#電気自動車
TEXT:桃田 健史
出雲大社の周辺道路で、EV「グリスローモビリティ」の実証。フリー乗降区間もあり観光に最適

島根県の出雲市内で今、EVカートを使ったグリーンスローモビリティが走行している。自家用車やレンタカーで訪れた際の現地の足として、また観光バスや電車で来た場合の補助的な交通手段として、出雲大社周辺を巡るには最適な乗り物だと評判になっている。どんなルートを走るのか、現地で体験してみた。 グリーンスローモビリティとは? まち歩きがもっと楽しくなる!グリーンスローモビリティで出雲大社周辺巡り。 そんなキャッチコピーを掲げているのは、一般社団法人 出雲観光協会だ。 島根県の出雲市といえば、出雲大社の存在が大きい。 出雲大社の資料によれば、神の国、または神話の国として知られている、八雲立つ出雲の国。その中心にあり、大国主大神様をおまつりするのが、出雲大社である。 出雲大社へのアクセスは、自動車の場合は山陰自動車道から、また高速バスはJR出雲市駅から一畑バス。また、電車では、一畑電車大社線で出雲大社前駅へ。 自動車で来た場合、新楽殿や教務本庁(おくにがえり会館)に近い無料の大駐車場に駐車するか、または参道に向かう神門通りにある民間の有料駐車場を利用することになる。 一方で、一畑電車など公共交通を使って来た場合、出雲大社の周辺移動は、観光タクシー、空港連絡バス、そして路線バスなどと徒歩移動をうまく組み合わせる必要がある。 そこで、出雲観光協会では、出雲大社周辺に巡りやすいルートを設定し、そこにグリーンスローモビリティを走らせる実証実験を行うことになった。 車両は、ヤマハ製のゴルフカートを一部改良したもの。 グローンスローモビリティは、ゴルフ場などで活用されているカートを公道で走行させるもの。最高速度は時速19kmと、乗用車に比べるとスローであり、またEVであることで排気ガスがなく、走行音も静かであることから、明確な定義はないが、総称としてグリーンスローモビリティという。国土交通省も、この呼称を用いて地域交通のひとつの手段として様々な交通関連施策に盛り込んでいる。 フリー乗降区間も設定 今回の実証試験の運行コースは、大きく2つ。 ひとつは、大社行政センターから参道に向かう神門通りを抜け、途中に出雲大社駅、有料駐車場がある神門通り広場、参道前の勢溜に止まり、そこから海側への神迎の道を行く。 稲佐の浜で折り返して同じルートで大社行政センターまで戻る。 もうひとつは、参道の東側にある古代出雲歴史博物館と稲佐の浜を往復するルートだ。 いずれも、朝から夕方まで1時間の間隔で走行。参道の入口からだと、2つのルートが重なるため、稲佐の浜までは30分間隔で運行することになる。 また、興味深いのは、神迎の道など、ルートの一部をフリー乗降区間としており、利用者の希望した場所でグリーンスローモビリティを乗降りできる点だ。 料金は1乗車あたり400円。 運行日は9月15日から11月13日の、金・土・日・月のみ。10月9日と29日は運休。 出雲市では、今回の実証試験の成果を検証して、今後の対応を検討していくことになるだろう。

TAG: #EV #国内ビジネス #電気自動車
TEXT:御堀 直嗣
欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか?:知って役立つEV知識・基礎の基礎/御堀 直嗣 第14回

EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。 日本市場参入が遅かった欧州製EV 日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。 日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。 ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。 以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。 くじかれたディーゼル重視路線 欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。 対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。 既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。 ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。

TAG: #EV #EV知識・基礎の基礎 #御堀 直嗣 #電気自動車
北米でのホンダBEV戦略についての説明。筆者撮影
TEXT:桃田 健史
未だホンダBEV戦略ロードマップの詳細見えず。24年発売アキュラ「ZDX」でGM協業スタートするも、ホンダ独自専用BEVプラットフォームとの”すみわけ”は?

