コラム
share:

<第14回>欧州メーカーはなぜ電気自動車に走ったのか? | 知って役立つEV知識・基礎の基礎 御堀 直嗣 


TEXT:TET 編集部
TAG:

欧州がEVの積極導入に至った背景

こうして欧州メーカーはディーゼルに代わるものとしてEVを選ばざるを得なくなった。当時はまだ、動力源となるリチウムイオン・バッテリーの原価は高いとされ、量産さえ十分な見通しが立たない状況だったが、欧州各自動車メーカーは、やむを得ずEVへ舵を切った。そして、米国テスラが打ち出した“ギガファクトリー”と名付けるような大規模なバッテリー工場の建設に、各自動車メーカーやバッテリーメーカーなどが力を注ぐようになっていく。

EVの積極導入の背景にあったもうひとつは、欧州各国政府や自治体によるエンジン車規制への動きである。
2000年前まで、ディーゼルといえば、小型か商用車を中心とした原動機だった。しかし、ハイブリッドではなくディーゼルターボでCO2排出量を減らそうとした欧州の自動車メーカーが、高級車や高性能車にまでディーゼルターボを適用していくことにより、都市の大気汚染が悪化したのである。ロンドンやパリの街が、スモッグで覆われた写真が世界へ配信された。

新車販売の半数以上がディーゼル車となれば、ガソリン車に比べ排出ガス浄化性能で劣るディーゼル車の大気汚染への影響が拡大したのは当然だ。日本でも、クリーンディーゼルと呼ばれ販売されるディーゼル車の排出ガス性能は、規制値を満たしていても、数値はガソリン車より劣る。
各国の動きに並行し、EU(ヨーロッパ連合)も2035年にはハイブリッド車を含むエンジン車の販売を禁じることにした。

この措置については、昨2022年、一部についてはエンジン車も認める方針転換をしたとの報道があった。だが、それにはe-fuel(イー・フューエル)を前提とする条件が付く。そのe-fuelは、量産技術さえまだ確立しておらず、燃料価格も定かではない。それでも、欧州には、ドイツのポルシェをはじめ、イタリアのフェラーリやランボルギーニ、英国のマクラーレンやロータスなどスポーツカーメーカーがあり、それらがすべてEVにできるかどうか、それは製造の問題だけでなく、運転の醍醐味も含めどこまで実現できるかの見通しはまだなく、一部の救済措置といった意味でしかない。

先日来日した、メルセデス・ベンツのオラ・ケレニウス会長は、「乗用車はEVが一番の選択肢である」と明言した。ガソリンエンジン自動車の祖であり、高級車だけでなく、Aクラスのような小型車も販売するメルセデス・ベンツからの発言は、重みをもつ。
こうして、欧州の自動車メーカーはEVへ舵を切り、先行する米国テスラや中国メーカーと雌雄を決する覚悟となったのである。

課題が積み重なったEV開発

一方、欧州でのEV化に偏りがあるのも事実だ。
急速なEVへの移行を強行したため、まだバッテリー原価が下がりきらない段階での車種構成は、高級車や高性能車が主体となる傾向にある。C02排出量規制が2021年にはじまっているため、もともと燃費の悪かった上級車種のEV化が優先されたこともあるだろう。
それによって、大量のバッテリーを車載しなければ航続距離が見込めず、その対処として、超急速充電器の設置が急がれている。ところが、高電圧かつ大電流を駆動用バッテリーが受け入れるため、あらかじめバッテリー温度を上げておく必要が出て、これがバッテリー劣化を早める原因になると懸念されている。

また、EV後の駆動用バッテリーの二次利用についても、開発が進んでいない。したがって、ある時点で急に廃棄バッテリーが増え、資源の無駄遣いや環境負荷を逆に高めてしまうことも想定される。
欧州市場での消費者目線では、価格の高い車種ばかりのEV化が目立ち、一般消費者の買えるEVの選択肢が限られるといった状況もある。日本の「日産サクラ」や「三菱eKクロスEV」に相当する選択肢を設けることができていないのだ。

20世紀にドイツのアウトバーンなどを指標として発展を遂げた高性能化という価値としては、欧州のEVが一気に名乗りを上げたといえそうだ。

しかし、そのEV化は、急ぐあまりまだ地に足がついていないというのが実態だろう。EVはエンジン車と違うという原点を見極められなければ、適切なEV社会は訪れないのである。

<第15回>本当に日本はEVで「立ち遅れた」のか | 知って役立つEV知識・基礎の基礎 御堀 直嗣

TAG:

PHOTO GALLERY

NEWS TOPICS

EVヘッドライン
日本に何が起こった? BEVが売れない……ハズが2025年10月は電気自動車が売れまくっていた
エンジンサウンドが聞こえてシフトショックも感じられるEVが超進化! ヒョンデ「IONIQ 5 N」がマイナーチェンジ
60年もの不動車がバッテリー交換だけで走り出した! EVの長期保管はエンジン車よりも簡単!!
more
ニュース
老舗のヤナセがついに軽EVを売る! 「ヤナセEVスクエア」がBYDとディーラー契約し2026年夏横浜に店舗をオープン
日本にも来春やってくる韓国Kiaの商用EVバンが快挙達成! 「PV5」がアジアメーカー初の「インターナショナル・バン・オブ・ザ・イヤー」を満場一致で受賞
2025年度でもっとも優れた輸入車は日本で唯一の電動ミニバン! フォルクスワーゲンID.BUZZが「2025-2026日本カー・オブ・ザ・イヤー」で二冠に輝く
more
コラム
EVを効率的に使うなら裏技をマスター! オーナーが語る「得する」運用方法3つ
自動車業界100年に1度の変革期! ジュネーブショーの消滅にフランクフルトでの開催終了から考えるモーターショーの意義とは
BYDはPHEVでも価格勝負! 補助金なしで400万円切りのBYDシーライオン6は国産車のライバルになるのか中身を比べてみた
more
インタビュー
「BMWの核はセダン」。「i5」での表現は、BEV世代のセダンの在り方を示している。
「i5」の造形を、BMWエクステリア・デザイン責任者がディテールから語る
BMW「i5」はビジネスアスリート!プロダクトマネージャーが語る5シリーズ初BEVの背景
more
試乗
【試乗】速さはスーパースポーツ並! AWD技術も完成の域! アウディS6スポーツバックe-tronに望むのは「感性に訴えかける走り」のみ
【試乗】いい意味で「EVを強調しない」乗り味! 本格4WDモデルも用意される期待のニューモデル「スズキeビターラ」に最速試乗
マイチェンで名前まで変わった「アウディQ8 e-tron」ってどんな車? [Q8 e-tron試乗記]
more
イベント
軽自動車市場参入を表明したBYDの軽EVはスライドドアのスーパーハイトワゴン!? 注目モデルが目白押しなジャパンモビリティショー2025のBYDブースは要注目
三菱自動車、東京オートサロンに2台のカスタムEVを展示
more

PIC UP CONTENTS

デイリーランキング

過去記事一覧

月を選択