高性能EVならば自宅でも急速充電がほしい
大容量バッテリーを搭載するEVを所有するのであれば、自宅にも急速充電器を設置したいところであるが、現状では設置するのは難しいと言わざるをえない。
現在、日本国内で発売されているEVは、3kWもしくは6kWの普通充電に対応しており、充電コネクターはSAE J1772という国際規格で統一されている(テスラを除く)。3kWは専用のコンセントタイプ、6kWは壁掛けなどの専用充電器を用いるというスタイルが標準的だ。
現在、普及している急速充電器は50~150kWといった出力をもっている。それと比べると、3〜6kWの普通充電というのは心もとない印象を受けるかもしれない。それでも、軽自動車やコンパクトクラスのEVであれば、バッテリー総電力量は30~50kWh程度。6kWの普通充電であっても、5~8時間ほどでエンプティに近い状態からバッテリーを満充電までもっていくことはできる。
しかしながら、中大型クラスのEVでは、100kWhに迫るバッテリーを積んでいることも珍しくない。たとえば、メルセデス・ベンツのフラッグシップEVである「EQS」の場合、搭載するバッテリー総電力量は118kWhとなっている。6kWの普通充電を使っても、電池残量10%から100%まで充電するのには20時間もかかってしまう。
もっとも、100%から10%までバッテリーを使おうと思ったら、600km以上は走行する計算になる。現実的には、毎日使ったぶんだけ普通充電で足していくといった運用をするだろうから、20時間も普通充電器につないでおくのはレアケースだろう。
それでも、大型EVのオーナーであれば、自宅に急速充電器があれば、もっと便利で気軽にEVライフが送れるのに……と考えるのは自然なことだ。はたして、個人宅に急速充電器を設置することは可能なのだろうか。
自宅での急速充電への道は遠い
結論からいえば、「不可能ではないが、現実的ではない」となる。
それは、普通充電器より急速充電器が圧倒的に高価というだけではない。急速充電器を設置するための条件が厳しいのだ。たとえば、日本の電気事業法では「10kW以上の電気工作物(今回のテーマでは充電器)を設置する者は電気主任技術者を選任しなければならない」とされている。
一般家庭で用いられる普通充電器は最大6kWであり、200Vの低圧で受電しているため、電気主任技術者による監督は不要となるが、一般家庭であっても、10kWを超える急速充電器を設置しようとすると、上記の法規による義務を満たす必要がある。
さらに、急速充電器の設置において、ほとんどの場合においてキュービクル(受変電設備)が必要となる。
キュービクルの設置にはさまざまな条件や義務が生じるが、たとえば「建物からキュービクルまで3mの距離を確保する」という基準がある。広大な敷地に建つお屋敷であれば、この条件を満たすことは可能だろうが、通常の個人宅で隣家までの距離も考慮すると、この基準を満たすことはかなり難しいだろう。
というわけで、電気主任技術者の選任義務やキュービクル設置に関する条件を満たすことを考えると、自宅に急速充電器を設置することは、“急速充電器の価格を無視した”としても非現実的といえるのだ。
冒頭でテスラを除き最大6kWの普通充電に対応といった旨を記したが、テスラについては家庭用の充電システムとして独自に「ウォールコネクター」を用意している。テスラ独自のコネクター規格に対応した普通充電器と理解できるものだが、その最大出力は9.6kWとなっている。事実上、日本の法規に対応した最大パワーの普通充電器といえる。
また、日本とは法規や規格の異なる欧州では、普通充電は最大11kWとなっていることが多い。グローバル基準でみると、ジャパンスタンダードである6kWの普通充電は低出力であり、大容量バッテリーを積んだEVが増えていくなかで力不足といえる。
家庭で急速充電を利用するには、電気主任技術者の選任やキュービクルの設置などハードルが高く、現実的ではないのは理解できる。しかし、大容量バッテリーを搭載するEVが増えてきている昨今、標準的な普通充電の最大出力を法規ギリギリの10kW未満までパワーアップするような変化は求められているだろう。
EVを利用するために必須の充電インフラについて、自宅での普通充電を「基礎充電」として活用すべきことは多くのEVユーザーが理解しているだろう。だからこそ、中大型EVの利便性を上げる普通充電の出力アップについて、社会的に議論するべき時期といえそうだ。
山本晋也












































