すべてのクルマがEVになったら何が起こる?
もしすべてのクルマがEVになれば、私たちが最初に変化を感じるのは、道路まわりの空気と音の質である。交通量の多い幹線道路や住宅街では「走るたびに排気ガスを出す移動体」が消える。さらに、内燃機関をもたないEVは、エンジン由来の騒音や振動がないため、都市の音環境も一変する。幹線道路沿いであっても、タイヤのロードノイズや風切り音以外の騒音が低減され、居住環境の静粛性は飛躍的に向上する。
国際エネルギー機関(IEA)が発表した「Global EV Outlook 2025」によると、2025年の全世界におけるEVの年間販売台数は2000万台を超え、世界の全自動車販売台数の25%以上を占めると予測され、英調査会社ベンチマーク(Benchmark Mineral Intelligence)によると約2070万台に達したことが報告されている。すでに自動車の電動化は例外ではなく主流化の入り口に立っている段階なのだ。さらに同報告によると、2024年末時点の世界のEV保有台数は約5800万台で、これだけで日量130万バレル超の石油消費を削減・代替したという。

つまり、「すべてのクルマがEV」という世界は、環境問題にとどまらず、エネルギー政策・産業構造・生活習慣のすべてを巻き込む社会的大変革になる。経済産業省は、2035年までに国内新車販売をBEVやPHEV、HVなどの電動車100%にする方針を掲げているが、その先にはすべてのクルマがエンジンをもたないBEVになる未来図も見えてくる。
<日本全国に数千万台規模の移動可能な大容量蓄電池がある世界>
すべての乗用車がEVに置き換わるということは、現在ガソリンという形で消費しているエネルギーを、すべて電力として供給し直すことを意味する。電気事業法に基づく認可法人である電力広域的運営推進機関(OCCTO)は、EV普及シナリオを考慮した将来の電力需要想定を公表しており、EVの急速な普及が電力系統に対して大きな追加需要を生む可能性があることを示している。現在、日本の乗用車は約6000万台あるが、それらがすべてEVになった場合、電力需要は現在より1〜2割程度増えると試算されている。

問題は需要量の絶対値だけでなく、夜間帯への充電集中による負荷集中リスクもある。これを緩和するためには、V2H(Vehicle to Home)やV2G(Vehicle to Grid)技術によるスマートな充放電管理の普及と、それを支える電力系統側の整備が不可欠だ。しかし、整備が進めば日本全国に数千万台規模の「潜在的な大容量蓄電池」が存在することになる。
そうなれば、再生可能エネルギーの主力電源化に伴う電力網の不安定化という課題を大幅に緩和できる。太陽光発電や風力発電は天候条件によって発電量が激しく変動するが、発電量が需要を上まわる時間帯には、全国に駐車されているEVが一斉に充電を行って余剰電力を吸収することができる。逆に電力需要のピーク時には、EVから電力系統へ放電する。

つまり、EVが電力の需給バランスを調整するデマンドレスポンスの要となる。我々の日常生活の視点では、EVは単に電力を消費するだけでなく、電力需給の安定化に貢献し、新たな経済的価値を生み出す存在になるのだ。さらに、自然災害に伴う広域停電時にも、各家庭や地域のEVが非常用電源として機能することで、数日間の生活電力を自立的に確保できる強靭なマイクログリッドが形成される。



















