未だにホンダBEV戦略の実態が見えてこない。GM協業「アルティウム」とホンダ独自のBEV専用プラットフォームとの“すみわけ”はどうなるのか。また、日本でのBEVシフトに対してコンサバ過ぎる印象もある。ホンダのBEVはこれからどこに向かうのか? アメリカ市場最優先は当然の流れ ホンダのアメリカ現地法人のアメリカン・ホンダモーターが2023年8月18日、米カリフォルニア州モントレーで開催された「モントレー・カー・ウィーク」で、アキュラブランド初のBEVとなる「ZDX(ゼィーディーエックス」量産モデルを発表した。北米での発売は2024年初頭の予定。最高出力500馬力の「ZDX タイプS」も合わせて公開した。 そのほか、アメリカでは「ZDX」の兄弟車である、ホンダ「プロローグ」も2024年に発売される。 日本には現状で、アキュラブランドを展開する計画についてホンダは明らかにしておらず、「ZDX」が日本で販売される可能性は低いものと考えられる。また「プロローグ」についても北米市場向けとなる見込みだ。 周知の通り、ホンダのグローバル事業はアメリカ市場への依存度が高い。 そのアメリカでは、バイデン大統領が2021年8月に2035年に向けた自動車の電動化に関する大統領令を発令。次いで、2022年8月にはIRA(インフレ抑制法)が上下院で可決された。IRAによって、BEVの国内生産やBEV関連部品の調達についてアメリカ国内外からの投資を促す形となっている。 ホンダのみならず、日系メーカー各社の幹部は「グローバルで見た時、直近で最も重要なのはIRAへの対応」と本音を漏らす。 そもそもアメリカ市場を重視する必要があるホンダとしては、アメリカでの急激なBEVシフトに必死で食らいついていく必要があると言える。 そのため、オハイオ州メアリズビル工場とアンナ・エンジン工場、そしてジョージア州内のトランスミッション工場でのBEVシフトに向けた工場再編に着手しているところだ。

TAG: #ホンダ #電気自動車
TEXT:烏山 大輔
電動モビリティシステム専門職大学が8月26日土曜日にオープンキャンパスを開催

電動モビリティシステム専門職大学は、電気自動車と自動運転に特化したカリキュラムで、日本のみならず世界で活躍できるエンジニアの輩出を目指す大学だ。学生は、卒業時に学士(専門職)の資格を得ることができる。 今回のオープンキャンパスでは、下記のように様々なプログラムが実施される。 模擬講義 同学ならではの、電池、自動運転、モーター・インバーターなどの各領域について、それぞれの担当教授から、どんなことが学べるのか講義内容の紹介がある。 研究室見学 リチウムイオン電池の研究・開発に必要な全ての機器を備える同学の研究室を特別開放。各分野のプロフェッショナルである講師に直接質問もできる。 イベント 電動ミニカート試乗体験会、3D CAD操作体験会、二輪走行ロボットの制御方法が学べるロボット探求学修を実施する。 講演会 自動運転のソフトウェアを開発するスタートアップ企業であるティアフォアのCEO兼CTOの加藤 真平氏による講演会を開催する。 この他にも入試説明会や個別相談会、キャンパスツアーも行われる。最寄りの赤湯駅からの無料送迎バスも用意されている。 日本でも2035年にガソリン車の販売が禁止され、ハイブリッド車やPHEV、BEV(バッテリー電気自動車)、FCEV(燃料電池車)などにシフトしていく。自動運転についても今年4月にレベル4が解禁になった。今後は無人バスの社会実装など、同学で習得できるスキルはこれからの世界で必要とされるものだ。 電動化や自動運転の分野のトップランナーである現役の講師陣から学べる意義はとても大きい。これからの電動モビリティを創造する側で活躍したいと志す人は、ぜひこのオープンキャンパスに行って、自分の夢に近づいて欲しい。

TAG: #専門職大学 #自動運転 #電気自動車
ロールス・ロイス スペクターのフロントビュー
TEXT:小川フミオ
ロールス・ロイスはEV時代もスペックを語らない。CEOが語るスペクターが目指した「あるべき姿」

