんか! 楽しさ爽快感マシマシなEVオープンカー9選
スマホの置くだけ充電みたいなEVの駐車するだけ充電! 存在するのに普及する気配がない理由とは?
more
インタビュー
電動化でもジーリー傘下でも「ロータスらしさ」は消えない? アジア太平洋地区CEOが語るロータスの現在と未来
「EX30」に組み込まれたBEVの動的性能とは。テクニカルリーダーが語る「ボルボらしさ」
「EX30」には、さまざまな可能性を。ボルボのテクニカルリーダーが話す、初の小型BEVにあるもの
more
試乗
【試乗】CR-Vに中身を乗っけただけのプロトなのにもう凄い! ホンダの次世代BEV「0シリーズ」に期待しかない
【試乗】二度見必至の存在感は普通のコナとはまるで別モノ! イメージを大きく変えたヒョンデ・コナ「N Line」に乗って感じたマルとバツ
ボルボEX30で11時間超えの1000km走行チャレンジ! 課題は90kWまでしか受け入れない充電性能
more
イベント
外からもまる見えな全面ガラスドアも高齢化が進む地域のモビリティとして最適!? タジマの超低床グリーンスローモビリティ「NAO2」が斬新すぎた
EVはレアメタルが詰まった都市鉱山! CEATEC2024でBASC展示が提唱するサーキュラーエコノミーというバッテリーとは
畳めるバイク! 階段を上り下りできるカート! 自由な発想のEV小型モビリティが作る明るい未来を見た!!
more

PIC UP CONTENTS

デイリーランキング

過去記事一覧

月を選択