
欧州がEVの積極導入に至った背景
こうして欧州メーカーはディーゼルに代わるものとしてEVを選ばざるを得なくなった。当時はまだ、動力源となるリチウムイオン・バッテリーの原価は高いとされ、量産さえ十分な見通しが立たない状況だったが、欧州各自動車メーカーは、やむを得ずEVへ舵を切った。そして、米国テスラが打ち出した“ギガファクトリー”と名付けるような大規模なバッテリー工場の建設に、各自動車メーカーやバッテリーメーカーなどが力を注ぐようになっていく。
EVの積極導入の背景にあったもうひとつは、欧州各国政府や自治体によるエンジン車規制への動きである。
2000年前まで、ディーゼルといえば、小型か商用車を中心とした原動機だった。しかし、ハイブリッドではなくディーゼルターボでCO2排出量を減らそうとした欧州の自動車メーカーが、高級車や高性能車にまでディーゼルターボを適用していくことにより、都市の大気汚染が悪化したのである。ロンドンやパリの街が、スモッグで覆われた写真が世界へ配信された。
新車販売の半数以上がディーゼル車となれば、ガソリン車に比べ排出ガス浄化性能で劣るディーゼル車の大気汚染への影響が拡大したのは当然だ。日本でも、クリーンディーゼルと呼ばれ販売されるディーゼル車の排出ガス性能は、規制値を満たしていても、数値はガソリン車より劣る。
各国の動きに並行し、EU(ヨーロッパ連合)も2035年にはハイブリッド車を含むエンジン車の販売を禁じることにした。
この措置については、昨2022年、一部についてはエンジン車も認める方針転換をしたとの報道があった。だが、それにはe-fuel(イー・フューエル)を前提とする条件が付く。そのe-fuelは、量産技術さえまだ確立しておらず、燃料価格も定かではない。それでも、欧州には、ドイツのポルシェをはじめ、イタリアのフェラーリやランボルギーニ、英国のマクラーレンやロータスなどスポーツカーメーカーがあり、それらがすべてEVにできるかどうか、それは製造の問題だけでなく、運転の醍醐味も含めどこまで実現できるかの見通しはまだなく、一部の救済措置といった意味でしかない。
先日来日した、メルセデス・ベンツのオラ・ケレニウス会長は、「乗用車はEVが一番の選択肢である」と明言した。ガソリンエンジン自動車の祖であり、高級車だけでなく、Aクラスのような小型車も販売するメルセデス・ベンツからの発言は、重みをもつ。
こうして、欧州の自動車メーカーはEVへ舵を切り、先行する米国テスラや中国メーカーと雌雄を決する覚悟となったのである。

課題が積み重なったEV開発
一方、欧州でのEV化に偏りがあるのも事実だ。
急速なEVへの移行を強行したため、まだバッテリー原価が下がりきらない段階での車種構成は、高級車や高性能車が主体となる傾向にある。C02排出量規制が2021年にはじまっているため、もともと燃費の悪かった上級車種のEV化が優先されたこともあるだろう。
それによって、大量のバッテリーを車載しなければ航続距離が見込めず、その対処として、超急速充電器の設置が急がれている。ところが、高電圧かつ大電流を駆動用バッテリーが受け入れるため、あらかじめバッテリー温度を上げておく必要が出て、これがバッテリー劣化を早める原因になると懸念されている。
また、EV後の駆動用バッテリーの二次利用についても、開発が進んでいない。したがって、ある時点で急に廃棄バッテリーが増え、資源の無駄遣いや環境負荷を逆に高めてしまうことも想定される。
欧州市場での消費者目線では、価格の高い車種ばかりのEV化が目立ち、一般消費者の買えるEVの選択肢が限られるといった状況もある。日本の「日産サクラ」や「三菱eKクロスEV」に相当する選択肢を設けることができていないのだ。
20世紀にドイツのアウトバーンなどを指標として発展を遂げた高性能化という価値としては、欧州のEVが一気に名乗りを上げたといえそうだ。
しかし、そのEV化は、急ぐあまりまだ地に足がついていないというのが実態だろう。EVはエンジン車と違うという原点を見極められなければ、適切なEV社会は訪れないのである。













