ロールス・ロイスはかつて、エンジンパワーをことさらに語らず「必要にして十分」とのみ記していた。今回、スペクターについてのインタビューでも、CEOはほとんど数字について触れることはなかった。電気自動車の時代になっても、彼らは彼らの流儀を守り続ける。その事実は、そんなところにも表れているようだ。 リリースに時間がかかった理由 ロールス・ロイスのBEV「スペクター」が登場するまでに、意外なほど長い時間がかかった、といえるかもしれない。 他社が次々とBEVを発表するのを横目に見ながら、満を持してのお披露目が2022年10月。そしてジャーナリストに試乗の機会が提供されたのが2023年7月。 「時間がかかったのは認めます。理由は、私たちがやるからには、完璧なモデルを出したかったからです。BEVの研究は、すでに知っているひとも多いと思いますが、10年以上にわたって続けてきました。そこでついに、ということです」 ロールス・ロイス・モーター・カーズのトルステン・ミュラー=エトヴェシュCEOは語る。スペクターはセグメントで初のBEVであるのも事実。なのでそう慌てる必要もなかったと続ける。じっくりと完璧をめざす。それがロールス・ロイスの姿勢というのだ。 いっぽう、ロールス・ロイスのBEVは、ドライブトレインをBMW「i7」と共用するというグループ内の計画に沿ったタイミングもあったのでは、と推測される。 ただし、あまりに皆がi7との共通点を質問するので、一度はロールス・ロイス側から、商品(スペクター)説明に先立って「みなさんは2台がじつは同じクルマなんじゃないかと聞きたいかもしれないですが(間を置いて)まったく異なったクルマです」と前置きしたこともあったと聞く。 スペクターは(i7と異なり)アルミニウムの押出し材を使ったスペースフレーム構造を採用する。ロールス・ロイスが「アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリー」と呼ぶものだ。設計の自由度は高く、2030年までにラインナップを電動化するというロールス・ロイスの計画に適したものという。 「スペクターを皮切りに、これから、BEVモデルが出てきます。そのときも、ロールス・ロイス車のポリシーともいえる、エフォートレスドライビングやマジックカーペットライドは守ります。先に進みながらもヘリティッジを大切にする。このポリシーで作る未来のBEVは、デザインは新しいかもしれません。でも誰が乗ってもすぐに、ロールス・ロイスだ、とわかるモデルになっていくはずです」 数字よりも大切なこと インタビューをしていて、私がおもしろいなと思ったのは、ほとんど数字が出てこないことだ。バッテリー容量の話もないし、航続距離や加速性能の自慢もない。 CO2排出量を含めた地球環境保全のことは、すこし触れられたが、話題の内容は、もうすこし漠然とした“ロールス・ロイスらしさ”について。ただし別の面からみれば、モーターやバッテリーの性能よりも広い視野に立った、クルマづくりのポリシーの話である。 「私たちは数字のことを語りませんね。数字をどうこういうブランドではないのです。私たちにとって重要なのは“フィーリング”を伝えて、それを理解してもらうこと。具体的に語るのは難しいテーマなのは承知しています。作る側としては、からだに染みついたフィーリングで、乗ってもらうと、すぐに私たちの意図をわかっていただけるのです」 ミュラー=エトヴェシュCEOは、どう説明したらいいのだろうと一瞬思ったのか、ちょっとじれったそうに、そう言いながら、笑顔を見せる。たしかに「数字よりもフィーリングだ」なんて堂々と言える自動車メーカーが、ほかにどれだけあるだろうか。 「電動化してもロールス・ロイスらしさを守るには、きちんとした設計が必要です。私たちは、いまのカリナンやゴーストを電動化することはありません。これから登場するロールス・ロイスのBEVは、まったく新しいものです」 新しい、でも、伝統的。こういう興味深い命題を抱えながら製品づくりをするところが、まさにロールス・ロイスなのだろう。

TAG: #EV #スペクター #ロールス・ロイス #電気自動車
ロールス・ロイス スペクターのフロントビュー
TEXT:小川フミオ
誰が乗ってもロールス・ロイスと感じるEVが出来た理由。CEOが語るスペクターが目指した「あるべき姿」

