インフラとコストが普及を妨げる最大の要因
燃料電池車は、タンクに充填された水素を酸素と反応させて発電を行い、モーターを駆動して走る。単純にいえば、水に電気を通して水素と酸素を取り出す電気分解の逆を行うメカニズムだ。
水素の製造には、いろいろな方法がある。もっとも一般的な方法は、石炭や天然ガスから水素を作るものだが、工場などで副産物として発生する水素を利用することも可能だ。また、太陽光や風力によって発電された電気を水と反応させて水素を取り出すこともできる。このような柔軟性も、水素を充填して走る燃料電池車の特徴だ。
水素充填の所用時間は、車種によっても異なるが、一般的に3分程度とされる。1回の水素充填によって走行できる距離は、トヨタMIRAI・Zの場合で約810kmだ。ちなみにBEV(エンジンを搭載しない電気自動車)は、駆動用電池に充電して走る。1回の充電で走れる距離は、bZ4XのZ・2WDは746kmとされる。充電の所用時間は、150kWの急速充電器を使って、満充電の10%から80%まで充電する場合で約28分だ。
つまり燃料電池車は、BEVに比べて1回の充電で走れる距離を伸ばしやすく、なおかつ水素充填の所用時間が少ないメリットがある。
その一方で燃料電池車の課題は、水素を充填する水素ステーションの数が圧倒的に少ないことだ。全国で稼働している商用水素ステーションは、2025年6月時点で152カ所に留まる。ガソリンスタンドは、ピークだった1994年の半数以下に減ったものの、いまでも約2万7000カ所が営業している。
つまり水素ステーションの数は給油所の0.6%だから、所有できる地域も限られてしまう。そのために2025年度上半期(4月〜9月)に新車として売られた小型/普通乗用車の内、燃料電池車の販売比率は0.01%に留まった。ハイブリッド(マイルドタイプを含む)の52%に比べると、同じ「電動車」 でも大幅に少ない。
BEVの販売比率も1.6%と少ないが、これは事情が異なる。総世帯数の60%を占める一戸建てなら自宅での充電が可能だから、普及しない理由は、車種の数が足りないためだ。逆にいえば、軽自動車などのBEVを増やせば普及も進むが、燃料電池車は水素ステーションを充実させない限り難しい。
結局のところ燃料電池車は、自宅や職場の近くに水素ステーションのあるユーザーしか実質的に所有できない。環境対応の一環として、法人が購入するケースも多い。
走行に要するコストの課題もある。水素の価格は地域によって異なるが、東京都の場合、1kg当たり2000円前後が多い。以前は1200円くらいだったが、いまは値上がりしている。
MIRAI・Zでは、1kgの水素で146kmを走れるため、1km当たりの走行コストは13.7円だ。この金額は、レギュラーガソリン価格が165円とすると、WLTCモード燃費が12km/Lの車種と同程度になる。
クラウンセダンハイブリッドZのWLTCモード燃費は18km/L(1km当たりの走行コストは9.2円だから)だから、1km当たり13.7円に達するMIRAI・Zのほうが走行コストは高い。水素の価格が高まっているいまは、損得勘定でも燃料電池車を所有しにくくなっている。



















































