EV社会の実現はいいことばかりじゃない
<社会の脱炭素化にどれだけ貢献するのか?>
すべてがEVになればCO2排出量の低減を期待する方もいるだろうが、問題はそう簡単ではない。重要なのは、電力の脱炭素化との連動性である。京都大学の研究によると、すべての自動車をEVに置き換えるだけでは、現状の発電構成のままではCO2排出量の大幅な削減は見込めず、発電システムを再生可能エネルギーに移行することと組み合わせて初めて、CO2排出量を約2割削減できるという試算が示されている。EVが「走る環境装置」になるためには、発電側の脱炭素化が前提条件なのだ。

とはいえ、全車EV化は都市の空気を根本的に変える可能性をもっている。EVは走行中にCO2のほか、NOx(窒素酸化物)やPM(粒子状物質)も排出しないため、長年、呼吸器疾患のリスク因子として問題視されてきた排気ガスが都市の道路から消える。これはとくに交通量の多い都市中心部において、大気環境の劇的な改善と公衆衛生上のメリットをもたらすと期待される。
<変わる生活習慣と産業構造>
生活習慣の面では、燃料補給がスタンドへ足を運ぶ行為から自宅や職場での充電へと変わることで、時間的なコストは大幅に下がる。ただし、長距離移動においては、充電に要する時間や充電スポットの偏在が利便性の課題となる。自然エネルギー財団のレポートは、EV普及の加速には充電インフラの量的・質的拡充が不可欠であることを指摘しており、インフラ整備の遅れが普及のボトルネックとなり得ることは変わっていない。しかし、今後の技術革新によって、充電速度や電池容量が飛躍的に向上すればこの問題も解決する。

もちろんよいことばかりではない。内燃機関を中心に構築されてきた自動車産業のエコシステムは、全車EV化によって根本から変わる。エンジンや変速機などの駆動系部品の点数が大幅に削減されるEVでは、従来型の部品メーカーや整備業界の事業モデルが通用しなくなる。みずほ銀行の産業調査によると、自動車の電動化は部品点数の削減を通じて既存のサプライチェーンを大幅に再編させ、とりわけ内燃機関関連の部品製造業に対して構造的な打撃をもたらすと分析されている。
すべてのクルマがEVになる世界は技術の話である以上に、エネルギー・インフラ・産業政策が一体となって動いて初めて実現する社会変革だ。これを非現実的だと切り捨てるのはたやすい。“夢物語”に思えるかもしれないが、夢ではなく、政策と技術革新によって「目標」にすることで、世界がよりよい方向に向かいうるのもまた現実なのである。



















