ロールス・ロイス「スペクター」は、電気自動車だからといって、これまでのICE車と大きくかけ離れたデザインや仕掛けは与えられていない。なぜなら、グッドウッドから送り出すべきは、斬新なEVではなく、あくまでロールス・ロイスであるべきだから。同社CEOはそう語る。 ロールス・ロイスならではの開発要件 「ロールス・ロイスが手がけるBEVは、いかにもBEVでございというデザインである必要はありません」 そう語るのは、ロールス・ロイス・モーター・カーズのトルステン・ミュラー=エトヴェシュCEOだ。最初はシリコンバレーも候補地だったけれど、顧客のライフスタイルとの相性がよりよい場所にしようと選ばれたというプレミアムワインの産地、ナパバレーでの試乗会でのインタビューにおける発言だ。 スタイルしかり、とミュラー=エトヴェシュCEOは続ける。 「BEVを開発しようと決定してから私の頭のなかにずっとあったイメージは、乗るひとに感動してもらえるスタイルがほしい、ということでした。そこでワーミング(デザイン統括)とディスカッションし、美しいファストバックのクーペこそ、ロールス・ロイス初のBEVにふさわしい、と決めました」 クーペ(本来はホイールベースを短く切り詰めた、という意味)といっても、きちんと4人の大人が乗れるパッケージングは重要というのも、スペクター開発当初からの要件だった。 ロールス・ロイスの調査によると、顧客の多くは、パーソナルな雰囲気の強いクーペを好んでも、それでも友人たちと4人でレストランに出かけるなどのスタイルを送れるクルマを欲しがっているそうだ。 顧客に提供したいロールス・ロイス像とは、よく書かれているように、従来からロールス・ロイスが大事にしてきた特徴を、きちんと備えているものだったそうだ。 「ロールス・ロイスでは、いくつもの要件があります。力の要らない操縦性であるエフォートレスドライビング、飛んでいるように路面からの衝撃を受けず、そして静かなマジックカーペットライド、それにワフタビリティと私たちが呼ぶ静かな水面を進んでいくような乗り心地とか。これらを、スペクターも継承するのが、私が開発陣に対して出した条件です」 目指したのはICE車と同じフィーリング 結果は、まさにミュラー=エトヴェシュCEOの要望どおりに仕上がった。スペクターがBEVと知らされないまま運転する機会をもったロールス・ロイス車のオーナーがいたとしたら、操縦性になんの違和感も抱かないにちがいない。 「開発総責任者を務めてくれたドクター・アヨウビは、私が何を求めているか、最初に“BEVを作ることになったよ”と電話したときに、すぐ理解してくれたようです。私のなかにも、彼のなかにも、もはやロールス・ロイス車のフィーリングが染みついていて、なので、何度もテスト車の試乗を繰り返すなかで、お互いの言いたいことはすぐにわかったんです」 とくにBEVは、エンジン車と車体構造が異なるし、重心位置もちがう。スペクターに乗った瞬間に驚くのは、102kWhもの大容量のプリズム型バッテリーのパックを搭載しているはずなのに、床面は低く、サイドシルも低いこと。従来のICEのロールス・ロイスそのままなのだ。 「同じような乗り心地を実現することに彼は苦労していましたが、どんどんよくなっていって、それに感心しました。私が欲しいものを彼はちゃんと与えてくれる。私たちは言ってみれば、魂でつながる兄弟みたいだなあと思いました」 Vol. 3につづく

TAG: #EV #スペクター #ロールス・ロイス #電気自動車
ロールス・ロイス スペクターのフロントビュー
TEXT:小川フミオ
ロールス・ロイスがEV開発でも貫く独自の流儀とは。CEOが語るスペクターが目指した「あるべき姿」

