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EV時代が近づいているのになぜ「合成燃料」が注目される? 課題がクリアされれば「エンジン車」に乗り続けられる未来もある!


TEXT:琴條孝詩

<EV時代における合成燃料の存在意義>

 もっとも大きいのは、既存のインフラと車両をほぼそのまま活用できること。ガソリンや軽油とほぼ同じ性質を持つため、給油はガソリンスタンドで行え、輸送もタンクローリーでこと足りる。そしてなにより、現在世界中で稼働している十数億台もの内燃機関搭載車を、乗り換えることなく脱炭素化できる可能性を秘めている。EVへの移行には、充電インフラの整備の必要性や高い車両価格というハードルをユーザーに越えてもらわなければならない。が、e-fuelはそれらを一気に飛び越えるポテンシャルをもっている。

 また、エネルギー密度の高さも特筆すべき点だ。EVの航続距離を延ばすには、重く、かさばるバッテリーを大量に搭載する必要があり、とくに大型トラックやバス、建設機械といった分野での完全電動化には技術的な壁が存在する。さらに、船舶や航空機にとって、バッテリーの重量は致命的だ。その点、e-fuelは液体であるためエネルギー密度が非常に高く、軽量かつコンパクトなタンクで大量のエネルギーを貯蔵・輸送できる。これは、電気や水素燃料ではカバーしきれない領域の脱炭素化を実現する、まさに切り札となりうるのだ。

 そして、クルマ好きにとって見逃せないのが、内燃機関という文化を未来に残せるという点だろう。効率や合理性だけでは語れない、エンジンの鼓動を感じる官能的なサウンドと振動、それらとともにクルマを操る楽しさは、自動車文化の根幹をなすものだ。e-fuelは、こうしたエンジンの魅力を維持したまま、環境性能を担保できる唯一の選択肢かもしれない。ポルシェが大規模な実証プラントを稼働させたり、日本の自動車メーカーがスーパー耐久シリーズなどモータースポーツの場で開発を進めたりしているのも、その可能性を信じているからにほかならない。

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