国家規模でEV導入を推進したノルウェー
EVは踊り場。ここ1〜2年で、そんな表現をよく聞く。とくに日米欧で、当初期待していたほどEV市場が拡大しないことを指す。
たとえば、2024年実績を見ると、欧州全体では15.4%で前年からほぼ横ばい、アメリカは8.1%で微増、そして日本の普通乗用車では1.35%と減少傾向にある状況だ。
そうしたなかで、EV普及率が92%と突出しているのが北欧のノルウェーだ。背景には何があるのだろうか。
もっとも大きな理由は、国による積極的なEV普及策がある。そう聞くと、日本でもカーボンニュートラルを目指してさまざまなEV普及施策を打っているので、いったいノルウェーが何をしているのか興味をもつ人がいるだろう。
決め手は、電力を作る方法にある。ノルウェーの発電構成の約9割が水力発電で残りが風力発電となり、再生可能エネルギーがほぼ100%なのだ。このまま極端な電力構成をもつ国や地域はほかにない。つまり、カーボンニュートラルを考えるうえで重視されるLCA(ライフサイクルアセスメント)の観点で、EVにもっとも適した国だといえる。
自動車におけるLCAでは、発電、燃料の原料の採掘、部品を製造・輸送、完成車製造・輸送、販売、ユーザーによる利用、廃棄といった、クルマの一生でCO2排出量を考慮する。そのうえで、EVが移動するためのエネルギーとして電気を使う場合、日本のように火力発電が約7割では、LCAにおけるカーボンニュートラルが通用しにくい。こうした事情から、日本の自動車メーカーでつくる業界団体である日本自動車工業会(自工会)では、国や地域によってEV、ハイブリッド車、PHEV、FCEV、カーボンニュートラル燃料などを使いわける「マルチパスウェイ」構想を掲げており、それを日本市場にも適用しているところだ。
ノルウェーでは、こうしたマルチパスウェイを第一に考える必要性が低いといえるだろう。さらに、ノルウェー近海は、いわゆる北海油田があり、原油の採掘が盛んである。ノルウェーは自国では原油の利用を抑えて、海外への販売で外貨を稼ぎ、自国でのエネルギーは再生可能エネルギー由来にするという戦略だ。
EVをノルウェー国内で使いやすくできるように、充電インフラを拡充し、また普及促進策として駐車場や道路での優先利用などを推進してきた。また、一般家庭で200V以上の電源をもっていることも、ノルウェーでのEV普及のプラス要因になったという見方もある。
いずれにしても、ノルウェーはエネルギー安全保障の面で特殊な立ち位置にあることで、EV普及率が極めて高いといえる。