ロールス・ロイス初のピュアEV「Spectre(スペクター)」。大容量のバッテリーと2基のモーターを搭載した4シータークーペは、電気自動車であることよりも、「ロールス・ロイスであること」を念頭に開発されたという。V12で走ろうと、電気で走ろうと、我々は変わらない−−その揺るぎない信条の源泉を、同社CEOが語る。 熱心なファンを失望させたくない ロールス・ロイスが2023年7月に米国でジャーナリスト向けの試乗会を開催したBEV「スペクター」。注目点は、「ロールス・ロイスであることが第一で、BEVであることはその次」であったこと。 発言の主は、ロールス・ロイス・モーター・カーズを率いるトルステン・ミュラー=エトヴェシュCEO。2010年からロールス・ロイスを率いている、いってみれば「ミスターRR」だ。 ロールス・ロイス以前の経歴をみると、BMWグループでの経験が長い。1989年にBMWに入社し、バイスプレジデントを経て、2000年からミニのブランド戦略と製品マネージメントをディレクターとして統括。2004年にBMWに戻り、シニアバイスプレジデントとして、製品マネージメントやアフターセールスを担当していた。 2022年10月に英国南部グッドウッドにあるロールス・ロイス・モーター・カーズ本社で、ジャーナリスト向けにスペクターのお披露目があったのだが、そこで私がミュラー=エトヴェシュCEOにインタビューしたところ、やはり「ロールス・ロイスであることを念頭に開発している」との発言があった。 「13年間、ロールス・ロイスにいて、ロールス・ロイスの熱心なファンである顧客と接しているうちに、自分のなかで“ロールス・ロイスとはなにか”という概念が形成されていきました」 グッドウッド本社を、新旧のロールス・ロイスに乗った顧客たちが訪ねてくることは少なくないそう。個人的訪問であり、ちょっとロールス・ロイスについて話したいんだけど、と会話が始まるんだとか。 顧客の意見をたいへん大切にしています、とのフレーズが、発言のところどころに出てくるのは、そういうわけだろう。 「熱心なファンを失望させたくない、という思いは強くありました。電気化しても、従来のV12エンジン搭載車と同じ運転感覚をもつ、というのは、じつは大変なことです」 電気自動車「らしさ」は不必要 今回、プレミアムワインで知られるナパバレーの試乗コースのなかにコーヒーストップもあった。駐車場にスペクターを停めると、わらわらっと米国人が駆け寄ってくる。 たいてい笑顔で、「これが電気で走るロールス・ロイスですね」と話しかけてくる。みんなよく知ってるなあと逆にこちらが感心するほどだ。 ビバリーヒルズのロデオドライブで乗ったら、かなり注目されるであろうことを請け合いますよ、とミュラー=エトヴェシュCEOは笑顔で言う。 「お披露目したとき、顧客はみな、誰もが乗りたがりました。でもそのときは、見せられるクルマは1台だけ。顧客はそれを知っていますから、運転席に腰をおろして、“納車が待ちきれないよ”って言うんです。ただ、その時点で、本当にこれがロールス・ロイスのBEVなのか、って確認されました」 ロールス・ロイス初の量産BEVであり、すべてが新しいと知っているひとは多くても、見た目は他のブランドのBEVのような特別感がない。BMWのたとえば新型5シリーズにおけるBEVモデル「i5」のほうが、よほど特別な雰囲気がある。 乗りこんでも、同様。あえてBEVらしいデザインなんてない。そここそ、ミュラー=エトヴェシュCEOが口を酸っぱくして、開発スタッフに説いた目的だったのだそうだ。 Vol. 2へつづく

TAG: #EV #スペクター #ロールス・ロイス #電気自動車
TEXT:烏山 大輔
関西のEVユーザーは伊丹空港利用がオススメ!184基もの充電用コンセントを使って満充電で帰ろう!

関西には伊丹空港(大阪国際空港、大阪府豊中市)の他にも、関西国際空港(大阪府泉南群)、神戸空港(兵庫県神戸市)と3つの空港が揃っている。どの空港からでも国内線に搭乗できるが、EVユーザーは184基もの充電用コンセントが設置される伊丹空港がオススメだ。 この充電用コンセントの設置は、ユビ電が実施する。2024初頭に設置工事が完了し、サービス開始の予定だ。国内で最大規模のEV充電設備を備えた空港になる。 コンセントの出力は3kWだが、空港は駐車しておく時間が長いと思われるので、ほとんどのEVが満充電になる可能性がある。例えば107.8kWhものバッテリーを搭載するメルセデス・ベンツEQS SUVでも36時間で満充電になる計算なので、一泊二日以上の旅行であれば、満充電で帰路につける。 充電用コンセントは、ユビ電が提供している「WeCharge」アプリでコンセントにあるQRコードをスキャンすれば、充電から料金清算までを完結できる。 充電用コンセントが設置されるのは下記の2つの駐車場だ。 北立体駐車場① 3F 駐車場予約サービス 84区画 南立体駐車場 2F 駐車場予約サービス 100区画 ※コンセントを利用するには駐車場の予約と200V対応の充電ケーブルが必要。 EVの基礎充電は、自宅や宿泊先が基本だったが、少なくても数時間、中には数日は停めたままになることもあり得る空港で、クルマを置いている間に100%まで充電できるのはとてもありがたいサービスだ。今後も同様の動きが全国に広まることを願う。

