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EVを蓄電池代わりにして電気代を浮かして得する……のは不可能!V2Hに経済的なメリットを求めるのは間違いだった


TEXT:山本 晋也
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EVのバッテリーを住宅につなぐ「V2H」

EVから余った電力を自宅に供給することを「V2H」という。

 

 

簡単にいうと、グリッド(電線)からの電力を使わずに、EVのバッテリーに溜めてある電力で家電などを動かそうという仕組みといえる。

太陽光発電を設置しているのであれば、蓄電池を設置して電力消費を抑えるという手段もあるが、定置型蓄電池の代わりにEVのバッテリーを利用することで、蓄電池ぶんのコストを抑えつつ、電気代も抑えてしまおうというソリューションだ。

 

なお、日本国内で流通しているV2H機器は、急速充電CHAdeMOを利用してEVとつなぐ設計となっているものがほとんどすべてといった状況だ。そのため、CHAdeMOに対応していない一部のEVではV2Hを利用できないという現実もある。

それはともかく、V2Hを導入すると、果たしてどれほどオトクになるのだろうか。

現状での結論は、「保険としての役割を無視すると金銭的メリットが大きいとはいいがたい」といったものになる。

 

というのも、V2H機器の設置には工賃を含めて100万円以上のコストがかかることが多い。EV購入時の補助として知られるCEV補助金にはV2Hシステム向けの補助金もあり、それを利用すると機器代と工賃に対して、最大45万円の補助金が期待できる(過去の実績であり現時点では未発表。詳細はhttps://www.cev-pc.or.jp/hojo/v2h_contact.html)。

 

地方自治体によっては、さらに多額の補助金が支給されることもある。たとえば、東京都の場合であれば自己負担は20万~80万円ほどになると試算されている。

 

日常的なコストで損得勘定をすべきではない

 

 

最新のV2H機器であれば、そのあたりも考慮した設定になっているというが、長期的な使用においてバッテリー劣化につながる負担がまったくないとは思えない。実際、初期にV2Hを採用したユーザーの口コミ情報を見ていると、バッテリー劣化が想定以上に進んだという声もあるようだ。

 

このほか、日常的に実感できるV2Hを導入するメリットは充電時間が短くなることだろう。前半で、V2H機器とEVはCHAdeMO(急速充電)でつなぐことを紹介したが、その関係もあってV2H機器からEVを充電する場合の出力は6kWとなっている。

 

車両に付属する普通充電ケーブルを使った充電は通常3kWであるので、V2Hを使えば日常的な充電時間が半分になるのだ。もっとも、最近では6kWの普通充電器を備えるケースも増えている。6kW普通充電に対応しているEVであれば、V2Hだから速く充電できるとはいえないのも事実だ。

 

ちなみに、充電設備を設置する予算感は、3kW普通充電に対応するEV専用コンセントの設置で10万~15万円、6kW普通充電器の設置で20万~30万円といったイメージになる。6kWで充電したいだけであればV2Hを導入するよりも、6kW普通充電器を設置したほうが、はるかにコストパフォーマンスが高い。

 

もちろん、V2Hを導入する狙いの多くは「自然災害や大規模停電が起きたときに安心安全な生活を送るため」であり、そうした保険的な価値は日常的なコストで損得勘定をすべきではない。災害などでV2Hを使わずに済めば、それに越したことはないともいえる。

 

ネットで見かける都市伝説エピソードとして、「消防隊員に1億円のはしご車は元が取れているのかと聞いたら、『火事が起きずに出動しないこと(1億円の機材を使わないこと)が理想です』と答えた」という話もあるが、V2Hも同様の感覚で導入すべきであろう。

 

万が一、天災や停電が起きたときに命が助かるようなことがあれば、どれほどコストをかけたとしても“元が取れる”ことになるのは間違いないのだから。

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