暖房方式が電費の明暗をわける
寒い冬の朝、乗り込む前にリモコンで暖房を入れて車内を暖めておけるのはEVの特権だ。エンジンをかけてアイドリングする必要もなく事前に暖房で車内を暖め、ぬくぬくの状態で乗り込むことができる。しかし、走行を開始すると状況は一変する。電力を消費するので、航続可能距離がどんどんと短くなっていく。それは仕方ないと思って諦めるしかないのだろうか。もしくは、よりよい方法で電力を温存し、消費を抑える方法はあるのだろうか?
そもそもICE(内燃機関)車はエンジンの廃熱で車内を温めるため、追加的な燃費負担はごく小さい。しかしEVは、駆動系からの廃熱がほとんど発生しないため、暖房に必要な熱エネルギーをほぼすべてバッテリーから賄う構造になっている。つまり、暖房をかけることが直接電力を消費することとなってしまうのだ。
この電力の消費が実際の航続距離へ与える影響は大きい。米国自動車協会(AAA)の調査結果によると、外気温がマイナス6.7℃の環境下において空調設備(ヒーター)を使用した場合、EVの航続距離は平均で約41%低下するという調査結果がある。空間全体を暖めるためには相応のエネルギーが必要であり、とくにPTC素子(正温度係数特性をもつセラミック)に電流を流して発熱させるPTCヒーター(正特性サーミスタ)を採用している車両では、大出力のドライヤーを車内で常にフル稼働させている状態に等しい。これがヒーターの使用によって電費が悲惨な水準まで落ち込む理由だ。
PTCヒーターによる電力消費を克服するため、現代の多くのEVでは「ヒートポンプシステム」が採用されている。ヒートポンプ方式は外気中の熱エネルギーを、冷媒を介して車内へ移動させる仕組みであるため、投入電力の2〜3倍以上の熱を生み出せる。しかし、2026年現在、すべてのEVがこのヒートポンプシステムを標準装備しているわけではない点に強く注意を喚起したい。たとえば、ホンダが展開する商用軽EVの「N-VAN e:」はヒートポンプ非搭載だ。また、一部の輸入車や国産車のエントリーグレードにおいては、車両価格や製造コストを抑える目的から、意図的にヒートポンプを省き、旧来のPTCヒーターのみを搭載している車種が存在する。
中古車に至っては、古い型式ではヒートポンプ非搭載のものがまだ数多く流通しているので注意が必要だ。テスラ・モデル3でも、モデルイヤー2021(VINの10桁目が「M」)以降から全グレードにヒートポンプが搭載されたが、それ以前の年式はヒーターのみであり、現在も中古車市場に相当数流通している。新車でもグレードや年式によってはヒートポンプを搭載しない車種が販売されているため、購入前に仕様書やオーナーズマニュアルで暖房方式を確認することを強く勧める。これを怠ると、冬場の実用航続距離がカタログスペックを大きく下まわる危険性がある。
ただし、ヒートポンプにも弱点がある。2025年に開催された第38回国際電気自動車シンポジウム(EVS38)で発表された研究論文によると、アメリカ環境保護庁(EPA)が定める、市街地走行を想定した自動車の試験サイクルでは、0℃のときはヒートポンプがPTCヒーター比15%の航続距離改善をもたらす一方、さらに低温の試験条件での改善幅は1〜5%程度に縮小することが示されている。外気温が極端に下がると外気から吸収できる熱量が減少し、両方式の効率差が縮まるためだ。極寒の地域にお住まいの方は注意したほうがいいだろう。

















