TAG: #伊丹空港 #充電 #電気自動車
ロールス・ロイス スペクターのフロントビュー
TEXT:小川フミオ
ロールス・ロイスのEV第1弾は国内価格4800万円から。スペクター海外試乗記

ロールス・ロイスの最新EV、「Spectre」(スペクター)は、パンテオングリルやスピリット・オブ・エクスタシーといったアイコンを継承している。とはいえ、0.25というCD値を達成するべく、空力を重視した造形へと進化しているという。守るべきは守り、変えるべきは変える。どんな時代にあってもベスト・オブ・ベストをユーザーへ提供するという彼らの姿勢が、スペクターにも明確に現れているようだ。 フライングレディも“空力仕様”に ロールス・ロイスはこれまで、ローマの神殿を模した「パンテオングリル」を大きく掲げたフロントマスクを特徴としてきた。「スペクター」は、過去最大のワイドさというパンテオングリルを備えるが、空力設計がなされている。 なにしろ、最終的に目標となった空気抵抗値は0.25(実現できた)。そのため、パンテオングリルも徹底的に空力的に考え抜かれた。縦のバーはすべて閉じられ、パンテオンの屋根にあたる部分は面とりをして、空気の剥離も追求されている。 室内のボタンで格納が操作できるラジエターマスコット、スピリット・オブ・エクスタシーの造型も、空力を考えてやり直されている。 「とにかく重要なのは、トリニティ(三位一体の意)。スピリット・オブ・エクスタシーと、バッジ・オブ・オナー(RRのエンブレム)と、パンテオングリル。ロールス・ロイスはこれだけはずっと守っていきます」 デザインディレクターのデンマーク人、アンダース・ワーミング氏の言葉だ。 「ロールス・ロイスのデザインにおいて、もうひとつ重要なのは、ディスティンクティブであること。つまり、他と違っていて、誰が見ても、ロールス・ロイスとわかるかたちです」 その一方で、ワーミング氏のチームは、「ファントム・クーペ」のような過去のクーペモデルに通じるプロポーションをなぞっている。車体と車輪の位置関係、短いフロントオーバーハング、長めのリアオーバーハング。ずっと続くテーマが今回も採用されているのだ。 日本での販売価格は4,800万円から オーナーのためにはビスポーク(特別注文)プログラムが用意されていて、1台と同じロールス・ロイスは路上にない、とまで言われるほど、オーナーは思い思いの仕様を注文することができる。 並行して、スペクターには、「スターライトドア」なる新しいオプションが用意された。ロールス・ロイスのオプションとしてこれまで、天井に星座をLEDで表現する「スターライト・ヘッドライナー」が採用されているが、さらに追加で車内を宇宙空間のようにすることができる。 身長180cmでも余裕で座っていられる後席空間が、上記の「星座」を楽しむ最適の場所だ。 700kgに及ぶ重量の大容量バッテリーのおかげで、航続距離は530kmを実現する。スペクターで長距離ドライブをしながら、暗くなってきたら車内でも星座が楽しめる。新しいかたちのインカー(車内)・エンタテインメントだ。 日本での価格は4,800万円から。さきに触れたとおり、ビスポークプログラムの内容は豊富なようなので、それを楽しむ手もある。BEV化しても、ロールス・ロイスは変わっていない。改めて思い知らせてくれるのだった。 <完> ロールス・ロイス スペクター 全長:5,475mm 全幅:2,144mm 全高:1,573mm ホイールベース:3,210mm 車両重量:2,890kg 乗車定員:4名 交流電力量消費率:23.6-22.2kWh/100km(WLTCモード) 一充電走行距離:530km(WLTCモード) 最高出力:430kW(585ps) 最大トルク:900Nm(91.8kgm) バッテリー総電力量:102kWh モーター数:前1基、後1基 駆動方式:AWD 車両本体価格:4,800万円

TAG: #EV #スペクター #ロールス・ロイス #試乗 #電気自動車
ロールス・ロイス スペクターのフロントビュー。ドア開
TEXT:小川フミオ
ロールス・ロイスの最新EVはゴーストを思わせる乗り味。「スペクター」海外試乗記

ロールス・ロイスが送り出した最新のピュアEV、「Spectre」(スペクター)は、ゴーストの運転感覚に近い。米ナパバレーで開かれた試乗会に参加した著者はそう評する。電気で走るようになっても、グッドウッド流の巧みな“しつけ”により、ベスト・オブ・ベストな乗車体験をもたらす、まごうことなきロールス・ロイスに仕上がっているようだ。 ワンペダル走行も可能 ロールス・ロイスは、「スペクター」について、面白いことを言っている。「BEVを作ろうと思って開発したのでなく、ロールス・ロイスの新型車を作ろうと思ったのが、順番です」 トルステン・ミュラー=エトヴェシュCEOの言葉だ。 ただし、読者の方もご存知と思うけれど、ロールス・ロイスといっても、いまはモデルレンジが広い。ショファードリブンの「ファントム エクステンデッドホイールベース」もあれば、SUVの「カリナン」も。 スペクターの運転感覚が近いかなと思ったのは、「ゴースト」だ。サスペンション設計においては、見えない一点から車両が吊り下げられているイメージで設定するスカイフック理論が、ゴースト同様、「プラナー」サスペンションをフロントに持つスペクターに採用されている。 ドライビングする感覚は(車重はスペクターのほうが300kg以上重いが)ゴーストを思い出させた。大きさに関係なくカーブを曲がっていくのも、意外なほど楽しいのだ。 米国とはいえ、山岳路はわりと幅が狭く、車体全幅が2,144mmのスペクターだとやや緊張する。けれど、後輪操舵も適度に作用してくれているのだろう、すぐに操縦感覚は自分の手のものになる。 軽い操舵感覚だけれど、エンジニアリング統括のドクター・アヨウビが「路面からの情報はしっかり伝わるようにした」と言うとおり、どんな道でも不安はまったくなかった。 変速機には回生ブレーキを使ってワンペダル走行ができる「Brakeモード」ボタンが設けられている。ぱっとアクセルペダルを離すと、かなり強めの効きを示す。 カーブが連続する道ではBrakeモードは使いやすい場面もある。アクセルペダルをどれだけ戻して回生ブレーキを効かせるかは、慣れるしかない。下り坂では車重ゆえの慣性重量もあって、最初はやや緊張した。が、それもすぐ慣れた。 プリズム型バッテリーを採用 走行中の電気のフロー、つまり電力が前後モーターにどれぐらい振り分けられているかを、車内モニターでチェックできるかということについて、試乗のとき英国から来ていたロールス・ロイスのスタッフに確認したが、どうもうまく行かず(「見られない」という回答だった)。全輪駆動システムの視認はできなかった。 使っているバッテリーは、プリズムタイプ。四角柱を敷き詰めてある。セルをモジュール化してパックにいれ、それをシャシーに載せるという設計は、従来と同じだ。 プリズムタイプは、「BMW i7」と同様。BMWでは、発売を計画中のBEVプラットフォーム「ノイエクラッセ」(昔の1500シリーズのとき使われた名称を復活させた)において、円筒形タイプを使うとしている。 なぜ、円筒形とプリズムの両方? それをドクター・アヨウビに確認すると、「スペースの関係で」という答えだった。 「スペクターは、フロア高がうんと低いというのが設計要件だったし、側面衝突の安全性を考慮すると、一定のスペースが必要となるため、プリズム型を採用したのです。将来のことを今は言えません。ソリッドステートバッテリーを含めて、どれが最適か、市場で見ていくことになるでしょう」 Vol. 4へ続く ロールス・ロイス スペクター 全長:5,475mm 全幅:2,144mm 全高:1,573mm ホイールベース:3,210mm 車両重量:2,890kg 乗車定員:4名 交流電力量消費率:23.6-22.2kWh/100km(WLTCモード) 一充電走行距離:530km(WLTCモード) 最高出力:430kW(585ps) 最大トルク:900Nm(91.8kgm) バッテリー総電力量:102kWh モーター数:前1基、後1基 駆動方式:AWD 車両本体価格:4,800万円

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